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令和人、香辛料を手に入れる

「ぱんぱかぱーん!!ねえねえ見て見てぇ!!」


サフィナがご機嫌で木箱を持ちながら戻ってくる

船員たちがその木箱に注目する


その箱には色とりどりの粉末があった


「ま、まさか!!こ、香辛料!!」


略奪品の中でもSSR級の超絶レアだ

胡椒にシナモン、クローブにナツメグ

肉や魚の風味付けはもちろんのこと、食料の腐敗を防止する

冷凍保存がないこの時代にとって、欠かせないチートアイテムなのだ

しかもその需要の高さから高値で取引される


大航海シュミレーションでも、敵船を襲撃したときに入手できるドロップアイテム(通称:略奪ガチャ)では、換金アイテムとしても使用でき、食料の有効期限を延長できる分、金品や財宝よりも重宝される


「さてどんな料理をつくろうかしら?」


香辛料の風味があれば、サフィナの心を殺す料理も少しはまともになるだろうか

薄い塩味の干し肉に魚のスープ、そして何よりも問題なのが虫付きビスケット・・・

セナはうっすら考えていると


「この香辛料はお金に変えるぞ」


アマリア船長が非情な一言を言い放つ


「な、なんでぇ!!」


サフィアは絶望のあまり香辛料の入った木箱を落とす


(反対っ!!反対だぁ!)


セナも心の中で反論する

陰キャは3人以上いる空間では、発言権を失うのだ


アマリア船長はサフィナの発言に対し、無言で荷物を運び入れている船員たちを指さす


「ったく弾丸も火薬も少ねぇな」


ヴェリーナが数人の船員を率いながら、弾丸と火薬を運び、ぼやく


「・・・お酒も少ないの」


ネリアが等身くらいありそうな木樽を軽々と持ち上げ運ぶ

よほど中身が少ないのだろう


「なるほど、ハズレか」


ミネリアが溜息をつきながら吐き捨てるように言う


つまり略奪した船は、既に長期航海を済ませ物資が消耗しているのだ

航海にも略奪にも物資は欠かせない

この状況なら香辛料を換金して、物資にするのが合理的な判断だ


セナが香辛料の利いた料理を諦めかけた刹那


「で、でもぉっ!!」


サフィアが大声を放つ

彼女は諦めなかった


「意見が割れたら多数決、この船のルールだ」


アマリア船長が冷静に言い放つ

物資不足は船員の誰もが実感している

サフィナにとっては圧倒的に不利な提案だ


しかし、


「受けて立つわ!でも条件があるの!」


サフィナが条件を提案する


「うむ、言ってみるがいい」


アマリア船長は様子を伺うように腕を組む

船員たちが荷物を運ぶ手を止め、サフィナに注目した

そんな静寂と視線が集まる中、


「一度、一度だけでいい!香辛料を使った料理を振る舞わせて!多数決はその後にしましょう!」


サフィナは堂々と言い切った

船員たちがざわざわ騒ぎ出す


「いいんじゃねえの!ちょっとくらいなら!」


ヴェリーナの大砲のような大きな声が響いた

その声に続くように


「はい、はい!私も賛成っ!サフィアの香辛料を使った料理を食べてみたい!」


リジィが手を挙げ、小さな身体でぴょんぴょん跳ねながらアピールする

しかし、


「私は反対だ、物資不足だってのにそんな茶番をやってる場合か?」


ミネリアが割り込むように反論する


「星たちの声が聞こえない、混乱しているみたいなの」


ネリアが空を眺めながら呟く


現在は太陽が昇る昼間、星が見えないので、星占いができないらしい

賛成、反対はだいたい半々くらいだ

口論は平行線

陰キャのセナはぼおっと眺めるのみ


「ねえ!セナはどう思う!」


リジィが上目遣いで顔色をうかがいながら訪ねる


(リジィぃぃぃぃっ!!貴様ぁぁぁぁっ!!)


