令和人、カビ臭さとラム酒に悶絶する
「くっそ〜!また嵐で遭難!?ふざけんなよこのゲーム!」
普通のOLである橘セナは、スマホゲーム「大航海シュミレーション」をやりながら帰宅していた
「大航海シュミレーション」とは、架空の大航海時代で海賊船の船長になり、未知の冒険やオンラインで相手の海賊船やNPCの商船や海軍と海戦をしたりするゲーム
ランダムに天候が荒れたり、船員が病気になったり、いつ何が起こるかわからない要素を含まれており、大航海時代をリアルに再現していると、一部のマニアから一定の人気があるゲームだ
その一部のマニアであるセナは仕事の行き来でこのゲームをやり込んでいた
刹那、スマホ画面が光出す
「あっ、しまっ・・・」
セナは驚いてしまい、足を滑らせ、川に飛び込んでしまった
(息が・・・できない・・・私・・・死ぬ・・・)
刹那、誰かがセナの腕を掴み、身体が水面まで引き上げられる
「大丈夫?今助けるね」
「ゲホッ!ゴホッ!・・・はあはあ、ありがとうございまs、ツ!!」
セナは水を吐き出し、息を整え、助けてくれた人に礼を言おうと頭を上げると、そこには変わった格好の人がいた
ベレー帽を頭に被り、ボロボロのシャツの上にチョッキを着た、海賊風の明らかに場違いな恰好
そのままセナは引き上げられる
揺れる木製の床に潮の香、間違いない、さっきいた場所と違う
間違いない船の上だ
「い、いったいここはどこおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」
セナは困惑していると、引き上げてくれた海賊風の女性が駆け寄り、
「私はアマリア・クローデル、この船を船長を務めている」
黒い長髪に、長身でスレンダー、白と黒を基調とした艦長風のコートを羽織っている
「ええとぉ~、もしかしてコスプレ?ここはディ〇ニーランドですか?それともユ〇バですか?」
セナはアマリアと名乗った女性に、問いかける
その問いにアマリアは首を傾げ、
「コスプレ?ディ〇ニーランド?ユ〇バ?何を言っているかよくわからないが、変わった格好だね、君は一体何者なんだい」
「私はセナ、普通のOLです」
アマリアと周囲の海賊たちは首を傾げながら互いに顔を見合わせ
「知ってる?」「知らない?」
ヒソヒソ話している中、アマリアが、
「OLってのはよくわからないが、セナは難しい言葉をたくさん知っているんだな!!」
OLもわからないって、まあそういう設定なら仕方ないか
「セナは変わった格好をしているね、どこの出身なのかな?」
アマリアからの問いにセナは自分の恰好を見る
ブラウスの上にジャケットを羽織り、スカートにパンプスと言った格好
明らかに浮いているのが確かだ
「日本出身です」
アマリアと周囲の海賊たちは首を傾げながら互いに顔を見合わせ
「知ってる?」「知らない?」
ヒソヒソ話している中、アマリアが、
「二ホンってのはよくわからないが、セナは難しい言葉をたくさん知っているんだな!!」
もしかしてデジャブ?同じセリフしか言わないNPCかよ
セナは周囲を見渡す
ここにいる誰もが海賊っぽい恰好をしており、視界に目立つのは3本の大きなマスト
「大航海シュミレーション」でよく見るが、現代ではほとんど見る機会のない帆船だ
「セナ、君は一体何者なんだ、突然空から落ちてきて」
「空から落ちて?私が?」
川に落ちただけなんだけど、空から落ちてきたってどういうこと?
