表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/64

第30話 ポーションの寄付と、不細工なカバ

 部屋の買い手がひとり来た。

 相手は足を手術すると言っていた少年。


「初めまして片倉(かたくら)です。ポーションありがとうございました。おかげで手術なしで歩けるようになりました」

「手術なしで治って、良かったな」


「はい、お医者さんからは上級ポーションは賭けだと言われました。僕は運が良かったみたいです」

「こう言ってはなんだが、分譲ダンジョンをよく買う気になったな。お金大変だったんじゃないか」

「それが、僕の手術は海外で受ける予定だったので、寄付を集めたんですが、それが5000万円以上ありました」

「寄付が余ってしまったというわけか」

「はい、それで僕みたいに上級ポーションを飲めば治りそうな患者さんに、買った部屋から出たポーションを送りたいと思います」

「偉いな」

「いいえ、善意のおすそ分けをしなさいと両親に言われたので、そう考えました。僕だけなら5000万円は返還して終わったと思います」


「記念に部屋に一泊していくと良い。スキルが芽生えるから」

「はい、そうします」


 なんか清々しい気持ちで仕事ができそうだ。

 いつものように待機する部屋に行く。


「先輩、なんか良いことありました?」

「ああ、あったよ」


 俺は片倉(かたくら)少年の話をした。


「良かったですね。あの後どうなったか気になっていたんです。ポーションで治ったんですね。なら最初からポーションで治ると言えば良かったのに」

「ポーションでどれぐらい治るかは賭けだからな。医者も500万を賭けろとは言いづらいのだろう。俺も治るとは思わなかったよ」

「じつは私の部屋にポーションが湧いたんです。先輩にあげようかと思いましたが、ポーションを欲しがっている人に渡したいと思います」

「患者を探す必要があるな」

「それを考えると難しいですね」

香川(かがわ)さんに相談してみようか」

「ですね。人脈が広そうですから」


 待ち時間の間に、香川(かがわ)さんにメールを送った。

 すぐに返事が返ってきた。


「救命センターに勤めている人が上級ポーションを使いたいそうだ。定期的に供給があると嬉しいと書いてある」

「先輩さえ良ければこれからも送りたいと思います」

「俺も空き部屋から出た上級ポーションの1割は贈りたい」


 いま毎日ひとつは上級ポーションが出ている。

 毎日10個湧いて出るようになったらいいな。


 そう遠くない未来に叶うだろう。

 ただ、部屋は遊ばせて置くのではなくて、分譲または賃貸したい。


 部屋を貸した人にもポーション湧きの恩恵は与えたい。

 でないとスタンピードのデメリットを背負ってもらうだけになるからだ。

 そんなの不公平だ。


「そろそろ職人が来る頃だ。リフォームしている部屋にいるから」

「私も行きます。リフォームの記録映像を残しておかないと」

「あんなののどこが面白いんだか」

「物ができ上がっていく工程って面白くないですか。今は早回しにしてアップしてます」

「じゃあ、合間に見てみるよ」


 職人さんが来た。


「おはようございます」

「おはようさん。じゃあやるか。ダンジョンの加工はお願いするぜ」

「任せて下さい」


 俺のやることはほとんど一瞬だ。

 くぼみを作ったり、穴を開けたり配線を埋め込んだりだ。


 合間に藤沢(ふじさわ)がアップした動画を見る。

 ちょこまかと俺達が蟻のように動き、部屋ができ上がっていく。


 ダンジョンの中だという感じがない。

 普通の部屋のリフォームと変わりがないからな。

 これでは流行らないだろう。


 かと言って、リフォーム中にモンスターに襲い掛かられたら大惨事だ。

 討伐の映像から一続きで撮ればいいのか。

 だが、討伐の現場は命がけだ。

 変なことで気を逸らせたりしたくない。


 おお、良いことを考えた。

 部屋の自動片付けを撮ろう。


 俺は自分の部屋を適当に散らかしてカメラを設置した。

 一時間後に戻って映像を確認する。

 おお、片付ける時に魔法陣が出ている。

 こんなことになっているのか。

 でも意外に面白くない。

 バズる動画は難しいな。


 アップはするけどね。

 再生数を同時期にアップした動画と比べてみる。

 くそう、子猫の動画の10000分の1かよ。


 こうなりゃ意地だ。

 色々と撮ってやる。

 待機時間、宝箱をリフォームして家具を作る様子を撮影する。

 今度の動画はどうだ。


 見てみたが、まるっきりCGだな。

 たぶんスキルだとは分からないだろう。

 この動画も駄目だ。


 お子様向けアニメの電気ネズミのキャラクターをリフォームで作るぞ。

 だめだ。

 立ち上がった不細工なカバが出来た。

 やけくそに画像をアップする。


 そうしたら、大受けした。

 面白過ぎというコメントで溢れかえった。

 笑いたければ笑え。

 所詮、俺のスキルじゃこんな物しか作れない。


「味がありますね。もらっていいですか」


 藤沢(ふじさわ)が貰ってくれるらしい。


「持ってって。もう作らないから。俺の最後の作品だ」

「上手く作ろうとか考えない方がいいですよ。この像は実に人が良さそうじゃないですか。先輩の人間性が伝わって来るようです」

「無理に褒めなくていいから」

「本音なのに」

「分かったよ。これからもリフォームスキルで何か作る」


 とりあえず俺の作品のファンがひとりいることだけは確かだ。

 二足歩行のカバは藤沢(ふじさわ)の部屋の前でも表札をぶら下げて佇んでいる。

 そういう用途ならありかもな。

 何となく歓迎している雰囲気がある。

 リクエストがあったら他の人にも作ってあげよう。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し               11,321万円

分譲販売                5,000万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計               0円 16,321万円 16,321万円


相続税        2,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン        -88億円


 もう、とうざの金の心配は要らない。

 スタンピードさえ起きなければ問題はないようだ。

 無事、軌道に乗ったと言える。


 こうなったら、大金持ちか。

 はたまた破産か。


 大博打を打ってやる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