セナは心の中で叫ぶ

波風を立てずに、敵を極力作らないライフスタイルの陰キャにとって、選択肢を問うのは禁句なのを知らないのかよ


リジィの言葉に船員たちはセナに注目する


「えっ・・・あっ・・・っ」


セナから声にならない声が漏れる

注目されることに慣れていないせいか、緊張のあまり頭の中が真っ白になり、口が思うように開かない

視線と沈黙による拷問が続き、諦めかけた刹那、


「運命の女神に決めてもらうの」


静寂を破るようにネリアが発言する

手には表裏が異なる模様のコインが握られていた

ネリアの発言に船員たちの注目が変わる


(た、助かったぁぁぁっ)


セナは安堵の溜息をつく

ネリアはセナにむかってウインクで目配せをしていた


(私のために・・・好きだ!結婚しよう!)


「オタクに優しいギャル」もとい「陰キャに優しい海賊」が存在したとは

セナはそんなことを考えていると


「太陽の面が出たら香辛料の料理をするの、月の面が出たら香辛料の料理はしないの」


ネリアがコインを指で弾く

宙に浮いたコインを両手でキャッチすると、手をゆっくりと開いた


「・・・・ッ」


船員たちがネリアの手に注目し、息をのむ

結果は


「・・・・太陽の面なの」


ネリアが呟いた


「よっ、しゃああああぁぁぁぁっ!!」


サフィナが嬉しさのあまり叫んだ

さっそく鍋と食材を用意する

セナもサフィナの料理を手伝った



サフィナは凄く気合の入った形相で、鍋を火にかけながら、かき混ぜる

さながら料理人というより、魔女だろうか


「どうしてあんな提案をしたの?」


セナは訪ねた

その問いにサフィアは、ゆっくりと息を吸い


「本当の料理はね、みんなの心を豊かにして笑顔にするの・・・それが私の使命だから」


そして語りだした



サフィナ・サリスは王国の最南端に位置する地区で孤児として生まれた

そこは貧民区と呼ばれ、競争社会の敗北者や犯罪者などの訳アリの人たちで集まっていた


配給制度を廃止した王国にて、サフィナは運よく王国の貴族であり、アマリア船長の実家であるクローデル家に拾われ使用人として雇われた


そんなある日、クローデル家は「反逆貴族」として断罪された

サフィナはアマリアを連れ出し、貧民区に身を隠した


心を閉ざし無気力になったアマリアをサフィナが支えた

前向きになり海賊になるのを決心したのもサフィナの存在が大きかったと思だろう


それは今も昔も変わらない

それがサフィナなりのクローデル家への感謝であり、使命だから



ターメリックで色付けをし、クミンとコリアンダーで香りをつける

セナの令和知識を生かしたスパイスカレーだ


ライスの代わりにビスケットを用い、具材に干し肉や干し魚を入れた

岩盤のように硬いビスケットもカレールーであらかじめ柔らかくし、食べやすくした


カレーは日本の明治時代で海軍が脚気防止や曜日感覚を保つために毎週金曜日に食べられていたという


器に盛られたカレーを船員たちにふるまう


「うーん、いい匂い、口に広がる刺激、こんなのはじめてだよぉ!」


リジィが万年の笑みを浮かべる


「うめぇ!!うめぇなこれ!!おかわりっ!!」


ヴェリーナががつがつ食べながら、大声が上げる


「おいデカブツ!独り占めはよくないぞ」


一番ハードルが高そうな毒舌ペストマスクことミネリアにも気に入ったようだ

おそらくはじめて口にする香辛料を用いた料理だ、興奮するのも無理もない


「やったー、やったよセナ!!セナのお陰だよ!」


船員たちの大好評な反応に、サフィアは歓喜の声を上げる


「い、いやっ、私は知ってること教えただけで・・・サフィアの料理センスがよかっただけだよ」


セナは、褒められ慣れてないせいか、少し恥ずかしくなり、顔を背ける

恐らく不気味にニチャってるのが想像できるからだ


食事のあと、船員たちで話し合った結果、香辛料は半分を換金し、半分を食事に使うことになった


そんな船員たちの反応を見て、セナはもカレーを口に運ぶ


「・・・まずい、レトルトカレーの方が美味しかったなぁ」


サフィアの渾身の料理でも、令和人の舌は満たせなかったようだ


「やっぱり令和に帰りたい」


そう思うセナであった




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