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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第七章 DAY BREAK
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 携帯が鳴った。美怜だ。

「もしもし、美怜どーしたの?」

 さつきは取材が終わり、後片付けをしながら言った。

「さつき、今何処にいんの?」

「取材で新宿にいるよ。もう終わったけど。」

「そう、私、今銀座まで出てきてんだけどたまには一緒に食事しない?」

 美怜が言う。

「うん・・・いいよ。」

 

 ほんとは柊とこれから食事に行こうと言っていたとこだったけど、思わずOKしてしまった。

 

「柊くん一緒だけど、いい?」

「もちろんよー。デートのとこ悪いけど、たまには私にも付き合ってね。」

「だからデートじゃないって・・・」

「じゃあどーする?ねえ、久しぶりに、吉兆のおでん、食べたくない?」

「食べた-い!じゃ、吉兆で待ち合わせよ。」

「うん、じゃね。」

 さつきは電話を切った。

 

「柊くん、美怜から電話あって、一緒に食事する事になっちゃった。いいよね?」

 勝手に約束してしまった事が彼に悪くて、少し気が引けながら言った。

「いいよ。」

 柊はニッコリと微笑んだ。

「よかった。柊くんなら、いいって言ってくれると思った。あのね、おでん、好き?」

「うん。」

「そ、じゃあおでんの美味しい店で待ち合わせたから、行こう。」

 さつきは笑顔でそう言った。

 

 

 

 吉兆は、私と美怜が昔から通っているこじんまりとした居酒屋さん。

 おでんの他にも、色々な料理を出してくれる。昔かたぎのオジさんが作っているおでんがサイコーだ。美怜の方が先に来ていて、私たちが入っていくと元気に手を振って、私達を迎えた。

 

「ほい、さつきちゃん、久しぶり!元気にしてたかい?」

 オジさんが気さくに声を掛けてくる。ここに来るのはかれこれ1年振りだ

「オジさんの顔思い出して恋しくなって来ちゃった。ねー美怜。」

「そーそー、今同じ事しゃべってたとこ。」

 私達は笑った。

「うす。」

「あら柊くん久しぶり~。相変わらずいい男ね~。」

 美怜が変な口調で言う。

「やめなよ、オバさんくさい。」

 私がツッコむ。

「あらいいじゃな~い、どうせほっといたってオバサンになっちゃうんだも~ん。」

 美怜ちゃん、身も蓋もないって・・・

 

 私達は好きなものをあれこれと頼み、楽しいひと時を過ごしていた。

「・・・でね、彼のお母さんのみさこさんがほんとに気さくで豪快で・・・面白い人なんだあ。あんたにそっくりなの、性格。今、友達してんの。ねー柊くん。」

「うん。」

「ふーん、なんかおもしろいキャラみたいね・・・今度あわせてよ。」

 美怜が言う。

「うん、あんたとなら、気があいそー。」

「そうだな。でもお袋、美怜さんに会えるって言ったらすんごい事になりそう、ああ見えて結構ミーハーだから。」

「それに、ある意味すんごい事になりそう。」

「たしかに。」

 私達は笑った。

 

「そーいえば明日の取材、朝一なんだよね。何処で待ち合わせる?横浜だから・・・」

「じゃあ俺さつきさん拾ってくよ、車で。」

「いいわよ。遠回りになっちゃうじゃない。こっちも電車か車で行くわ。」

「いいよ、朝一なんだから。電車混んでるし、二台で行くより一台で行った方がいいだろ。さつきさんの運転、おぼつかねーし。」

「なによ、それ。」

「とにかく明日はおれが迎えに行くから、ね。」

「わかった。」

 

「ちょっと、二人の世界に入っちゃってるとこ悪いんだけど、あたしもいるのよ。」

 美怜がニヤニヤしながら毒づいた。

「なによ、ちょっと仕事の話しただけじゃない。ね、柊くん。」

「うん。」

 そう言いながら、柊がさつきを見る目はとても優しい。

「キャーもう!あたしも彼に会いたくなっちゃった~。」

 美怜がイヤンイヤンしながら言う。その時柊の携帯が鳴った。

「俺、ちょっと外で話してくる。」

 そういって、彼は店を出て行った。

 

