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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第三章 cross road
13/35

3

 結局彼女は、その日の夕方過ぎまで居てくれた。

 俺の熱もすっかり下がっていた。晩飯の片付けを終えて、洗濯モンをたたんだ後、彼女は言った。

 

「じゃあ、私帰るわね。」

「今日はほんと色々とありがとうございました。そいで、すいません。」

「いいのよ。困ったときはお互い様ってね。」

 彼女がウインクする。その顔は、すごくきれいだ。

「送ってく。」

 俺は、申し訳ない気がして言った。

「いいわよ。病人は寝てなさい。」

「あの・・・ごはんうまかった。すごく」

「そう?あんなんでよければいつでも作ってあげるわよ。」

 さらりと微笑んで、彼女は帰っていった。

 

 しーんと静まり返る部屋。きれいに片付いている。

 彼女はとても女らしかった。一通りの家事をてきぱきとこなし、何よりほんとに飯が美味かった。おかゆも美味かったが、晩ご飯の肉じゃがはサイコーだった。

 結婚してたんだ。当たり前・・・か。

 でも会社じゃ見れない彼女の一面は、見ていてすごく

 刺激的だった。

 仕事もバリバリやって家事も当たり前に一通りこなせる・・・か。

 しかもすごい美人。

 実際俺は今日、何度彼女に瞳奪われただろう。

 キッチンに立ってる姿、片付けしてる姿。飯食ってる姿。洗濯たたんでる姿・・・

 何もかもが美しく、キラめいて見えてしまった。

 あーいう女はタイプじゃないのに・・・しかも、あんなに他人にあれこれいじくられて生活をかき乱されるのがイヤだったのに、彼女にはそんな事、みじんも感じなかった。

 

 彼女だからなのか?彼女だから、イヤじゃなかったんだろうか・・・

 

 それとも罪悪感やら病気やらで、ちょっと気弱になってただけか・・・

 彼女とのひと時はむしろ、変な充実感さえ感じた。

 俺が寝ていたってなんだって、俺に気を使わせないように、でしゃばりすぎないように彼女は振舞っていた。

 その距離感が、絶妙だった。

 俺があんなひどい事言っちまったってのに責めるどころか、あんなに自然に振舞って・・・何もかもがさり気なくて・・・

 そして、彼女と居る空気を、心地いいと感じる自分がいた。

 俺は、何も知らないで彼女にひどいことを言ってしまった。

 そしてその事に、すごく後悔していた。

 

 心地いいといえば・・・大きな謎が一つ。俺は寝ながら薬を飲んだ。

 確かに飲んだ。その事は、おぼろげながら覚えてる。

 そいであの唇の感触は・・・まさかな。

 俺は妙な期待を打ち消した。

 

 彼女は貸し借りなしって言ったけど、俺は礼しなきゃな・・・きちんと。

 彼女を傷つけた上に、看病までしてもらったんだから。

 でも、一体何すればいいんだ?彼女が喜びそうな事・・・

 彼女は何が好きなんだろう・・・俺は、彼女の事が知りたくなった。

 そいで少しでも、彼女の心を癒してあげたい・・・俺に出来る事・・・

 

 何だ?この気持ちって・・・同情か?自分がひどい事言って傷つけちまった上に、献身的とも言える看病までしてもらったから・・・か?

 

 彼女はいい人だ。あんな事言っちまった俺にイヤな顔一つせず、気さくに接してくれた。俺は、何であの人をあんなにも気に入らないと思っていたんだろう。

 あの人との空気は、あんなにも心地よかったというのに・・・

 そして、何であんなにも、後悔していたんだろう・・・

 

 

 柊は何となく、自分の気持ちに察しが着いた。

 彼女の事情を知ってしまったとはいえあの後悔の仕方は同情だけじゃない。

 彼女に嫌われたくない・・・むしろそっちの気持ちのほうが強かった。

 軽くときめいた程度と思っていたのに、どんなに言い訳を並べてみても、結局ひとつの結論に行き着いてしまう。

 いくら打ち消そうと思っても、ますます確信めいてしまう。

 自分で思っているより強く彼女に惹かれているんだ・・・

 そう思うと、自分の気持ちに全てつじつまが合う。

 

 俺・・・やべえかも・・・マジで。

 

 さつきという女は、俺の心をざわつかせる・・・彼女を思うだけで、こんなにも心の水面が波打つ・・・

 

 

 看病してもらって心打たれるなんて、あまりにもお決まりのパターンだな・・・

 

 柊は、彼女のたたんでいった洗濯物に彼女の余韻を感じて、ときめきにも似た、優しい気持ちになって、人知れず、微笑んだ。


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