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「さつきさん、俺の昔撮った写真、見てみる?」
片づけを終えた彼女に、俺は言った。
「見てみる、見てみる。どんなの?」
彼女が笑顔で駆け寄ってくる。俺は雑誌やら写真やらを見せてやった。
でも、あの写真は見せない。俺が撮った、彼女の写真。
彼女はすごく眼を輝かせて見ている。
この空間が好きだ・・・彼女といる、この空間が・・・
「いいね、どれも。私、柊くんの写真って好きだな・・・」
そう言って微笑む彼女の唇を、俺は奪った。
「ちょっと柊くん・・・」
彼女が両手で俺を押しのけて、うつむく。
「俺は、さつきさんが好きだ。」
どうしよう、好きだなんて・・・さつきは、何とか彼から離れようと両手で彼の胸の辺りを押したけど、もっと強い力で抱き寄せられ、あごを引き寄せられ、再び唇を奪われてしまった。
「柊くん私・・・」
何とか唇を離してみる。
「キスだけ・・・キスだけだから・・・」
そうささやく彼の声は、驚くほど男っぽい。
今まで見たことのない“男”の表情を浮かべている彼に、さつきの心は揺れた。
そして再び彼に唇を奪われた。
理性が抵抗しろと言う。
その言葉に従って抵抗してみるけど、彼の思ったより力強い腕から逃れる事は出来なかった。
・・・なんて・・・優しいキスなの・・・
あまりの心地よさに、力が抜ける。
彼は優しく何度も私の唇を、唇でなぞる。私は頭の中が真っ白になった。
そして、この心地いい唇の感触だけを、感じていた。
長い長い口づけの後、柊はさつきを見つめた。彼女は戸惑ったようにうつむいている。
「俺、さつきさんの事愛してる。」
彼女への想いが溢れそうで、こらえ切れず、柊は言った。
「やめてよ、何言い出すの?」
その言葉に彼女は激しく動揺している。
「俺なら、さつきさんを絶対独りぼっちになんか、しない。」
静かに言った。
「やめてよ!そんな風に言わないで。あの人だって、死にたくて死んだ訳じゃないわ!」
「わかってる。わかってるけど・・・」
「なによ!キスしたぐらいで・・・私が愛しているのはあの人だけよ!
あの人の代わりなんて、何処にもいない。今までもこれからだって・・・ずっとそうよ!」
彼女は涙を流しながら、激しい口調で言う。
彼女がこんな風に取り乱しているのを見るのは初めてだ。
それだけ、彼女にとって核心な部分なんだ。
「代わりになろうなんて思ってないよ・・・俺は俺だし。
だけど居なくなっちまった人の事、いつまでも想ってたって・・・どうしようもないだろ?」
むせび泣く彼女に、穏やかな口調で続ける。
この想いを、解って欲しい・・・俺を、受け入れて欲しい・・・
「彼を愛していたのよ・・・ほんとに・・・ずっと一緒にいられると思ってた。
だけど・・・私達の時間は余りに短かった。3年だよ。
たった3年しか・・・一緒にいられなかった。
あなたにわかる?こんな気持ち・・・
それに、結婚する時私誓った。一生彼を愛していくって・・・だから・・・」
「だけど彼はいなくなっちまった。そーだろ?ずっと独りぼっちで、寂しい思い、してきたんだろ?寂しくて不安でしかたない・・・いっつもそんな眼してたじゃんか・・・もう1人で頑張んなって・・・
死んだ奴に義理立てしてどーすんだよ・・・」
かたくなな彼女の言葉に、半分惨めな気持ちになりながらも、諭す様に柊は言った。
あなたには俺がいる・・・俺がいるのに・・・
「義理立てなんかしてないわ!彼はいつだって私の傍にいてくれる・・・」
「だけど、さつきさんにこんなに寂しい思いさせて・・・つらくさせて・・・
なのにフレームから微笑みかけてるだけで、何もしてくれねーじゃねーか。」
「だけど・・・だけど・・・」
「俺ならさつきさんが寂しいとき、傍にいてやれる。抱きしめてやれる。
死んじまった奴をどんなに想ったって、抱きしめてなんかくんねーじゃねーか!」
パチン!そう言った俺の頬を、彼女が涙をいっぱい流しながら叩いた。
そして、彼女は出て行った。