「さつき、変わったね。明るくなった。」

 美怜が柊が席を立つと急に穏やかな表情で話し出した。

「そう?」

「うん。愛されてる女って、綺麗になるモンね。」

 頬杖を付いて、しみじみと言っている。

「何それ?」

「えー、柊くんよ。なんか彼、包容力がついたって言うか、大人になったって言うか、とにかくすごく雰囲気変わったね。穏やかな眼でさつきの事見ててさー。

 あんたのわがまま全部聞いちゃうぞって感じじゃん。

 それに、甘えられる人がいてくれるっていいでしょ?さつき。」

「なによ、私が彼に甘えてるって言いたいの?」

「うん。だって甘えてるじゃん。どっちが年上だか解かんないよ見てて。」

「そんな事・・・」

「いいんだよ、それで。あんたは彼の優しさに包まれて、笑顔取り戻してる。

 自分でそれに気付いてる?嬉しいよ、見てて。

 彼はあんたを受け止めてくれる人じゃん。

 あんなに優しい眼差しであんたを見守ってくれてるんだから。」

 美怜のその言葉に、さつきは何も言えなくなってしまった。

 

 確かに私は、知らず知らずのうちに 彼に甘えていたのかもしれない。

 彼はいつだって微笑んで、私の傍にいてくれる。見守ってくれてる。

 彼の優しい笑顔と眼差し、彼の持つ雰囲気は、私にとってとても安心できる場所なっていた。だけど・・・

「だけど怖いんだ・・・」

 さつきはポツリと言った。

「そうねぇ・・・あんたの気持ちも解かるけど、自分の背中、押してやんなよ。

 思い切ってやってみれば、案外簡単な事なのかもしれないよ。」

 

 

 

 

 ◇        ◇         ◇

 

 

 

 

 あの日、美怜に言われた事を私はずっと考えていた。

 

 『あんたは彼の優しさに包まれて笑顔取り戻してる。自分でそれに気付いてる?』

 

 よくよく考えてみると、全くその通りだ。彼の笑顔にひきずられて、私も微笑んでしまう。彼が何でも受け止めてくれるから、どんどん心を許してる。

 私の日常は、彼で一杯になってる。彼がいる事が、当たり前になってる。

 彼といると、辛い事も忘れられる。彼との時間に安息を見出している・・・

 何より、彼の澄んだ瞳に、すい込まれそうになる。

 あの、穏やかで優しい視線に、心震わせずには、いられない。

 

 私は、彼が好きなんだろうか?

 

 好きは好き。だけどそれは、愛なんだろうか・・・

 彼が私を想ってくれてる気持ちと、同じものなんだろうか・・・

 あそこまで自分を想ってくれる彼の気持ちに、応えてあげられたらと思う事もない訳じゃない。だって彼の優しさに、心打たれている事も、事実だから。

 だけど、それは愛というよりは、情のような気もする。

 正直な所、私はこのままがいい・・・このままで十分・・・

 これ以上のことなんて、望んではいない。

 だけどそれじゃ、私をあきらめないと言ってくれた彼の気持ちに対して、あまりに身勝手な気がする。彼の気持ちの深さを知っているからこそ余計に自分のわがままで、彼をいつまでもだらだらと付き合わせる訳には行かない。

 彼はあの後、それらしいことは何も言わないし、ただ微笑んで傍にいてくれてるけど、彼の気持ちは痛いほど解かってる・・・

 見ているこっちが切なくなるぐらい・・・

 だけど、耕作さん以外の人を好きになるという事に、抵抗を感じずにはいられない。

 そんな事、無理な気もする・・・

 

 っていうか、怖いんだ。また誰かを好きになって、その人をどんな形にせよ、失うのが怖いんだ。

 

 だったらこのままずっと、独りで立っている方がいい・・・

 誰かなしでは生きていけなくなるより、最初から独りでいるほうが、いい・・・

 誰かにすがって、甘えて、弱くなってしまうのが怖い・・・

 

 若かった私・・・耕作さんと、ずっと一緒にいられると、信じて疑わなかった私・・・

 あまりに無邪気すぎた私・・・あの人を、頼りすぎていた私・・・

 もうあの頃のようには、人を愛せない・・・

 やっと独りで立っていられるようになったんだもの・・・

 誰かを愛したら、その人をいつ失ってしまうかと、絶えず不安に怯えながら、生きなくちゃいけなくなる・・・

 そんなの、耐えられるはず、ない・・・

 あの人の死は、私をあまりにも臆病にしてしまった。

 背中など、押してやれるはずもない・・・そんな簡単な事じゃ・・・ない。

 

 このままじゃ、いられないな・・・

 そんなの、あまりにずるい気がする。

 

 柊くん・・・

 それでも柊を思うと、胸が痛む。

 でも、その痛みの訳を、さつきは解かりたくなかった。

 複雑な想いの中で、ただただ揺れていた。


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