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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第六章 why・・・?
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3

 今日は彼の命日。もう、4年になるんだね。私、あなたと同い年になっちゃったよ・・・さつきは、彼のお墓に静かに手を合わせた。

 お墓参りは嫌い。だって、彼が死んでしまったって事、思い知らされるから・・・

 

「さつきさん、毎年、ありがとうね。」

 耕作の母秀子が、やんわりと微笑みながらさつきに言った。

「いいえ、妻ですから、当然です。」

 きっぱりと言うさつきを見て、秀子は彼女がまだ、息子を引きずっている事を確信し、悲しい気持ちにならずにはいられない。

 こうして会うのは久しぶりだ。

 耕作が亡くなってしばらくは、ちょこちょこと会っていたけれど、最近では、故意に会わないようにしていた。

 息子が死んでしまった以上、彼女をこの家に縛るのは、やってはいけないことだと思っていた。

 それに、彼女にも、新しい人生をやり直して欲しいと、願ってもいた。

 彼女に新しい幸せを掴んで欲しいと・・・

 

「あの子が死んで、4年も経ってしまったわねぇ。」

 

 秀子は遠くを見つめていった。二人は墓地の一角の、見晴らしのいい所に佇んでいた。耕作の父徳治は、お坊さんと話しこんでいる。

 

「そうですね・・・」

「さつきさん、お仕事の方は頑張っているの?」

「はい、相変わらず忙しくしてます。すみません。ご無沙汰しちゃって。」

「いいのよ、そんなの。そう・・・それは良かったわ・・・。ねえさつきさん、どうか、気を悪くなさらないで聞いてちょうだいね。」

 

 秀子は穏やかな口調で切り出した。

 酷な事を言おうとしている。独りぼっちのさつきに。

 その事は痛いほど解かっている。でも、彼女を立ち直らせるためには、

 そうしなければならない。

 秀子は覚悟を決めた。

 

「何ですか?」

「ええ・・・あの子が死んでもう4年。そろそろ水野の姓を、外された方がいいんじゃないかしら。」

「どうしてですか?私が水野を名乗ってちゃ、いけませんか?」

 さつきは必死になって言っている。

「いいえ、ちがうのよ。ちがうの・・・あなたまだ若いんだし、いつまでも、あの子に縛られて生きてちゃ、いけないと思うのよ。」

「そんな、お義母さま!私、今でもあの人を愛しています。これからだって、ずっと・・・」

「でもねさつきさん、あの子はもう、あなたになんにもしてやれないのよ」

 

 その目はすごく、穏やかだ。

 

「そんな事・・・」

「私ね、考えたの。あの子が今、天国で何を考えているかしらってね・・・

 自分の死に苦しんで、前を向けないあなたを見て、きっと悲しんでると思うわ。

 あなたが心配で、成仏出来てないかも・・・」

 秀子はクスッと笑った。

「だからね、さつきさん、もう、あの子を自由にしてやってね・・・そしてあなたも、新しい人生を見つけなさいな。

 いつまでも、あの子に縛られていてはダメよ。あなたは生きてるんだから。」

 秀子は静かに締めくくった。

「お義母さま・・・」

 さつきはこみ上げる涙を抑える事が出来なかった。

 

 何で?何でみんなして、同じ事言うの?

 私、生きていたくなんかないよ。

 いつまでも、耕作さんを想っていたいよ・・・そう誓ったんだもん・・・

 なのに・・・耕作さん、あなたは今、どう思ってるの?

 私はあなたを、縛っているの?耕作さん、耕作さん・・・教えてよ・・・

 

 

 

 

 日曜日、さつきは飯田の退院祝いで、彼の家に招かれていた。

 綾子がしきりに、料理の支度をあれこれとしている。手伝いをしようと台所へ行きかけたさつきに、

「お前は今日は俺の相手をしろ。」

 と、飯田がビールを注いだ。

 

「飯田さんダメじゃないビール飲んじゃ。退院してきたばっかりでしょ?」

 さつきは言った。

「いいのよ。今日だけね。さつきちゃん来てるから。昨日もおとといも、我慢したのよ。」

 綾子が、気さくに笑う。

「そーいうこった。お前も飲め!」

「だから私、そんな飲めないって・・・」

 フフッ・・・耕作の義母に言われた事にすごく落ち込んでいたさつきは、この何気ない、でも温かな雰囲気にホッとしていた。

 

「俺が居なくたって、ちゃんと仕事出来たみてーだな。」

 飯田がビールを飲みながら言う。

「なぁに、それ?」

 さつきはお酌をする。

「苑田から聞いたんだ。お前はちゃんと仕事こなしてたって。」

 

 ああ、柊くん・・・ね・・・

 

「俺の写真じゃなくたって、何の違和感も無く仕事出来ただろ?」

 そういえば・・・そうだ。

「うん・・・」

「お前もそろそろ、俺を卒業しねーとな・・・」

「なによそれ・・・」

 飯田は勝手に何かを悟ったような顔をしている。

「そいでほんとの意味で、立ち直んね-とダメだ・・・」

「・・・」

「いつまでも過去の思い出にしがみ付いてちゃ、ダメだ。

 ちゃんと前をみて、生きていかなくちゃ・・・

 俺だっていつまでもお前と一緒に仕事が出来る訳じゃねえ。お前はお前の力で、きちんと歩いて行かなくちゃ・・・そうだろ、さつき。

 それにお前がいつまでも過去を引きずって生きてたんじゃ、耕作さんだって浮かばれねーってモンだぜ」

「何よそれ・・・何よ・・・なんで?みんなして同じような事言って・・・そんなに耕作さんを忘れなきゃいけないの?私が忘れたら、彼が生きてた証がなくなっちゃうじゃない!」

 さつきは声を荒げた。

 

 何でみんな同じ事を言うんだろう・・・

 

「そうじゃねえ、そうじゃねえぞ、さつき。

 耕作さんを心の中から消しちまえって言ってるわけじゃねえ。ただ、もうその思い出だけにしがみ付いて生きてちゃダメだって事だ。」

「わかってる!そんな事、わかってる・・・だけど・・・だからってどうしろって言うの?どうにもできないよ・・・怖くて・・・不安で・・・」

 さつきは涙をボロボロとこぼした。

 

「さつきちゃん、私は女だから、あなたの気持ち、よく解かるわ。だけど怖がってたんじゃ、何も始まらない。」

 綾子が割って入ってきた。

「始めたくなんかないよ・・・」

「わかる。でも、始めなくちゃダメよ。それが生きてる人の、責任ってもんだわ。20数年しか生きられなかった耕作さんの分まで、幸せになる責任が、あなたにはあるのよ。」

 綾子がめずらしく、きっぱりとした口調でそういった。

「幸せになって、耕作さんを安心させてあげなさいな。」

 さつきは返す言葉が見つからなかった。見つからなかったって言うより

 涙が止まらなくて止まらなくて・・・声を上げて泣いた。

 

 わかってる・・・わかってるの・・・このままじゃいけないことなんて・・・

 だからって、この気持ちを、やり場のないこの心を、悲しみをどうしろっていうんだろう・・・

 この、ぽっかりと空いた心の穴を、他の何でも埋める事なんて出来はしないって言うのに・・・

 

 耕作さん、どうしてあなたはもう、いないんだろう・・・


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