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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第五章 his love
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 何もかもがかったるくて、柊はソファに寝転んだ。

 

 さつきさんとの取材が無いのがせめてもの救いだ・・・

 こんなんじゃ、写真なんか撮れねーよ・・・

 

 視線を泳がせて何気なく見た新聞の一部に、カメラマンという文字を見つけた。

 何となく読んで見る・・・

『元有名カメラマン水死体で発見』・・・東京湾で20日早朝、手足をロープで縛られた水死体を発見・・・

 藤田 実さん(49)と判明・・・・

 

 俺は硬直した。ウソだ・・・ウソだろ?

『ヤベーとこから金借りちまって・・・』藤田さんの言葉を思い出す。

 俺はショックで訳がわかんなくなった。何でだよ?何で・・・

 殺されるなんて・・・そこまでひどいなんて・・・思っても見なかった・・・

 大体いくらあったんだ?俺は新聞を読み返した。

 2千万円相当の借金があった模様・・・そんなにか?

 そんなにあったのか・・・      

 あの日、俺、なんでもっとちゃんと話聞いてやんなかったんだ・・・

 自分の失望で一杯一杯で、藤田さんの置かれた状況を考えるなんて、出来もしなかった・・・ほんとなら、ほんとに思いやりがある人間ならそんな時だからこそ、親身になって助けてあげなきゃいけなかったってのに・・・

 金は用意できなかったにしろ、何とか力になれてたかも知れない・・・

 そしたら藤田さん、死なずに済んだかもしれないのに・・・

 俺は見捨てちまったんだ・・・俺を救ってくれた、あの人を・・・

 

 俺・・・俺・・・

 俺は、自分の事が心底嫌になって独りで居る事に耐えられなくなった。

 このやり場のない心を、不安な気持ちを、どうする事も出来ない。

 さつきさんの、やわらかいほほ笑みだけが、頭に浮かんだ。

 

 

「もしもしさつきさん?俺・・・」

「あら柊くん、どうかしたの?声がちょっと元気ないみたいだけど。」

 彼女の声に心が震える。

「俺、ダメだ・・・独りじゃいらんねぇ・・・さつきさん、会いてーよ・・・」

「柊くん、どうしたの?柊くん!」

「さつきさん・・・」

「柊くん今どこにいるの?家?」

「うん・・・」

「わかった、今からそっち行くわ。待ってて、じゃあね。」

 

 時間はもう、9時を回っていた。さつきさんは、程なくして現れた。

 ピンポーン「はい」

「柊くん、私よ。」

 俺は、ドアを開けた。急いで来てくれたんだ・・・

「柊くん大丈夫?」

 彼女の顔を見たとたん、俺は、こらえていたいろんな思いが、一気に溢れ出した。

 

 

 

 

 ソファに腰を落ち着けてすぐ、さつきは聞いた。

 彼に何かあったことは電話と今の彼を見れば容易に理解できる。

「柊くん、一体何があったの?」

 なるべく穏やかな口調で、隣に座る柊に聞いた。彼は頭を抱えている。

「柊くん?」

「さつきさん、俺・・・俺、藤田さんて人の話しただろ・・・」

 彼はゆっくりと話し出した。

「うん。」

「藤田さんからあの後、電話あったんだ。」

「そうなの?」

「会おうって言うから俺、嬉しくて・・・でも行ったら別人のようになった藤田さんが・・・

 金貸してくれって・・・俺、すごい幻滅したんだ。あの人俺の憧れだったから・・・

 何でこんな風になっちまったんだって、あなたを目標にやってきたのにって、あの人を責めたよ。

 あの人やばいって言ってたんだ。やばいとこから金借りてるって・・・

 俺、ろくすっぽ話しも聞かないで金だけ渡したよ・・・二度と俺の前に現れないでくれって言った・・・見たくなかったんだ・・・あの人のあんな姿・・・そしたら・・・

 そしたら今日の新聞に・・・藤田さん、水死体で発見されたって・・・

 手足には、ロープ巻かれてたって・・・俺、知らなかったんだ・・・

 そこまでやばいなんて・・・もっとちゃんと話聞いてやればよかった・・・俺・・・」

 柊は頭を抱え込んだままうつむいている。その背中はとても頼りなげだ

 

「ちょっと待っててね。」

 さつきは毛布を取りに行った。そして毛布ごと、彼をくるんで抱きしめた。

「さつきさん?」

 彼は少し震えている。

 

 この人を、ほっとくなんてできない・・・そのままになんてして置けない・・・

 

「私はね、大切な人を失ったとき、誰かにこうして欲しかったの。こうして・・・」

「さつきさん・・・」

 彼が一気にむせび泣いた。さつきは優しく彼を抱きしめた。

 

 私はいつもそうだった。父が死んだとき、母が死んだとき、あの人が逝ってしまったとき・・・誰かにこうして欲しかった。誰かに・・・

 だから今は、その痛みがわかるから、せめて今はこうしていてあげたい。

 夜が明けるまで・・・夜を越えるより、朝を迎える方が心細いはずだから・・・

 

 

 

 どれ位時間がたったろう・・・彼が落ち着きを取り戻し、少し顔を上げた。

「ごめん、俺、なんか・・・かっこわりぃ・・・」

 彼は少し笑った。

「別にいいのよ。私がしたくてしてる事なんだから。こんな時は、甘えたっていいのよ。」

 私は彼の髪を優しく撫でた。気休めにしかならないかもしれないけど、ただこうしている事に意味があるんだと思う。

 少なくとも彼は、私を頼ってくれたんだから。

 だから私は、今私に出来る限りのことを彼にしてあげたい。

 

「うん・・・すんげー気持ちいい。」

 そう言って、再び彼が私の胸の辺りに顔をうずめた。

 イヤな感じは全然しない。

「なんか、さつきさんの匂い・・・する。」

「そう?私別に香水なんてつけてないけど・・・」

「うん、でもこっからも、こっからも、さつきさんの匂い、する。」

 彼は、私の胸元や、くびすじの辺りに顔を寄せた。何だかくすぐったい。

「もう、柊く・・・」

 

 

 柊はさつきの唇に、唇を重ねた。そう、したかった。

 彼女があまりに暖かくて、彼女があまりに優しくて・・・そして愛おしくて。

「柊くん・・・」

 彼女は戸惑ってうつむいている。

「ありがと、さつきさん。来てくれて・・・そばに居てくれて・・・俺、すんげーうれしかった。」

 俺の言葉に彼女は優しい微笑みを浮かべた。そして解かった。

 俺は、この唇を覚えている・・・

 

 

 結局彼女は、一晩中そうしていてくれた。俺の言葉を静かに聞いて

「あなたのせいじゃないわ。自分を責めないで。」

 そう言ってくれた。

「彼だってあなたにそんな姿見せたくなかったと思うわ。だからあなたはすばらしかった頃の彼を目標にがんばればいい。」

 彼女の言葉は、ぬくもりは、本当に俺の心を打った。

 誰かにこんな風に弱みを見せたのは、初めてかもしれない。

 彼女にはそんな自分も不思議にさらけ出せる・・・

 俺は、この人を離したくないと、誰にも渡したくないと思った。

 こんなに優しいこの人を。

 

 何ともいえぬ安堵の気持ちが全身を包みこんでいく・・・          

 こんな風に穏やかな気持ちになったのは、初めてだった。

 彼女は俺を、そんな気持ちにさせてくれる・・・

 “満たされる”という感覚を、俺は初めて知った。

 

 目覚めたとき、俺は彼女のぬくもりの中にいた。

 そこは、何より安らぎを感じる場所だった。


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