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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第四章 hard work
18/35

4

 好きだと自覚したら、あっけないもんだ。

 俺はドンドン彼女に惹かれていった。

 

「さつきさん、明日の取材、バイクで行く?」

 そっけない口調と優しい眼差しを織り交ぜながら聞いた。

 まだ少しだけ、恋をしている自分自身の感情に戸惑っている。

 明日は湘南の方にレストランの取材に行くことになっていた。

 

 海岸線をバイクで走るの、サイコーだぜ。

 俺が一番好きなライドコースだ。

「そうねぇ、どうしようかな・・・」

 彼女は迷っているようだ。

「海岸線バイクで走ると気持ちいいぜ~。明日は天気よさそうだし、取材二時半からだろ?直帰って事にして、ちょっと走りいかない?」

「そうね・・・たまにはいっか。そうするわ。」

 

 俺と彼女が組み始めてから、半月以上がたった。仕事はちっとハードだったけど、そんなの全然苦にならない。

 俺は彼女と行動を共にして、いろいろな彼女を知った。

 彼女の性格は本当に俺好みで、何気ない間合いや何かも、相変わらず絶妙だった。

 何もかもがしっくりくる・・・そんな人だった。

 彼女はいつの間にか‘‘柊くん‘‘と呼んでくれる様になった。

 “柊くん”か・・・何となく不満だけど苑田くんよりはいっか・・・打ち解けてきてる事は確かだしな。

 彼女の仕事振りもまた、俺は好きだった。

 才女って感じだよな・・・俺は自分でも止められない位彼女に惹かれていった。

 彼女と行動を共にするようになってから、ボロジーンズにTシャツみたいなカッコもちょっとづつ止めた。

 もう25だし、そろそろしおどき・・・みたいなのもあったし、スーツ姿の彼女と、少しでもつりあいを取りたかった。

 

 

「ここのお店の方針は何ですか・・・」

 彼女が取材を始める。俺はその横で、写真を撮る・・・だんだんと日常と化してくるこの時間が、すごく貴重なものに思えた。

 

 一時間ちょっとで、この日の取材は終わった。

 俺は後始末をとっとと終え、彼女を促がした。

「どこ走りに行くの?」

 彼女がメットをかぶりながら言う。

「とりあえず、今日は俺にまかして。」

 そう言って、走り出した。10分程走ると、視野一面に海が広がった。

 海岸線を、ひたすら走った。

 

「潮の香りが気持ちいいねー」

 彼女がはしゃいだ声を出す。

「そーだろ。」

「うん、すごく気持ちいー。」

 俺は背中に彼女の柔らかな感触と、彼女の楽しそうな気持ちを乗せて走った。

 どんな顔してるのか見てーな・・・なんて思ったりしながら。

 

 道端にバイクを止めて、砂浜に降りることにした。

 ちょうど、夕日も沈みかけている。

 彼女は素足になって砂の感触を楽しんでいる。

 

「あーなんか気持ちいいねー、こういうの。」

 

 彼女が手をいっぱいに広げて潮風を全身に受けている。

 その姿は、とてもきれいだ。

 俺は思わずシャッターを押した。

 ファインダーを通して、彼女を見る。

 髪をサラサラとなびかせ、夕日が赤く染める水面が彼女の瞳にキラキラと反射して、開放的に微笑んでいる彼女は驚くほど美しい。

 そんな彼女に心打たれながら、夢中でシャッターを押した。

 

 俺は、彼女を愛している・・・

 

 そう、確信した。

 恋心が愛へと変わった瞬間だった。

 それはとても穏やかな感情の流れだった。

 そう思ったら、何だかとても素直な気持ちになった。

 

「もう、まだ仕事してるつもり?」

 彼女のかわいいふくれっつらも、パチリ。

「いい加減にしなさいよ。」

 彼女がふざけて俺の頭をコツンとたたく。

「わかったって。もうしない。」

 俺は、彼女が愛しくて微笑んだ。彼女といると、何もかもがまぶしく見えちまう・・・

 それに、彼女のこの、美しい姿を、この目にもしっかりと焼き付けておかなくちゃ。

 

「海っていいね・・・大きくってさ・・・波の音も潮の香りも、さわやかなこの風も、大好き。」

 

 なんて眩しい人なんだ・・・彼女の横顔を見て、そう思わずにはいられない。

 彼女と同じ風を、いつまでも受けていたい・・・

 

「うん。」

「バイクっていいね、すごく。私も免許取ろうかなー。」

「さつきさんが?今から?ムリムリ。」

 俺はふざけて彼女をチャカした。

「何よ、30前のおばさんには所詮ムリってこと?」

 彼女がふくれる。

 こんなに表情がクルクル変わる人なんだ・・・

「そーは言ってねーよ。たださつきさん、力無さそうだから。」

 俺は彼女の細い腕をつかんだ。

「そう?あなただって女みたいな腕してるじゃない。

 あなただって取れたんだもん、私にだって取れるわよ。」

「細くったって俺は男なの。力が違うんだって。それにバイクって倒れたの、起こせなきゃダメなんだぜ。小型じゃしょうがねーからそうすっと400のバイクだぜ。

 絶対ムリ。それにあぶねーし。」

「そうかなぁ・・・」

 彼女は少し不満そうだ。

「走りたい時は俺に言いなよ。いつでも乗っけてやるから。」

 瞳が勝手に彼女を見つめちまう。

「まっ、そう言ってくれるなら、そういう事にしておこっか。」

 彼女が微笑む。

 俺たちは夕日が沈んでいくのを眺めた。


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