でも明らかにさっきまでいた場所と違う、だって海水だもん
ついさっきまでゲームをしながら歩いていて、川に落ちたと思ったら、海水から引き揚げられた
もしこの現象に理由付けるなら・・・
瞬間移動・・・にしては令和にこの帆船に違和感がある
ここがアトラクションなら納得がいくが、ロールプレイがガチ過ぎて演者とは思えない
強いていうならタイムスリップもしくは異世界召喚
「もしよかったらうちの船のクルーにならない?、人手が足りなくて困っているんだよね」
アマリアの提案にセナは驚く
今の目的は元々いた令和に戻ること
現在の場所も、戻るために何をすべきか全く情報がない状態で、仲間ができるのは頼もしい
なにより生活基盤が初期状態から整っているのは、なろう系では大きなアドバンテージだ
現代知識をフル活用して大航海時代を制覇!!海賊王に俺はなる!!
なんてことを考えていると
「くしゅん」
セナは急な寒気に襲われ、身体が震えだす
全身ずぶ濡れなせいで体温が奪われたのだろう
「とりあえず服脱いで、これで身体を拭いて、このままだと風邪引くよ」
セナはアマリアの言うままに服を脱ぎ、ボロボロで汚れた布を受け取る
その布はカビ臭く、汚れで芸術的な模様を描き、令和人なら触ることすら抵抗を感じる特級呪物だ
このまま濡れっぱなしになるわけにもいかないし、せっかくのポフィの親切を断るわけにもいかない
時代が違ったら罰ゲームか悪質ないじめなのだが、悪意を感じない分たちが悪い
セナは布を受け取ると、身体を拭いた
(この調子で先が思いやられる)
「セナに服を用意してあげて、リジィ」
リジィと呼ばれた女性はセナの前に出る
10代半ばくらいの子供らしさが残る少女だ
「リジィはうちの船の帆織職人兼衣装係、以前は家業で織物をしていたらしい、布のことならこの船で一番頼りになる」
リジィと呼ばれた少女は、セナが脱いだ服に目を輝かせて
「この生地凄い上質!!肌触りも最高っ!!もしかして貴族だったり?」
リジィの迫る勢いに圧倒される
「べ、別に貴族じゃないよ、普通の平民ですよ」
セナの言葉にリジィは目を丸くして
「ほえっ!!二ホンの人たちってみんないい服着てるんだね!!羨ましい!!」
「とりあえず船内に服を取りに行こうか」
セナはリジィに案内されて立ち上がろうとした刹那、
「バキィッ!!」
ヒールの踵部分が船の床に突き刺さる
「あ、あ、ああああぁぁぁっ!!ご、ご、ごめんなさい!!そんなつもりじゃ」
セナは咄嗟に謝る
(ま、まずい・・・船を傷つけるなんて、もしかして責任取ってサメの餌になれ!!とかされるの?)
「靴に凶器を仕込むとはさすがだな」
(ゑっ?)
なぜか周囲は関心の目でこちらを見ている
それどころか拍手している
どうしてそうなった
とりあえず船上ではヒールを脱ぐことにした
「基本的にみんな一張羅なんだけど、セナはどうする?今着てた服を着る?上物だから普段着にするのもったいないよ」
さっきの恰好だと明らかに周囲と浮くし、何よりも海賊ファッションに興味がある
「折角だから服をもらおうかしら」
セナは期待に胸を膨らませながら、リジィから服を受け取る
・セナはカビ臭いシャツを手に入れた!!
・セナはカビ臭いズボンを手に入れた!!
・セナはカビ臭いブーツを手に入れた!!
セナは絶望した
ここで装備していくかい?
→YES!!
