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俺はこの間の取材の写真を渡すため、オフィスに来ていた。
すんげー気が重かったけど。でも、彼女の姿はなかった。
「あれ?水野さんは?」
俺はオフィスの1人に聞いてみた。
「今日は休みですよ。知らなかったんですか?ご主人の命日だそうで」
命日・・・か・・・
俺は、俺が撮った、彼女の写真も持って来ていた。彼女に渡そうと思って。
俺が今までで一番キレイに撮れた写真だから。
あの浜辺での、彼女の美しい姿。美怜さんとこで思わず撮っちまった写真も一緒に入れて。
たぶんもう、彼女は本当の心を俺には見せてはくれないだろうから。
何事も無かったかの様に、振舞うつもりだろうから・・・
これは俺なりのケジメだった。
どー考えたって、こてんぱんにフラれちまったからな・・・
だけど、あなたはまだ、こんなにも美しく、そして無邪気に微笑む事が出来るんだ。
その事を、どうしても伝えたかった。
写真はウソをつかねえ・・・後ろ向きにしか生きようとしない彼女に、その事を気付かせてあげたい。
ふいに、飯田さんがオフィスへと入ってきた。
みんなにニコニコと挨拶をしながら歩いている。
すこしびっこを引いてるけど、退院して復活したようだ。
すでに2ヶ月近くが経過していた。
そうか・・・俺とさつきさんのコンビも、もう終わりか・・・
彼女とのつながりも、全て途切れてしまう・・・
俺を見つけ、飯田さんが歩み寄って来た。
「おう苑田!俺の代わりに色々悪かったな!」
気さくに声を掛けてくる。
「いえ・・・元気になったみたいっすね。」
「おかげさんでな。お前、今時間あるか?」
急な誘いに、柊は一瞬戸惑った。
「はあ・・・」
「俺が居ない間のさつきの様子も聞きたいから、ちょっと茶でも飲み行こうか。」
「はい・・・」
そうは言ったものの、今は彼女の事を話せなんて、傷口に塩をすり込むようなもんだと柊は思った。
二人は喫煙所に来ていた。他に人は居ない。彼とゆっくり話すなんて
入社して以来だ。
こういう人生の酸いも甘いも嗅ぎ分けた、みたいな人と話すのって、何かキンチョーする・・・
「さつきの仕事っぷりは、どうだった?」
飯田がコーヒーをすすりながら話し出した。
「どうって・・・手際よく、テキパキとこなしてましたよ。すごく仕事が出来る人っすね、彼女。」
そう言いながらも、胸が痛む。
「そうか・・思いあぐねたり、行き詰まったりしてる様子は無かったか?」
「いえ、そういうのはみじんも・・・」
「そうか。あいつ不安がってたんだよ、俺が居ないなんてって・・・。」
「そうだったんすか。」
「ああ。でもその様子じゃ、お前の写真もアシストも、よかったって事だろうな。」
飯田が笑う。
「はぁ・・・あの、一つ聞きたい事があるんすけど。」
柊は、前から気になっていたギモンを彼にぶつけた。
「何で飯田さんの穴埋め、俺を指名したんすか?」
「ああそれか?それはさつきが選んだからだよ。」
飯田さんは、事も無げに言う。
「さつきさんが?」
「ああ、厳密に言うと、お前の写真をさつきが選んだんだ。」
「はぁ。」
「ここに採用するとき、テストで東京タワーの写真撮らせただろ?」
「はい。」
「俺は必ず同じ写真をみんなに撮らせるんだ。そして決める。
その写真をさつきに病院に持ってこさせて、この中で一番好きなのを選べって言った。そしたらあいつは真っ先にお前の写真を選んだ。
優しい感じがするって言って・・・俺は当然俺が撮ったのを一番に選ぶと思っていたから、びっくりしたよ。
本人は誰が撮ったかなんて、知りもしねーんだけどな。」
「そうだったんすか・・・」
俺はうつむいた。彼女は俺の写真を選んでくれたんだ・・・
「写真はウソをつかねーからな・・・撮った奴の性格や気持ちが出るんだよ。」
飯田さんは伸びをしながら言った。
「そういや最近、お前の撮った写真見てねーな。ちょっとそれ、見してみろや。」
飯田さんが俺の持ってきたグリーンの封筒を指差して言った。
「い、いやっ、これはいいっすよ。」
俺は慌てた。こんな写真恥ずかしくて見せれねーよ、さつきさんなんだから。
こないだの取材の写真はデスクに置いて来ちまったし・・・
「なんだ、いいから見せろ。」
「いや、いいっすよ。」
俺の言葉をさえぎって、飯田さんが強引に封筒を取り上げて、そして中身を見た。
あーあ・・・
「お前・・・これ・・・お前が撮ったのか?」
飯田さんが写真を食い入る様に見つめたまま、言った。
「はい・・・」
俺は恥ずかしさで一杯だった。
だってそれは、さつきさんのオンパレードなんだから。
「お前、さつきに惚れてんのか?」
彼はまだ写真から目を離さない。
「ぐげっ・・・」
痛いとこを付かれ、俺は返事に困った。
「写真はウソをつかねーんだよ。」
飯田さんが俺をジロッと見て、少し笑った。
「はぁ・・・」
「そうか、あいつ、こんな顔できるんだな。そしてお前はこんな写真が撮れる。よし!気に入った。お前、がんばれよ!」
飯田さんが俺の背中を思いっきり叩いた。
イテッ・・・
「もうフラレたっすよ・・・」
俺は小さく言った。
俺の言葉に全てを解かり切った様な目をして、飯田さんは言った。
「いんや、お前がんばれ。さつきは俺の娘みてーなモンだけど、お前なら許す。もうちょっと、がんばってみろや。」
彼の言葉に、複雑な気持ちになる柊だった。
飯田は思った。
写真を見れば、この男がさつきに対して真剣な事はすぐに解かる。
この男の性格や器の大きさも・・・。
そして、この男の写真を一番に選んださつき・・・この男なら、さつきを任せられる・・・
あいつのかたくなな心を溶かしてやってくれ・・・そんな願いを込めて、飯田は柊を、温かい眼差しで、見つめた。




