エルヴィール
朝焼けの白朝顔 麗しき貴女よ
孤独な夜の月 情深き貴女よ
静かな湖畔 敬虔な貴女よ
憐れなる 愛しの恋人よ
貴女を悲しませるのは
吾輩ドン・ジュアンだ
くらい 我が虎の心が
微睡んだ 我が愛の炎が
自由に進む 我が征服心が
私を遠ざけた 愛しい貴女から
けれど……
「やっ、しばし」
そう言ってドン・ジュアンは、マントに全身を包んだ。くるり一回転して、その下から現れたのは、彼の従僕スガナレル。
おいたわしい奥様
カッコウのように泣いているあなた
腐ったヒヤシンスの球根のように捨てられたおかた
お気の毒な!
わたくしの主人は神をも恐れぬ悪魔
だがその番いたるあなたは最上級の天使のようだ
やるせないなぁ
わたくしがドン・ジュアンだったらなぁ!
奥様のことは女主人のようにお慕いしていますが
本当にそうなったらなぁ!
どうかあなたにお仕えさせてくれませんか
もしそうなったら給料が少し減っても構いませんや
さぁ参りましょう、なんだってお申し付けくださいな
さぁ帰りましょう、ぐるりと回って――
スガナレルは回りながらひっくり返った、と思いきや次の瞬間には姿を変え、そこには兄のドン・カルロスが立っていた。
我が愛しの妹よ、ここにいたか
お前の苦しみは察して余りある
しかし我慢してくれ、名誉のためだ
名誉は命にも、お前にも勝る
言ってくれ、あの男と一緒に生きると
また遁世するなど言わないでくれ
お前があの男と縁切りしても
我らに残るは侮辱と汚名だけ
エルヴィールよ、泣きそうな顔をするな
見ている俺もつらくなる、畜生
だが名誉のために……ああ、馬鹿みたいだ!
お前より大事なものが、なぜあろう
愛しの妹、もう行かないでいい
この剣で仇をとれば済む話!
「ドン・ジュアン、覚悟!」
ドン・カルロスは剣を引き抜き、走りだそうとしたところで、煙のごとく立ち消えた。そのあとには、すでに騎士の石像が立っている。
我が子よ、ドン・ジュアンに追従し
卑しく汚れた死後の霊魂
顧みざれば、軽んずるならば
雷、汝の頭上に落ちん
我が子よ、ドン・ジュアンを許さずに
心に荒れ立つ復讐の念
振り切らざれば、受け入れるならば
雷、汝の頭上に落ちん
我が子よ、汝の罪に背を向け
震える手による恐怖の自刃
押し止めざれば、死を望むならば
雷、汝の頭上に落ちん
我が子よ、汝、我が分かるまい
されど汝、死後我にまみえん
我を疑えば、我を試せば
雷、汝の頭上に落ちん
激しい閃光に全てが真っ白になる。もとに戻ると、石像のいたところには、再びドン・ジュアンが立っている。
私に夫たる資格はありません
ですが貴女を慰めたいのです
まだ貴女を愛しているのです
だから行動で示しましょう。
共に信仰の生活へ、
神の愛を祈りましょう。
我らの貴き愛は
信仰を経由して
絶対となるのです。
さぁ、この手をとって――
お分かりでしょう 私は誰でもない
誰も知らない ただの詠み人知らず
ドン・ジュアンも 従僕のスガナレルも
ドン・カルロスも 石像もいないんだ
あなただってそう エルヴィールじゃないんだ
別で遠くに 生きている人なんだ
浮気な夫を 持つわけでもなければ
地獄に落ちるわけでもない、あなたは
けれど私は まさにあなたのことを
恋人のようにも 主人のようにも
妹のようにも 我が子のようにも
思って慕い愛して 生きてきたんだ
それではそろそろ お別れしましょうか
十年にわたる 愛惜に別れを
虚妄の恋人よ 我が詩にお眠り
さぁ、手を放そう 手を振って、さようなら




