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さつきが仕事をしていると、携帯が鳴った。
“美怜”何だろう・・・
「もしもし美怜?どうしたの?」
「どうしたは無いでしょ?親友が電話してあげてんのに。」
美怜の元気な声がする。
「はいはい、それはどうもすいません。」
「ねーさつき、今日時間取れない?私、仕事でそっちの方行くから、ご飯でも一緒にどう?」
「うーん、いいわねぇ。今日は仕事早く切り上げるわ。何時?」
「じゃあ6時に、日本料理の海華で。」
「わかった。じゃね。」
美怜は10分ほど遅れてきた。
「ゴメン、打ち合わせ長引いちゃって。」
相変わらず派手な顔といでたちで、彼女は登場した。
「日本酒、冷でね。あとこれと、これと・・・」
美怜はてきぱきと頼みだす。
「いやー久しぶり。最近じゃなかなか逢えなくなっちゃったね。」
「そうね、美怜ほんと売れっ子の大先生になっちゃったもんね。」
「またまた・・・褒めたって何にも出ないわよ。」
美怜がいたずらっぽく上目づかいをして言う。
「本気で言ってるんだって。」
「そういえばさあ、私また彼氏変わった。」
そんなさつきの言葉をムシして、美怜があっさりと言う。
「またぁ?」
「うん。また。」
「で、今度はどんな人?」
さつきは呆れ顔で言った。
「うん、今度はね、39歳の青年実業家。車屋チェーン展開してんの。超いい男。」
「ふ~ん。でもさ、39歳っていうのは青年に入るんですかねぇ。ただの実業家じゃない?」
さつきは少しおちょくってやった。
「ちがう~。彼はステキなの~。」
美怜はダダッ子みたいに言った。
「ったくいつまで続くやら・・・何人目よ、彼で。」
「わかんな~い!」
美怜はハジケ飛んでいる。でも、こんな美怜だから、さつきは好きだった。
「さつきもさぁ、そろそろ新しい恋したら?」
美怜が急にマジな眼をしてさつきを見た。
「何よ・・・それ。」
「耕作さん亡くなってからもうすぐ4年でしょ、そろそろいいんじゃない?新しい一歩を踏み出しても。あんたは生きてるんだよ。」
美怜が諭すように言う。
「だって・・・」
「女はね、恋しなきゃダメよ。」
「恋してるわよ、耕作さんに。」
「さつきぃ」
美怜が呆れたようなしかめっ面をする。
「ムリよ、そんな事。私には耕作さんだけよ。」
さつきは少しふくれた。
「あんたねぇ、死んだ人を想い続けて、あと何十年もずっと独りで生きるつもり?」
「それは・・・」
「そんなんじゃカビはえて化石になっちゃうわよ、身も心も。あっ、そうだ!柊くんは?彼とはどーなってんの?」
「どーなってんのって別に・・・」
「進展なし?彼、あんたにホレてんでしょ?」
「何それ?何でそんな風に言い切るのよ。」
そりゃこの間、確かにキスされちゃったけど・・・
「あたしには解かるのよ。だてに恋ばっかしてないって。」
「何その根拠の無い自信。彼とだって1回しか会った事無いくせに。」
「あたしにはピピーんときたのよ。直感したの。彼はあんたにホレちゃうなって。
あんたの事ばっかジーッと見ちゃってさ、かわいい。
悪いけど、あたしの直感て、当たるわよ。」
美怜が含み笑いをして言った。
「やっぱそうなのかな・・・そう思う?」
さつきは一連の出来事や経過を、大まかに話した。
「絶対そう。そう思う。まちがいないわね。」
美怜は勝手に納得してニコニコしている。
「あんたも女なんだからもう一度、そういう幸せ手に入れなさいよ。誘いは多いのに全部断って・・・いつまでも過去にしがみついてちゃ、前に進めないよ。」
「解かったって、解かったから・・・もうこの話はナシ。」
話しては見たものの、美怜のお説教が始まりそうだったので、さつきは話をさえぎった。
それに、だからってそこは突かれたくない部分だった。
「ふん!弱虫め!」
「はいはい・・・」
Another Day・・・
