令和人、海賊の正義に共感する
海賊と聞くと宝探しで一攫千金や未知の大冒険を想像するだろう
だが現実は違った
「島だぁ!!島が見えたよ~!!」
マストの上に位置する見張り台から、リジィが双眼鏡を片手に叫ぶ
(久しぶりに地に足をつけられる)
セナは一安心する
それなりに木々が生い茂った孤島だ
島の近くに停泊し、碇を下ろすと陸地に向かって橋を下ろす
「久しぶりの揺れない大地っ!!最高ぉぉっ!!」
セナは嬉しさのあまり、思わず地に頬ずりする
「そういえばどうしてこの島に?」
セナはアマリア船長に尋ねた
「この島の周囲は交易船の航路になっていて、この時期なら必ずここを通る」
船員たちは木箱や木樽などの荷物を下ろす
交易船が通過するまで、この島でサバイバルをしながら待ち伏せする寸法だ
ちなみに無人島らしいので、原住民との争いがないとのこと
これから起こるのは海賊の略奪だ
「このままだと……犯罪の片棒を担がされる」
大航海時代の海賊が捕まったら、ろくな〇に方をしない
なんとかして逃げないと……でもここは絶海の孤島……逃げ場なんてない
セナは湾曲した剣を渡される
確かカットラスとか言ったか、閉所で足場が不安定な船上で戦うために、サーベルの剣身を短く、コンパクトにした剣だ
「大航海シュミレーション」でも戦闘で必修アイテムだったので、なんとなく覚えている
「わ、私戦闘なんて……したことないし、足手まといですよ」
「構わないさ、セナはこれで自分の身を守ってればいい」
アマリア船長はフリントロック式のピストルを見せつける
銃口から弾と火薬を装填し、フリント(火打ち石)で火花を飛ばして点火するのが特徴だ
マッチロック式(火縄銃)と仕組みはさほど変わらない
「そもそもアマリア船長はどうして海賊なんかやっているんですか?」
アマリア船長は考え込むように黙る
そして
「私なりの"正義"かな」
アマリア船長はそう答えると、どこから用意したのか、木箱や木樽でテーブルとイスを用意し、ティーカップを取り出す
お嬢様のお茶会のように、優雅に座るとティーカップに注ぐ
ティーカップの中には紅茶ではなく、ラム酒だが
セナはつっこむのをやめた
「"正義"を名乗るのに"海賊"になったの、皮肉ですね」
「皮肉?……いいえ、違うわ。"正義"という言葉を口にするために、私はどれだけの血と泥を選んだか。……口にするには、それだけの代償が必要なのよ。"責任"を負わない"正義"ほど、無責任な暴力はないから」
◇
アマリア・クローデルは、王国上層の名門・クローデル家の令嬢として生まれた。
父は忠誠と高潔を貫く軍人。
彼女自身も海軍士官学校の主席候補生として将来を約束されていた。
「正義は、力と責任をもって語るべきだ」
それが父からの教えであり、彼女の信念だった。
かつてアマリアは、その意味を理解していなかった
ある日、アマリアは父に呼び出される
「アマリア、士官学校で揉めたらしいな」
「だってお父様!私は不真面目な生徒に喝を入れただけです!」
「それはなぜだ?」
「考えを改めてもらうためです!不真面目な生徒がいるだけで、他の生徒に悪影響です」
「もし改善の余地が見られなかったら?」
「はやいうちに切り捨てるべきかと、将来、指揮する立場になったとき、戦場で信用して背中を預けることなんてできません」
「その結果どうなる?」
「意識が高いもの同士影響し合い、より優れた軍隊ができあがるかと」
「そっちじゃない、切り捨てられた者の話だ」
「路頭に迷うことになるでしょう、しかし自業自得です」
「それがアマリアの"正義"なのか?」
「もちろんです」
父は大きくため息をつくと
「"正義は、力と責任をもって語るべきだ"いつも言っているだろう」
「私は何を間違っているのですか?」
「アマリアは将来、その"正義"を執行できる立場、つまり"力"を手に入れるだろう、しかし"責任"がない、間違った"正義"はあってはならないのだ」
当時のアマリアには父の言いたかったことを理解していなかった
真面目に実力がある持つ者こそ、評価され富や名声を勝ち取るべき
互いに力を競いあい、高みを目指すことで、よりよい王国になると信じてきた
王国もアマリアと同じ思想だった
