神殺し
私は不可能な愛ではなく
不可能自体を愛していたのだ
この手に宿る 葦の笛、
微笑み煽る 愛を捨て
凍えし覇王 闇とゆけ。
処女めく仮構 秋の暮
灰色の昼 心は目を覚ました
眠り妨げるもの 平坦な音
気まぐれ女神が吹く 葦笛だろう
我が愛の情熱を 刺激する音
霊魂惑わす 陶酔の演奏
茶色い細筒を 唇にやると
魅惑の音符 単調な音が鳴る。
ミューズの音色 無関心と横顔
我が情熱を欲する 女神の合図
女神に愛はないと 理解してこそ
私は愛を歌う 遠慮なくする。
義務も困苦も恥も 過失も罪も
全部無くなっていく 忘れていられる
色のない正午 はるかな笛の音
か細い屁のよう 今は聞くに堪えず
手に負えないよ 静かにしてくれよ、と
我が意識は発つ 目覚めるより早く
音を辿ろう 彼女を探すために
世界を抜ける。 灰色群の中を
光茫漠 老いが毒した下界。
背後を向くと ふと奇妙な気がした
一体どうやって あそこを抜けたのか、と
全部焦げゆく。 光燃えて闇だけ
あれもこれも 潰れ溶けてしまったのか
音に寄っていく 彼女の手を求めて。
うめき声のみ 想い乗せて近づく
時間消え去って 着いた楡の木のもと
女神に迫り 我が生命は戻る
色そして鼻 温度、知恵、もと通り。
ああ死生まで 君にひれ伏している!
そよと湿っぽい 風が日下に過ぎ去って
笛の微熱な音が 僕をして歩かせる
最初煮えたち 嫌悪示した僕は
今や喜悦を 全く秘める気もない
ローブに包まれた 女神が木陰に
葦笛吹く あなたは濡れたまつげを
密かな憂いで 静かに伏せている
なんて美しい人! 我を失って
近く僕は寄る。 熾烈に沸く詩魂
我が詩の女神よ なぜ悲しんでいる
“永遠”に倦んだか 変化しない全てに
あなたの森にも 太陽光にさえ
聖なる情熱や 絶対の愛にも?
しじまが押し寄せて 耳を満たしゆく。
演奏をやめると 女神は唐突
いじらしく熱っぽく 一瞥を吹いた
刹那あと僕に 劣情がとり憑く
彼女が欲しい 何もかも見せてくれ!
激しい欲望 あのローブを剥ぐと
野獣の下半身 まさしく不可能の獣
彼女は叫び 風に塵と消える
そして残るは 一つ葦笛ばかり
この手に宿る 葦の笛、
微笑み煽る 愛を捨て
凍えし覇王 闇とゆけ。
処女めく仮構 秋の暮




