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俺の理性はもろくも崩れ去った。
俺は、衝動を抑えきれず、彼女を抱き寄せ、キスしてしまった。
誰かをこんなにも激しく欲した事なんか、今まであっただろうか・・・
彼女は少し抵抗している。
だけど、俺の情熱は止まらない。
あなたを本当に愛している。あなたの全てを・・・どうしてもあなたが欲しい。
彼女の力が少しずつ抜けていく。俺はその心地いい重みをしっかりと抱き止め、口づけを繰り返した。
さつきさん、あなたの全てを、俺に預けて欲しい。
あなたのその寂しさも心のキズも全て。
俺の胸に、飛び込んできて欲しい。俺はあなたの全てを受け止めたい。
その自信は、ある。
あなたの全てを包み込んでしまいたい。俺の全てで、埋め尽くしてしまいたい・・・
あなたの心の痛みの身代わりにはなれないけど、傍にいる事は、出来る・・・
彼女との口づけはあまりに官能的で、俺は自分の衝動にブレーキをかける事など出来なかった。
がっついちゃダメだ・・・頭では解かっている・・・・・
俺は彼女のブラウスのボタンに手をかけた。
一つ・・・二つ・・・ボタンを外していく。彼女の柔らかな素肌が、あらわになっていく・・・
その時、「ピンポーン」インターホンが鳴った。
「柊くん・・・誰か・・・きてるよ・・・」
彼女が口づけの合間に言う。
「いいよそんなの・・・ほっとけば・・・」
俺は口づけを繰り返す。「ピンポーン、ピンポーン」
んだよしつけーなぁ、今すごくいいとこなんだよ・・・
「ピンポーン、ドンドン柊いないの~。」
え?お袋の声だ。
「柊~いないの~。ねえ、柊~。」
「やべえ、お袋だ。」
「え?そうなの?」
俺達はあわてた。
「私、どっかに隠れようか?」
さつきさんがブラウスのボタンをはめながらあわてている。
その姿って、なんかすんげぇかわいい。
「いいよ。このままで。」俺は少し笑って玄関へと急いだ。
「今開けるよ。」
俺は玄関を開けた。
「なんだ柊、いたんじゃないの~。」
お袋は、膨れっ面しながら入ってきた。クツをぬごうと下に視線を落す。
そこにはさつきさんのクツ。
「なんだ柊、彼女来てんの?」
お袋は興味津々って顔で俺を見た。
「ん・・・まぁ・・・」
お袋は、子供の俺が言うのもなんだがすごく若く見える。もう45にもなるってのにスラッとしててスタイル抜群。
体にピッタリとフィットしたジーパンやTシャツを平気で着こなす。薄化粧でもそこそこイケてる。
どう見たって35,6位にしか見えねえ。
そして性格もハチャメチャ。嵐のような女だ。
お袋は、すごい勢いで部屋へと入っていった。
「どうも初めまして。水野さつきです。」
さつきさんが引きつった笑顔で言う。
「あら、初めまして。柊の母です。柊がいつもお世話になってます。」
お袋がニコニコと言う。・・・なんだちゃんと母親らしい事言えんじゃん。
「ずいぶんキレイな人ね。見たところ、柊より年上に見えるけど・・・失礼ですけど歳、いくつ?」
お袋・・・やっぱ飛ばしてる・・・
「29です。」
さつきさんはさらに引きつりながら答える。
「あら、じゃあ柊より4つ年上なのね。」
「はい・・・」
そう言って、髪をかき上げた彼女の指に、お袋の目が止まった。
「結婚指輪!柊、あんた不倫してんの?」
お袋の血相が見る見る変わる。
「ちがうよ、彼女は・・・」
「すみません。私、違うんです。私、柊さんとは別に、お付き合いしてる訳ではありませんから。それに、主人は4年前に他界してるんです。」
さつきさんが俺の言葉をさえぎって、そう言った。
その口調は、落ち着きを取り戻している。
そりゃそーだけどよ・・・確かに・・・
「あら・・・そうなの・・・ゴメンなさい。じゃあ何で、こんな時間に柊の部屋に居るの?」
お袋・・・そのキョ-レツさって・・・やっぱただのオバサンだぜ。
「あ、すみません、私、同じ出版社で働いている水野と申します。」
彼女は名刺をお袋に渡した。お袋は黙ってそれを見ている。
「柊さんとは仕事で今、コンビ組んでやらせていただいてます。今もちょうど取材の帰りで・・・ちょっと写真をチェックしにお邪魔してました。」
キビキビと言うあなたの口調って・・・大人だな。
俺はスラスラと話す彼女を見て、落ち込んだ。
そりゃ確かにそうだけどさぁ・・・さっきまであんな事、してたじゃんよ~!!
「それよりお袋、急に来て何の用だよ。」
俺は、お袋に聞いた。
「ちょっと聞いてよ~パパッたらさ~」
「さつきさん、なんか飲みモン出して。」
俺は彼女を優しく見つめてそう言った。
さっきの心地いい余韻が、まだ唇に残ってる。
お袋の怒涛のような愚痴なんか聞くより、あなたを見つめていたいよ。
あーあ、ったく・・・いつもの事だけど急に来やがってお袋・・・
あのまんま行けば、アツ~イとろけるような夜が待ってたかもしれないってのに・・・
俺はお茶を入れるさつきさんを見つめていた。
「ちょっと柊!聞いてんの?」
お袋が、眉間にしわを寄せて言っている。
「あ、ああ。」
「どうぞ。」
さつきさんがお茶を出す。
「サンキュ。」
俺の視線は彼女から離れない。
「アーっもう、やってらんない!ビールないの?柊。」
お袋がダダッ子みたいに言う。さつきさんが気を利かせてスッと立ち、冷蔵庫を見る。
「切らしてるみたい・・・私、買ってくるわ。」
彼女が言う。
「いいの!柊、あんたが行ってきな。女の人をこんな夜に1人で外に行かせちゃだめよ、危ないんだから。」
「ああ。」
俺は立ち上がった。
「いいわよ、私、行ってくる。」
「いいよ。俺が行ってくるから。」
優しく声を掛け、俺は部屋を後にした。
だけどお袋とさつきさん、二人だけにしておいて良かったのかな・・・
いいわけねーよな・・・
きっとさつきさん、お袋の餌食になっちまう・・・
俺は急いでビールを買いに走った。




