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掌編

魔女の跡

作者: 綴 詠士
掲載日:2025/12/09

 一軒の古い家。これは魔女がいた跡だ。

 この家は村の人間の誰よりも古く、遥か昔からあり、まるで村を見守り続ける長老のように、ここに佇んていた。

 俺は村の木こりとして、木を伐りながら、時間があればここにきてしまう。

 

 俺はこの家を見ると寂しくなる。

 彼女がいなくなってしまったことを思い出して落ち込んでしまう。

 

 俺はこの家のことが嫌いだった。

 

 俺は彼女のことが好きだったのかもしれない。いなくなって初めて気が付くというやつだ。

 俺たちは幼馴染で、ずっと一緒に育ってきた。

 こんなにも彼女のことが好きだったのに。一緒にいた時はそんな風に思いもしなかった。

 毎日彼女と話して、笑いあって、感情的になる事も多くて、だけど彼女がいる未来は当然だと思っていた。

 

 彼女の一族はこの村の歴史でもあった。彼女は生まれた時からこの家に住んでいた。

 

 だけど、ここに魔女が住んでいることが国王に知られてしまった。

 

 だから彼女は逃げないといけなかった。

 

 俺は彼女が逃げるのを手伝った。兵士たちを誤魔化し、彼女が逃げる時間を稼いだ。

 

 彼女が殺されるなんて耐えられなかった。

 

 そして彼女は逃げた。

 彼女は魔法でどこかに行ってしまった。兵士たちが彼女の籠る家のに押し入った時、その姿は消え去っていた。


 もうここに、いつも笑顔だった魔女はいない。

 

 俺は毎日彼女を思い出す。

 

 彼女はもう思い出の中。

 年月をかけて岩がぼろぼろになっていくように、

 俺の記憶も朧げになり、いずれ忘れてしまうのかもしれない。 

 その頃になっても、この家は魔女がいた跡として残っているのだろう。

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