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LIFE GOES ON・・・  作者: shion
第三章 cross road
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 彼、今日も来るのかしら・・・仕事の手を止め、さつきはため息をついた。

 

 きのう言われた事を思い出すと、正直ブルーになる。

 何で彼にあんな風に言われなければならなかったのだろう・・・

 言われた事は全くその通り。そう思う。だけど・・・よくよく考えて見ると、なんか納得いかない気がする。

 私の事なんて、知りもしないくせに・・・

 それに、私は満たされてなんか、いない・・・

 言われたことがすごく横暴な事に思える。

 

 私が暗い事で、なんか彼に迷惑かけたかしら・・・

 あそこまで言われなければならないような事を、私はしてしまったのだろうか・・・

 

 彼が、自分をよく思ってない事は気づいていた。

 だけどバイクにのせてくれた彼は、あんなにも優しい眼をして自分と接してくれたと言うのに・・・

 さつきはもう一度、柊のあの冷たい、刺すような視線を思い出した。

 もう、逢いたくないな・・・顔を合わせたくない。

 また彼に逢ってキズつけられるのは、イヤだ。

 これ以上、キズを増やさないでほしい・・・

 それに、きっと彼に逢ってしまったら、自分だって平静ではいられない気もする。

 何かの拍子に思いがけない事を口走ってしまいそうだ。

 

 

「苑田くんて、今日も来るのかしら?」

 さつきは、何気ないふりをして、柊と仕事をしている同僚の一人に聞いてみた。

「あっ、苑田さんなら、ネガ持って今日、こっちに来るつもりだったらしいけど、熱出しちゃって来れないってさっき電話ありましたよ。」

「え?そうなの?で、ネガのほうは?」

 さつきはホッとするよりは、不安な感じになってきいた。

「バイク便で届けるそうですよ。なんか用事ありました?彼に。」

 同僚が、ちょっと気にした風にさつきを見ている。

「ううん。たいした事じゃないの。この間の写真の事で、ちょっと聞きたい事があっただけ。」

 さつきはニッコリと笑ってごまかした。

 

 

 さつきは自分のデスクに戻り、イスに腰掛けた。

 熱を出したって、あの時のせいかしら・・・あんな薄いシャツ一枚でバイクに乗ってたから・・・もしかして、私のせい?

 さつきは少しだけ、心配になった。

 でも、あんなヤツ、ほっとけばいいわよ。

 よかったじゃない、顔あわせずにすんで・・・でも・・・

 

 

 自分の気持ちが行ったり来たりでその日の仕事は終わった。

 オフィスを出る。手には、どうしてか調べてしまった柊の住所と電話番号の書いてあるメモを持っている。

 電話だけでもしてみようか・・・でも、寝てたりしたら・・・それになんて声掛けるのよ・・・

 そんな事を思いながらも、とりあえず電話してみる。4コール、5コール・・・出ないわ・・・倒れてるとか・・・?そんな事ないわよね・・・

 行ってみた方がいいかしら・・・たぶん、私のせいなんだし・・・

 でも私なんかが行ったら、彼、気を悪くするわよね。

 ムカつくっていってたし・・・それにこっちだって・・・

 さつきの頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 あーもういいや!とりあえず気になるし、行ってみよう。

 追い返されてもいいや。

 何もしないで「あんたのせいで熱出した」なんて言われても、イヤだし・・・

 さつきは柊のマンションへと向かった。

 

 

 

 来ちゃった・・・

 手には、お見舞いのフルーツを持っている。

 それは、ベージュ色のごく普通のマンションだった。メモを見る。305と書いてある。

 オートロックだわ。インターホン鳴らすしかないわね・・・

 さつきが少しためらっていると、ちょうど中から人が出てきた。自動ドアが開いた。

 

 入っちゃえ・・・エレベーターを使って3階に辿り着いた。

 305、305っと・・・あった。なんか変に緊張する。

 でもここまで来たんだせめて、果物だけでも置いて帰ろう。急にじゃ悪いから、もう一度電話してみよう。

 

 さつきは携帯を出して、もう一度かけてみた。

 中から電話の音がかすかにもれてくる。

 家にいるんじゃない・・・しかし、いくら待っても電話に出ない。

 何でだろ・・・さつきは思い切ってインターホンを押してみた。

 ピーンポーン。返事はない。もう一度、押してみる。やっぱり返事はない。

 

 私とわかって出ないのかしら。ヤな感じ・・・さつきは少し、ムキになった。

 

「苑田くん、、いる?」

 声を掛けてみる。やっぱり反応がない。何よ・・・でもまさか、倒れてるとか?

 そんな事、ないわよね・・・そう思いながら、ドアノブに手をかける。

 ガチャ・・ドアが開く。

「苑田くん、いるの?私、水野だけど・・・」

 彼のクツはあるようだ。返事は依然として、ない。

「苑田くん、苑田くん?」

 そのとき、中からうめき声のようなものが聞こえてきた。

「苑田くん、大丈夫?上がらせてもらうわよ。」

 

 さつきは何か胸がざわついて、クツを脱いで中へと入った。

 リビングらしき、ドアを開けると、柊がソファーに倒れこんでいた。

 

「苑田くん、大丈夫?」

 彼を抱き起こそうと彼の体に触れると、異常に熱い。すごい熱・・・

 柊はぐったりとしているのに、息が荒い。

「苑田くん動ける?とにかくちゃんと横にならないと・・・」

 さつきが辺りを見回すと、リビングの隣の部屋にベッドを見つけた。

 さつきは柊に肩を貸してあげながら、なんとかベッドに連れて行った。

「なんで・・・水野さんが・・・」

 彼はハアハアしながら言う。

「ちょっと気になって来てみたの。熱出したって聞いたから。とにかく横になって、すごい熱よ。水枕・・水枕とか無いの?」

「・・・ない・・・」

「じゃあ薬は?薬は飲んだの?」

「飲んでねえ・・・」

 彼は本当に苦しそうだ。

「勝手に探させてもらうわよ。」

 

 さつきはへやのなかを、あれこれと探し回った。のんびり構えてる場合ではない。

「薬、薬ッと・・・」何処にもない。救急箱らしきものさえ、見当たらない。

「とりあえず、氷で冷やさなきゃ・・・」冷蔵庫を開けてみる。

 ビールと現像で使う薬品らしき物しか、入っていない。

 どういう生活してるの?この人・・・

 さつきは一瞬固まってしまったが、今はそんな事をしている場合ではない。

 買いに行かないとダメね・・・

 さつきは柊の元へと戻った。

 

「苑田くん、私買い物に行ってくるわ。何か食べたいものとか、ある?」

「も、もも缶・・・」

 さつきの問いかけに、彼はうわ言のようにつぶやいた。

「もも缶ね。わかったわ。急いで行ってくるから、おとなしく寝てなさいよ」

 彼が動けるはずないな、と思いながらさつきは急いだ。

 ここ、オートロックなんだっけ・・・そう思ったら、下駄箱の上にちょうどカギがおいてあった。

「これでよしっと・・・」

 さつきは買い物へと急いだ。


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