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令和人、星読航海術と胃の限界に挑戦する

「あれ?おかしいなぁ?」


アマリアは海図を広げながら、うんうん唸っている


(もしかして事件発生!今こそ現代知識をフル活用するとき!)


セナはアマリアに近づき


「何を悩んでいるんですか?」


「私の勘が正しければ、そろそろ陸が見えてくるはずなんだけど、全く見えてこなくて」


「勘?・・・航路を適当で決めてるわけ?」


このころの航海は、太陽や星の位置から緯度と経度を割り出すのが主流だったはず

その計器をアストロラーベとかジャコブの杖とか言ったっけ?

「大航海シュミレーション」でも必修アイテムだったので、何となく名前は覚えている


「航路の再確認を行うぞ、ネリア」


「了解なのアマリア船長、今夜が星が綺麗に見えるといいのね」


リジィより年下に見える少女が前に出る

夜空色のロングヘアに魔女風のローブ、天球儀のアクセサリーが無駄についている

ネリアはこの船の航海士だ

実はこの船で最年長というウワサもあるが、実年齢は誰も知らない


その日の夜。

波の音が静まり返る中、甲板の中央には天球儀と、やたらおしゃれな布が広げられていた。

星明かりだけが船を照らし、風がネリアのローブを優しく揺らしている。


「今宵の“サジタリウスの剣”が示す方向は──南西。海の吐息がそちらに希望の泡を立てているわ」


(え、なにそのポエム方向音痴の匂いしかしない……)


ネリアの言葉にセナは不安を感じる


「この角度……風向き……“第七守護星”が今、"心の港"を示している……」


ネリアが仰々しく、星図の上に小さな貝殻を置く。

それをコンパスでグルリと囲み、天を仰いだ。


「……南西3.5刻の距離に、未知なる運命が待っている」


「“刻”って単位どこで覚えた!?てかそこサンゴ礁って昨日ヴェリーナ言ってたよ!?」


ネリアは人差し指と立てて、


「静かに。星は今、私に語っているの……“セナ、口を閉じよ”って」


「うわぁぁぁ言葉が通じてるのに通じ合えない!!!」


航海術の欠片もなく、ただの星占いだった

アマリアはドヤ顔で


「ネリアは星の声が聞こえるんだ!安心して信用するといい、彼女の言う通りにすれば大抵のことは上手くいく」


「全く信用できる要素がないんですけど・・・」


アマリア船長が一歩前に出て、口元に手を添えた。


「よろしい。ネリアの星導きに従おう。進路、南西――“心の港”へ」


セナは泣きながら叫んだ。


「だからそこ岩礁って!!GPS使わせてぇぇぇぇええ!!」


その翌朝、無事に座礁した。


「星の示す運命は、いつも波に揉まれてから見えてくる──」


というネリアの名言が、また一つ増えた。



ー別の日ー


「みんなぁ~!ごはんできたわよぉ~!」


サフィナが大鍋を運びながら声を掛ける

ぽっちゃりふくよかな母性型グラマラスボディでふんわりミルクティーブロンドを三編みにした女性

この船の料理担当の船員だ


(流石に貧乏OL時代に比べて酷い食生活になることはないだろう)


毎日夜遅くに帰り、コンビニおにぎりとカップ麺を食べていたセナは少し期待していた

だが考えが甘かった


船首に用意されたのは、

・ハードタックとよばれるビスケット

・塩漬け肉

・干し魚のスープ


セナはビスケットを口にした


「あああああ、歯がああぁぁ!!歯が負けたあぁぁっ!!」


あまりにも硬さに絶叫する

ハードタックは小麦粉と水を練って焼いたもの

カビ対策で水分を極限まで少なくしているため、長期保存に向いているが、岩のように硬い


そんな光景を見たサフィナは、


「セナ違うわよ、このビスケットはこうやって食べるの」


どこから用意したのか、ハンマーを取り出し、ビスケットに叩きつけ、


「えいっ♡」


ドスンっ!!

激しい音と共にビスケットを割った


「ちょっ、きゃああぁぁぁぁァッ!!」


セナは衝撃の光景で思わず声を上げた

ビスケットの破片から小さな何かが蠢く


「こ、これって虫じゃないの、こんなもの食べられるわけないよ」


「それも栄養♡ “虫はビスケットの一部”って言うし」


「言うなそんなことを!!!」


サフィナは割れたビスケットの1片をとると、スープにつける

しばらく放置し、スープでふやけたビスケットを口に運んだ


「うん♡おいしい♡」


サフィナは満面の笑みを浮かべた

セナは割れたビスケットの1片をとる


「このスープ生臭くて、魚の目玉がこっちを見てるですけどぉ!!」


ためらいながらもスープにつけた

なんということでしょう

岩のようにガチガチだった虫付きビスケットが、スープを含み、ふやけ、なんとか食べられる硬さになりました

スープの香ばしい香りが、ビスケットに沁みつき、食欲を引き立てる


セナはビスケットをひと口運んだ

塩味と干し魚の出汁や風味が、口いっぱいに広がる


「・・・まずいっ!!」


舌の肥えた令和人にとって、味気ないものだった

おまけにビスケットに湧いていた虫がスープに浮いており、生理的に嫌悪してしまう


リジィが塩漬け肉をかじしながら


「サフィナの料理はね、食べれば死なないけど、心が死ぬの」


その瞳から光を失っていた


「ムリだってばァァァ!!」


アマリア船長が優雅に言う


「この食文化に慣れれば、お前も真の航海者だ」


その瞳から光を失っていた


「わたし…今日…コンビニおにぎりのありがたさ…思い出した……」


「ビスケットとは……硬さで精神を試す兵器である」


胃に入っても、心に残るのが本物の“保存食”なんだと思った



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。


もし「面白い!」と思っていただけたら、評価(☆)をぽちっと押していただけると励みになります。


星は何個でも構いません!(むしろ盛ってもらえると作者が元気になります)


そしてよろしければ、ブックマーク登録もお願いします。


更新時に通知が届くので、続きもすぐ追えます!


今後の展開にもどうぞご期待ください。 感想も大歓迎です!

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