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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第三章 cross road
14/35

4

 ああ疲れた・・・さつきは柊のマンションを出ると、大きく伸びをした。

 

 でもよかったわ、大事に至らなくて・・・

 本当は今日、飯田のお見舞いに行くつもりだったさつきだが、柊をほっておくことも出来ず、行けなくなってしまったのだ。

 飯田の家に電話してみたが、妻の綾子も付き添っているらしく、誰も出なかった。

 

 飯田さん怒るかなぁ・・・お前は薄情だって・・・でも、仕方ないわよね、苑田くんは1人だったんだから・・・飯田さんは病院で、しかも綾子さんもいるんだから・・・

 

 彼を見つけた時は、ほんとうにあせった。あんなに具合の悪い人を看病するのは内心、ドキドキものだった。

 しばらくは、落ち着く事も出来なかった。

 とりあえず、熱下げなきゃ・・・そればかりが頭に浮かんだ。

 すごく、あわてていた。だから彼には言わなかったけど、薬を飲ませるのに口移しで水を、彼の口に含ませた。

 今思えばもっと他に方法があったのかも知れない。

 だけどそれ位、さつきも動揺していたのだ。

 

 死にそうだったもんね彼・・・だけどよかった。彼、何も覚えてないみたいだし・・・

 

 さつきはもう一度、大きく伸びをした。心地いい満足感がさつきを包む。

 耕作さんが熱出したときも、あんな風に看病したっけ・・・

 私って元々世話好きって言うか、おせっかい焼きなのよね・・・。

 クスッと笑みがこぼれる。

 あんなにひどいことを言われた柊に腹が立たず、接する事が出来たのは、夕べのせい。

 彼が何度もうわ言で『さつきさん・・・ごめん』と謝っていたからだ。

 

 よっぽど後悔してくれたのね・・・

 前々から彼が自分の事を良く思ってない事は何となく感じていた。

 彼、顔に出るからな・・・

 だけど彼が、きちんと謝ってくれた。別に、彼にいい人と思われたい訳ではないけれど、やっぱり謝られれば、悪い気はしない。

 

 彼の部屋、雑然と散らかってて物があちこち無造作に置いてあって・・・

 男の人の部屋って感じだった。耕作さんもよく、あんな風に散らかしてたっけ・・・

 ふと、柊が自分の頬に触れた事を思い出した。

 そして目覚めた時の柊の何ともいえぬ優しい微笑みも・・・

 

 正直、ドキッとしちゃった・・・私。彼の持つ雰囲気って独特なのよね・・・

 

 もう一度、柊に口移しで水を飲ませた事まで思い出した。

 耕作さん、ゴメンね・・・私はもう、あなたに何もして上げられないんだね・・・

 多少の罪悪感と共に、さつきは現実へと引き戻された。

 

 それにしても彼の部屋、女っ気が全然なかったけど、部屋を片付けてくれる彼女もいないのかしら?モテそうなのに・・・

 そんなギモンがフッとわいて出たが、どうでもいいことに思えてすぐに忘れてしまった。

 

 

 次の日の朝、さつきは飯田のお見舞いに病室を訪れていた。

「こんにちは、どう?飯田さん。」

 さつきの笑顔に脚を吊るされて横になっている飯田はちょっと不満そうだ。

「ったく俺が入院してるってのに、ちっとも見舞いにこねーで、薄情なヤツだなお前は。」

「ごめん。まぁそう言わないでよ。色々忙しかったんだって。」

 さつきは甘えたように言う。

「でもよかった。思ったより元気そうで。」

「おう、俺もヤキが回っちまったかな、ったくこんな風になっちまってよ」

 飯田は照れくさそうに頭をかいた。

 

「それより、どれ位かかりそうなの?退院まで。」

 さつきはお茶を入れながら言った。

「それがよ、脚の骨折自体は一ヶ月もすりゃあギブス外せるらしいんだが女房のやつがこの際だから全部きちんと見てもらえって、いろいろ検査してもらったんだよ。そしたら肝臓の方がだいぶお疲れでね・・・そっちの方で入院長引きそうなんだよ。」

 飯田がお茶をすすりながら言う。

「肝臓さんも疲れたんでしょ。飯田さん、お酒ばっかり飲むから。この際、いい薬じゃない。お酒を断って肝臓さん、ゆっくり休ませてあげないとね。」

 さつきは笑った。

「まいったねー。酒断ちなんて・・・さつき、ちとビール買って来い。」

 飯田がふざけて言う。

「やーよ。そんな事したら、綾子さんに怒られちゃうもん。」

 二人は笑った。

「でも正直、ちょっと不安だよ・・・」

 さつきが表情を曇らせる。飯田は耕作が死んでから、いや死ぬ前からずっと仕事をいっしょにやって来た。一番近いところからさつきを見ていてくれた。

 両親ともすでに亡くしているさつきは、彼を父親の様に慕い、頼ってきた。

 彼がいないことは仕事上ではとても不安な事だった。

 彼以外とは組んだ事もない。飯田にだけは、素直に弱みを見せていた。

 飯田はさつきのいろいろな面でのより所だった。

 

「俺が居なくたって大丈夫だよ。さつきはちゃんと1人でもやって行ける。ここまで登りつめたのだって、お前の実力だよ。」

「違うよ。飯田さんがいつもいいアシストして色々教えてくれたから・・・」

「お前は頑張ってるよ。大丈夫。自分の力、もっと信じてやれよ。」

 

 飯田がさつきを見る目は、とても優しい。さつきの全てをずっと見てきたのだ。

 時には優しく、時には厳しく。入社してきて・・・結婚して・・・

 そして・・・飯田はさつきが外せないでいる左薬指の指輪を見つめた。

 

 ・・・お前は俺の娘みてーなもんだ。お前の事はたいがい解かってる・・・

 でもさつき、そろそろ本当の意味で立ち直んなきゃダメだ・・・

 お前は生きてるんだから・・・

 

 飯田は、さつきの事が解かりすぎる位解かっているだけに、前を向けないでいる彼女に、心が痛んだ。

 

「それより俺の抜けた穴、誰か見つけたか?」

 飯田は気を取り直して言った。

「ううん。とりあえずあの日は、苑田くんがいたから彼に頼んだけど、その後の人はまだ決めてない。」

「そっか。お前、誰かメボシイ奴いるか?」

「うーん、どうかな・・・みんないい写真撮るんだろうけど、私はずっと飯田さんとやってきたから・・・」

 さつきは憂鬱そうだ。

「そうか・・・」

 飯田は腕組みをして、考え込んだ。


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