表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/64

第10話 オークピエロ

 再編集された動画の再生回数の伸びは止まった。

 どうやら攻撃がワンパターンなのがいけないらしい。

 といっても串刺しくらいしか思いつかないし、安全のためには串刺しが一番だ。


 大船(おおぶね)さんが動画を見て一言。


「これは駄目だ」

「何でです?」

「言わなきゃ分らんか。ダンジョンの戦いを神聖視するつもりはない。だが、討伐は人間の存亡をかけた戦いだ。茶化していいもんじゃねぇ」

「分かりました。元に戻します」


 戦争の映像を茶化していいのかと言ったら、それは良くないと答えるだろう。

 そういうことだな。

 俺もちょっと調子に乗ってた感じがしてた。

 藤沢(ふじさわ)はちょっと残念そうだったが。


 今日も通路にあるモンスターのリスポーン潰し。

 オークナイトを難なく串刺しにして倒す。


「じゃあ、フォークリフト持って来ます」


 俺がそう言った時に、ダンジョンの地面が光った。

 モンスターリスポーンだ。


「【リフォーム】」


 モンスター出現の瞬間を狙って、串刺しにしようとした。


 出てきたのは顔を白塗りにして鼻を赤く塗ったオーク。

 そのオークはいきなりバク転した。


 ちっ、さけられた。

 俺の攻撃はあと2回。


「ブヒヒヒッ」


 オークが笑っている。


「気をつけろ。こいつはオークピエロだ。トリッキーな動きで何人も犠牲になっている」


 本にも載ってない種類の奴だ。

 さすが、大船(おおぶね)さんはよく知っている。


「【リフォーム】」


 オークピエロは刺してきた槍の刃を掴んで、倒立した。

 くっ、馬鹿にしやがって、槍の先端をウニにする。

 オークピエロは手を離し空中で手を叩いた。


 大きな音がして、耳がキーンとなった。

 くっ、やられた。

 大船(おおぶね)さんは耳を塞いでいる。

 流石だ。


 オークピエロの着地地点を予測して。


「【リフォーム】。何だと」


 オークピエロは出てきた槍の途中を掴み、ポールダンスした。

 しまったもう攻撃ができない。

 勝利を確信したのかオークピエロが笑いながら、迫ってきた。

 俺は、ある小説の技を思い出した。

 それは、しゃがんで避けると同時に足を出して転ばすというものだ。


 俺の足は見事オークピエロの足に直撃。

 オークピエロはよろけた。


 大船(おおぶね)さんが剣を振り抜いた格好で止まっていた。

 何時の間に動いたんだ。


 オークピエロの首が転がり落ち、血の噴水が起こった。

 今回は危なかった。


「お前さんの敗因はスキルの他の攻撃手段がないことだ。だが足払いはよかったぞ」


 武器を持たないと駄目かな。

 剣なんか使える気がしない。

 持つとその重さに動きが鈍りそうだ。


「スタンガンはどうですか?」

「魔力で覆われるから電撃は届く。だが、片手持ちサイズだとモンスター気絶させるほどのパワーはない。精々、少し怯ませる程度だ」


 俺はスタンガンを主武器にすることにした。

 それと唐辛子スプレーだ。

 毒の類は効くとのこと。

 だがダンジョンで毒は禁じ手だ。

 まず第一に冒険者が病気にかかる率が高くなる。

 発展途上国では今でもそれをやって多数の死者を出している。

 唐辛子は目に入らなきゃ俺達に害はない。


 痴漢撃退みたいな装備だが、俺が使いこなせるとしたらこんな所だ。


 今日の討伐は終りだ。

 地上に帰って、藤沢(ふじさわ)にカメラの映像データを渡す。


 コーヒーを飲んで生きて帰れたことをかみしめていたら、藤沢(ふじさわ)か心配そうな顔で見ていた。


「危なかったですね」

「まあな」

「はっきり言います。討伐を辞めませんか」

「それじゃ自殺するのと変わりない」

「そうですけど、今だって自殺行為と一緒じゃないですか」

「戦わないといけない時がある。そういうのに目を背けていたから今の俺がある。もう見ないふりはやめたんだ」

「しょうがないですね。ファンレターが届いてますよ」


 手紙がきていた。

 スタンピード災害で亡くなった人の家族からだ。


 『頑張って下さい、くじけないで』と書かれている。

 家族を亡くして大変なのに俺を応援してくれるんだな。

 そんな手紙が26通もある。

 俺は正直、自分のことだけで精一杯だ。

 他人を思いやるきもちなんか吹っ飛んでしまっている。


 でもそれじゃ駄目だと手紙は言っている気がする。

 何か凄く困難なことを成し遂げようとして、段々と周りにサポートしてくれる人達が増えることがある。

 それは理念が立派だからだ。

 それに人々が感動してサポートしてくれる。


 スタンピードは起こさせない。

 そう心に決めた。

 カメラの録画スイッチを押した。


「スタンピードは災害なのだから防げない。どこかそう思ってませんか。間引きすれば防げるんです。人の手が足りてないだけです。戦えない人は冒険者を支援しませんか。頑張ってという声掛けだけでも良いんです。そして冒険者の皆さま、金のことだけじゃなくて、無理のない範囲で格上のダンジョンに挑戦してみませんか。スタンピードは絶対に起こさせない。そういう運動を始めてみませんか」


 録画スイッチを切った。

 こんな映像でも感動してくれる人が一人でもいたら儲けものだ。

 やっている意味がある。

 もし俺が死んだとしても、意思を継ぐ人が出て来てほしい。

 そう強く思った。

――――――――――――――――――――――――

俺の収支メモ

              支出       収入       収支

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

繰り越し                1,397万円

唐辛子スプレー100本   10万円

スタンガン          3万円

依頼金          150万円

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

計            163万円  1,397万円  1,234万円


相続税        2,000万円

示談金        3,000万円


遺産(不動産)         0円

ダンジョン       -100億円


 補助金は全て使い切った。

 これからは遺産に手をつける。

 伯父さん、有難く頂戴します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