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令和人、嵐の試練に挑む

人の"適応力"というものは恐ろしいものだ

セナは、不潔で劣悪な環境の船上生活に慣れ、臭い匂いすら気にならなくなっていた

虫付きビスケットや喉を焼くようなラム酒にも抵抗を感じなくなって、まさに1人前の船乗りになった気分だった


「"慣れた"と言えば聞こえはいいものの、実際は感覚が鈍っているだけなんだよなぁ~」


交代勤務をやっている親友の言葉を思い出す


「夜勤は仕事中は眠いし、昼間は眠れなかったけど、最近慣れたわ」


実際は自律神経をブチ壊しているだけなんだよなぁ

って思ったけど何も言わなかった


だが船乗りの試練がセナを襲う


「……星が、消えた」


最初に気づいたのはネリアだった。

甲板で星を見ていた彼女が、静かに呟いた。

刹那、空が唸った。

夜なのに青白く光る稲妻が走り、水平線の端が黒く膨らんでいた


「全員、配置につけ!!嵐だッ!!」


アマリア船長の声が響く。

帆がバチバチに風を受けて音を立て、マストが軋む。

波が1つ、2つ……いや3つ目には船体を揺さぶる“壁”になっていた。


船員たちが慌ただしく動き出す


「ヴェリーナ!お前は火薬しまえ!!爆発したらマジで沈むぞッ!」


「え〜!?今一番燃えてるのにぃ!?こんな嵐大砲で吹っ飛ばしてやるぜぇ!!」


アマリア船長がヴェリーナを制止する

嵐を大砲で吹っ飛ばすって、脳みそ筋肉かよ


「やばい、鍋がっ!鍋が飛ぶううッ!!」


サフィナがデッキを滑りながら、寸胴を追いかけてダイブ

海に飛び込もうとしたところを数人の船員が止める

こんな荒れた海に飛び込んだら一溜まりもない、命より鍋の方が大事なのかよ


そんな光景を傍観しているミネリアは、


「ふふ……汚物どもも雑菌もまとめてを洗い流せばいいのに」


と言っているものの、ブルブル震えながらも母親にしがみつく子供のように、必死にマストにしがみつく

被っているペストマスクも含めて、かなりシュールな光景だ


こんなパニックな状態で荒波を受け続けている

このままだと確実に沈む


「私がなんとかするしかないっ!!」


嵐が来たとき、帆を下げ、できるだけ最小限にし、船の向きを向かい波になるようにし、小刻みに舵を動かす

どちらも風や波をできるだけ受けないようにし、船の転覆を防ぐためだ

「大航海シュミレーション」でも帆の上げ下げと船向きで転覆確率が大きく変わるので、なんとなく知っている


「船の操縦なんてやったことないんですけどぉ!!」


セナは舵をとり、船向きを変える


「ちょッ、セナも勝手に何をやって、目的地とは違う!!」


ヴェリーナを制止し終えたアマリア船長が叫ぶ


「今は船の転覆を防ぐのが最優先です!!」


「この向きでいいの、"星の記憶"が帰り道を示している」


セナを制止しようと近づいたアマリア船長を、ネリアが制止する


「……」


アマリア船長は少し考え込むように黙ると


「……わかった、この嵐はセナ、君に任せよう!!」


その言葉にセナは大きく頷く

船の船首が大きく上がったと思えば、ドスンと海面に落下する

セナは不安定な足場で、滑らないよう踏ん張りながら、波に合わせて舵を切る


「あとは帆を下げ……」


「ふえぇ!!折角の帆が破れちゃうよぉ~!!」


既にリジィが帆を畳んできた


「リジィ!!グッジョブ!!」


あとは波の向きに合わせて舵をとるだけ!!


「私はいくつもの嵐を乗り越えてきた女!!(ゲーム内の話だが)越えられない海なんて存在しないっ!!」



夜が明けた。

数時間前まで怒号と悲鳴が混じっていた海には、まるで何もなかったかのように、陽が射していた。

セナは嵐が過ぎ去ったあとの静けさと、緊張感からの解放で脱力し、横になりながら空を眺める

船員たちは散らばった荷物の片づけや掃除で忙しい


「やっぱり俺の大砲が効いたの見るね!!」


ヴェリーナが得意げにドヤ顔している

アマリア船長に止められていたのに、結局撃ったのか


「私の“47時間煮込み”があああ!!」


鍋を海に落とし、落ち込んでいるサフィナに、ネリアが寄り添い


「嵐去った、命残った、でも鍋沈んだ、yeah」


ラップ?なにしれっと韻踏んでんの!?


「ずぶ濡れ・・・体温の低下、菌の温床・・・サイアク」


「もうっ!!動くとちゃんと拭けないよぉ!!」


ミネリアはぶるぶる震えながら、リジィに拭いて貰っている

まるで母親に世話になっている子供のようだ、体格的には逆なんだけど……てかずぶ濡れでもペストマスクは外さないのね


束の間の平穏

命が助かった安心感と、試練を乗り越えた達成感で満たされる


「君のお陰で無事に誰も失わずに嵐を乗り越えたよ!!君はまるでヴィーナスだな!!」


アマリア船長がセナに寄る

ヴィーナスって確か、船の安全や航海の無事を祈る象徴として、船首に付ける銅像の女神の名だっけ?

女神とか信じない令和人にとって、イマイチピンとこないが、女神と崇められるのは悪くない気分だ


「べ、別に大したことはなっ……オロロロロロロぉぉ」


高揚感とは別に、違う何かが込みあげてきた

嵐の最中は緊迫感と緊張感でアドレナリンが分泌され、ハイになっていたせいだろうか、船酔いの感覚がなかったが、落ち着いた刹那、急に症状が現れた


「ゲロのヴィーナス、なんちゃって」


ネリアがボソッと呟く

どこで覚えたのか、つっこもうと思ったが、その気力がなかった


でもセナにとっては、「史上最高の満足と史上最悪の船酔いがダブルで襲った朝」として、永遠に忘れられない朝になった


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


もし「面白い!」と思っていただけたら、評価(☆)をぽちっと押していただけると励みになります。


星は何個でも構いません!(むしろ盛ってもらえると作者が元気になります)


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今後の展開にもどうぞご期待ください。 感想も大歓迎です!

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