だが王国の実態は、アマリアの理想とは全くの別物だった
競争社会が貧富の格差、人間関係の軋轢やいざこざを生みだした
結果を残せなかった人間はどんどんと切り捨てられ、路頭に迷う人々は増加し、国力は低下していた
父はこの状況を見かねて、何度も意義を申し立てたが、全く見向きもされなかった
そしてある日、アマリアが学校から帰ると館内を王国の騎士団が、使用人たちを捕らえ、占拠していた
「お嬢様!!お逃げくださいっ!!」
執事が必死に叫ぶ
騎士たちはアマリアを捕らえるために剣を構える
「いったい……なにが起こっているの?」
嫌な予感がしたアマリアは館を飛び出した
のちに知った話だが、父が“他国への軍事機密流出の疑い”をかけられた。
しかもその証拠はねつ造。審問は一方的。
父を目の上のたんこぶと感じた者による策略だった
クローデル家は一夜にして「反逆貴族」として断罪された。
アマリアは、軍籍を剥奪され、階級章を引き裂かれ、名誉を失った。
一族の名を汚され、父を処刑された彼女は、王都から逃れ、辺境の港で一人の亡命者として潜伏した。
「クローデル家」の人間だとバレたら、断罪されるので、フード付きのローブで顔を隠している
「ひどい、本当にここは王国なの?」
目に余る光景に目を疑った
そこにいたのは、王国の”責任”なき”正義”の末路があった
ぼろきれを身に纏い、骨が浮き出るまでやせ細った女性の集まりだ
1人の少女がアマリアに寄ってくる
「食べるものを分けてください」
10歳にも満たなそうな物乞いの少女は弱々しい声で訪ねてきた
あまりにも幼い容姿と悲惨な姿に同情せざるを得ず、手持ちの硬貨を渡そうか悩む
だが
「すまない、何も持っていないんだ」
アマリアは嘘をついた
ここで硬貨を渡せば、この少女は一時的に食事にありつけるだろう
しかし、食べ続けることはできない
それは救いとはいわない、"責任"なき"正義"だ
私が彼女たちにできることは、施しではなく生き方だ
アマリアは訳ありの女たちを雇い、船を略奪し、海賊団をつくりあげた
行き場を失った者へ居場所をつくる
これが今のアマリアの力でできる”正義”だから
◇
そして現在へ
アマリア船長は語り終えると、優雅に足を組み、ティーカップを顔に近づける
「この上質な香り……ダージリンか」
いいえラム酒です
ところどころで育ちの良さというか、上品な仕草は感じていたが、元々お嬢様だったとは
「船長だけ先に飲んでずるいよ!!」
船員たちは先ほどまで荷物を運んでいたはずが、既にラム酒を飲み騒いでいた
「お酒飲むならおつまみも用意しないとね」
サフィナは虫付きビスケットや干し肉を用意する
「さぁ…あんたの度胸、試してやろうじゃねぇか!」
ラヴィーナがラム酒に火薬を混ぜると、火を近づけた
ラム酒に火が付き液面が燃える
「黒ひげ」ことエドワード・ティーチはラム酒に火薬を入れて飲んでいたらしいが、果たして美味しいのだろうか?
「まずは言い出しっぺからやるのが当然なの」
ネリアの言葉にラヴィーナはニヤッと笑い、火のついたラム酒を飲む
「ああああああああああっっっっっっっ!!燃えるぅぅぅぅぅぅ!!」
見事に火だるまになり、地べたを這いずりまわる
「当然の結果なの」
ネリアは鼻で笑う
「熱殺菌か、見習うべきだな」
ミネリアが関心するようにうなずく
「ちょぉぉぉぉっっ!!、誰も消火しないのかよぉぉぉぉ!!」
セナは慌ててラヴィーナに引火した火を消火した
大きな火傷はなかったものの、丸焦げになり服がボロボロになり、半裸のような恰好になる
アマリア船長はその光景に見かねて
「リジィ、新しい服を用意してやれ」
「ええっ!?もう布がないよぉ~、セナにあげた分で最後だよぉ~」
ラヴィーナはしばらく半裸が確定した
アマリアの話では、リジィもネリアもラヴィーナもミネリアもサフィナもその他船員たちも
かつて居場所を失い、この船に行きついた過酷な過去を持つ人たちだ
今はバカみたいに笑って、アホみたいに騒いで
この生き生きとした少女たちの姿こそがアマリアの守りたい者、"正義"だ
セナはアマリア船長とこの船員たちについて行きたいと思った
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