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第60話 尻手《しって》の顛末

「研究の結果がまとまりました」


 ボス討伐の打ち上げでの香川(かがわ)さんの言葉。


「どんな研究?」

「ファーストスキルから、セカンドスキルとサードスキルが芽生える間隔です。セカンドスキルが芽生えるまではおよそ50倍掛かります。このダンジョンで暮らせば50日ほどです。サードスキルは2500倍です。およそ6年と10ヶ月といったところでしょうか」

「そうなるとスタンピードにサードスキルは間に合わないな」

「そうとも限りません。ボス部屋は濃厚な魔力に満ちています。ボス部屋に入ればたくさんの魔力を吸収できるはずですから」


香川(かがわ)さん。何でボス討伐に誘ってくれなかったのですか」


 拝島(はいじま)さん酔っているな。

 酔った拍子に失言しないといいのだけど。


「あなたの許可は必要ありませんので」

「貴女を危ない目に遭わせると、私の男としての矜持が」


 俺は拝島さんをちょいちょいと突いた。


「束縛すると逃げられますよ」


 と耳打ちしてやった。


「失敬、香川(かがわ)さんさっきの言葉は忘れて下さい。私は冒険者になって戸塚(とつか)さんと一緒にこのダンジョンで活躍します」


 拝島(はいじま)さんは候補だったけれど、聞いておかないといけないことがある。


拝島(はいじま)さん、武器はどうします?」

「愚問だな。銃に決まっているだろう」

「ええと、魔力のこもってない銃弾はモンスターに対して無力です」

「込めれば良かろう」


「良かろうってどうやるんだ?」

「ふむ、戸塚(とつか)さんのリフォームスキルでだ」

「そんな能力はないが」

「調度品というか小物も作れるのだろう。魔石に対してスキルを使ってみたらどうかね」


「素晴らしい」


 香川(かがわ)さんが拝島(はいじま)さんに抱きついてぴょんぴょん跳ねている。

 香川(かがわ)さんも酔っているな。

 でも一考の価値のある提案だ。

 魔石を床に置いてと。


「【リフォーム】弾丸」


 魔石が弾丸の形になる。

 硬くて加工コストが合わないと言われた魔石がこんなに簡単に。

 そうだよな、魔力が含まれている硬いダンジョンの床とかも変形できるんだよな。

 魔力がたくさん含まれる魔石が変形出来ても不思議ではない。


 拝島(はいじま)さんは真っ赤になってあわあわ言っている。

 しばらく至福の時を過ごさせてやろう。

 良いアイデアを貰ったせめてものお礼だ。


 魔石弾はモンスターに対して抜群の力を発揮するのだろう。

 ちょっとコスト的な値は張るが。


 拝島(はいじま)さんは猟銃所持の免許をとるのかな。

 俺はどうしよう。

 欲しい気もする。


 藤沢(ふじさわ)にも銃を持たせるか。

 うちのパーティに前衛はとうぶん要らないな。

 近づくまでに仕留めれば良い。


「私には魔石の鎧と大剣をお願いします」


 上溝(うえみぞ)さんにもお願いされてしまった。

 御嶽(みたけ)青年が羨ましそうにそれを見ている。


「俺にも頼む」


 番田(ばんだ)さんからも注文がきた。

 作るのは構わないけど、上溝(うえみぞ)さんが冒険者志望だったとはな。


「パーティメンバーには装備を作ります」

「私もお願いします」


 御嶽(みたけ)青年が意を決して申し出た。


「戦闘スキルと大義は見つかったか」

「今のスキルだと戦闘には役に立ちません。ですが、スタンピード災害で亡くなった人の霊とも話しました。そういう人を生まないために私の命が使えるのなら」

「若干後ろ向きだがまあ良いか」


「匿ってくれ」


 そう言って部屋に飛び込んできたのは尻手(しって)の野郎。

 俺が却下と言う前に、尻手(しって)はトイレに駆け込んだ。

 そして、サングラスを掛けて、黒いスーツを着た一団が現れた。


「金貸しなんだが、尻手(しって)は来なかったか」

尻手(しって)ならトイレに隠れてますよ」

「おう、ありがとな」


 尻手(しって)がトイレから引きずり出された。


「内臓を抜かれるのは嫌だぁ」

「有罪判決が降りる前にちょっと痛いだけだからな」


 俺は藤沢(ふじさわ)を呼んだ。


尻手(しって)の野郎はどうなったか知ってるか?」

「民事で軒並み負けそうです。刑事の方は保釈されましたが、有罪濃厚です」

「そうなんだ。自業自得だな」


戸塚(とつか)、俺が悪かった。頼む助けてくれ」

「お断りだ」


「大丈夫だ。2つある内臓もある。ひとつしかないのも、まあ大丈夫だろう」


 そう冷酷に告げる借金取り。


「嫌だぁぁぁぁぁ」

「おい、鎮静剤を打て」


「くそうこうなったら殺してやる。【パーフォレイト】」

「【リフォーム】壁」


 尻手(しって)のスキルは俺のスキルで防がれた。

 尻手(しって)は鎮静剤を打たれて連れていかれた。

 金遣いが荒かったからな。

 裁判で負けそうだと、そりゃ金が無くなるだろう。

 2度の横領の示談金を払ったらしいしな。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               19,604万円

上級ポーション3個             906万円

彫像10体                  10万円

カイザーウルフ60体          4,500万円

ドッペルオーク12体            600万円

シャーマンオーク12体           720万円

エンペラータランチュラ12体      1,056万円

メイズスパイダー12体         1,020万円

エレファントスレイヤー12体      1,440万円

打ち上げ費用        10万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計             10万円 29,856万円 29,846万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -74億円

スタンピード積み立て金  110億円


 これからは魔石の弾丸でバンバン金が飛ぶのだろうな。

 だが、このダンジョンの獲物は高い釣り合うはずだ。

 パーティの装備とかは別会計にしたいな。


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