前に進めない・・・か。前に進みたいのかな・・・私。そういえばこの所、柊くんと一緒に仕事してるからしょっちゅうバイク乗っけてもらって・・・
彼の世界にどんどん引き込まれていって、私の日常が少しずつ変化しているのかもしれない・・・バイクはほんとに気持ちよくて、私の心の重しをちょっとずつ軽くしてくれたし、彼の眼差しに、彼の存在自体に癒されている気もしないでもない。
だけどこの間のキス・・・男と女っていうより、人と人が心が通った時の人間的に好きってキスだったけど、耕作さんに対して罪悪感を持たずには居られない事も事実だわ・・・
「さつきさん、聞いてんの?行くよ。」
彼が眩しそうな瞳で私を見つめる。
「あ、うん、今行く。」
私はバイクにまたがり、彼にしがみつく。
彼の背中・・・好き。
そう思ってハッとした。
何よ私・・・今の・・・
彼が好きなの?いいや、背中だ。背中だけ好きなんだ。
でも背中は好きなんだ・・・さつきは漠然とそんな事を思った。
でも・・・もうイヤ、傷つくのは。また、この人だって居なくなっちゃうかもしれないじゃない。ずっとそばに居てくれる保証なんて、何処にも無いじゃない。
誰かを愛して、その愛する人を失うのが怖い・・・
だったら、誰も愛さなければいい・・・誰かに寄りかかって弱くなってしまうより、最初から1人で立っていた方がいいじゃない。
また誰かに甘えて、心がもろくなった後にその人を失ったら、それこそもう二度と、立ち直れない。
でも、この背中のぬくもり・・・
はぁ、彼が私に好意を寄せてくれてる事はもはや解かってる。
いや、どこかで解かっては居たんだ・・・彼って顔に出やすいから。
だけど認めたくなかった。だってどうしろっていうの?私はもう二度と、あんな思いをするのはイヤ・・・絶対に。それに、あの人以外の誰かを愛するなんて、不可能だわ・・・寂しくて、ぬくもりが恋しかっただけよ・・・
「さつきさん、着いたよ。」
彼の声で我に帰ったさつきは彼のマンションの前にいた。
「え?何よ・・・」
「何って、今日俺んちきて、肉じゃが作ってって言ったら、うんって言ったじゃん。」
「え?私、そんな事言った?」
「うん、言った。買出し行こ。」
彼は私の手を引いて、スーパーへと向かった。
ボケッとしてたからな・・・
買出しを終えて、彼のマンションへとやって来た。私は料理を始めた。
彼がそれを見てる気がする。いろんなことを考えてたせいか、変に緊張する・・・
柊はさつきが料理する姿をじっと見ていた。
こういう彼女っていいよな、女って感じで。いつもこうして作ってくれたらいいのに。
仕事してる姿も凛としてて好きだけど、こーいうのもまた格別。
どんな彼女だって、俺には眩しく見える。
だけど俺が一番に惹かれているのは彼女の性格。
あの、優しい、何とも居心地のいい彼女の人柄・・・
なんか彼女を知れば知るほどもっと彼女が欲しくなる・・・
彼女を独り占めしたい。彼女の全てを俺だけのものにしたい。
俺なら、この人を絶対泣かしたりなんかしない。
さつきさんは笑ってる方が綺麗なんだ。そして俺は、この人を守ってやりたい・・・
この人の時間を少しでも多く、笑顔でいさせてやりたい・・・
彼女を想うと胸が熱くなる。今までのシラけてた自分なんて、嘘の様だ。
「出来たわよ。」
彼女が料理を運ぶ。
「うわーうまそー。」
肉じゃがに炒め物に味噌汁に・・・とにかく美味そう。そして味は抜群。
彼女の料理は、俺の胃袋を捕らえて離さない。
「あー美味かった。また作ってよ。」
片付けを始めた彼女に、柊は少し甘えて言ってみた。
「何でよ?」
彼女がわざと不満そうに言う。
「だって、こんなんでよけりゃあいつでも作ってやるって言ったじゃん。」
「そりゃ言ったけど・・・」
「言っただろ?だから作ってよ。」
屈託なく笑う柊を見ていたら、さつきは何だか和んでしまった。
ま、いっか・・・