セナは脳内ナレーターで倫理観を誤魔化し、リディから受け取った服を着た
「えっこれ“カジュアル航海スタイル”!?動きやすいけど、素材が布じゃなくて拷問なのよぉ!」
めちゃくちゃ重いしゴワゴワする
風呂スキップとか腋臭とか、そんなチャチなもんじゃねえ
毎日着替え、洗剤や柔軟剤で綺麗にした服を着ているのが当たり前の令和人にとって耐えがたい
(あのさぁ、ドライTシャツとスニーカーって革命だったんだな…(涙目))
「さっき基本的にみんな一張羅って言っていたけど、汚れた服って洗濯しないの?」
セナはもらった海賊衣装が放つ匂いを我慢しながら訪ねる
「洗濯はしないよ!船の上での洗濯は手間だし、なによりも水が貴重だからね!」
リディの絶望的な返答に
「それで“清潔感”が死んだわけね!?ファブリーズくれぇぇぇっ!!」
◇
セナのリジィは船の甲板に戻ると船員たちが集まっていた
それぞれ違った個性豊かな恰好をしており、おおよそ20人近くはいる
「皆に紹介しよう!!新しい仲間のセナだ!」
アマリアが大声で紹介すると、船員たちの拍手や歓声で包まれる
(このノリ陽キャかよ、陰キャには辛すぎる)
なんてことを考えながら、内心ビクビクしていると
「随分とかわいい新人じゃん!!こんなもやしちゃんじゃあ3日ももたないんじゃねえの?」
高身長で筋肉質な女性が、セナの肩に腕を回し、絡んでくる
カビと汗、火薬が混じった他の船員とは違ったスメルを放っている
ここでナメられたら一生イジられキャラになってしまう
「舐めないでください!!」
セナは腕を振りほどこうと叩く
しかし、鍛えられた太い腕は微動だりしなかったが、いつもの癖でイキリ陰キャムーブをしてしまった
刹那、場の雰囲気が凍り付く
(しまった!でもダル絡みされなくなるならいいか)
と思ったが、
「ハーッハッハ!!気に入った!!俺はヴェリーナ、この船の砲撃手と火薬の管理をやっている、よろしくな!!もやしちゃん!!」
ヴェリーナは爆音ボイスを放ちながら、大きな掌でセナの背中を力強くバンバン叩く
よくわからないが想像とは裏腹に気に入られてしまったらしい
(うるさい!しかも結構いたい!陰キャの天敵!!やっぱりこの人苦手だ!)
「ほらよ、受け取りな」
ヴェリーナが液体が入った木のジョッキを投げて渡す
セナはおそるおそる受け取った。
その液体は茶色く濁っており、アルコール特有のにおいを放つっていた
「これ…ラム酒ってやつ?」
「そうだ。心に火がつくやつだ。臆病者にはちと刺激が強ぇがな!」
ラム酒はサトウキビを原料とする蒸留酒
水よりも腐敗しにくく、長期保存に適していたため、海賊たちは水代わりにラム酒を飲んでいた
底にうっすら何か沈んでいるが、気にしたら負けだと、セナは自分に言い聞かせた。
アマリアがジョッキを構えて
「それじゃあセナとの出会いと、これからの航海に乾杯!!」
『乾杯!!』
船員たちは、一斉にジョッキをぶつけあうと飲み始める
セナもジョッキの縁に唇を寄せ、思い切ってひと口。
——刹那、喉が焼けた。
「ぶはッ!?え、これ飲み物!?罰ゲームじゃなくて!?」
ラムの辛みと、どこか香ばしい甘さ、ほんのりと潮の気配。
強烈な熱が胃に落ちるころには、セナの目の端に涙が浮かんでいた。
「うわ…なんか…体があったかい……っていうか、顔が熱い……ていうか、視界ゆれてない!?」
ヴェリーナが笑う
「あぁ、それが“航海の味”だ。酔いが回れば、お前も立派な船乗りよ!」
セナはぐらつく視界の中、ジョッキをもう一度見た。
まだ半分以上残っている。
「こんなん毎晩飲んでんの!?おかしいってこの船!!」
「おお、いい飲みっぷりじゃねえか」
ヴェリーナはご機嫌そうに笑うと、飲みかけのジョッキにラム酒が注ぐ
「ちょっ!?これってアルハラじゃないの!?」
「アルハラ?ってのはよくわからんねぇけど、まあ遠慮するなって」
セナは助け船を求めて、アマリアに目配せをしたが
「人生とは…潮風と舌に残る残糖感…!」
もう既に酔っていた
逃げ道がないことを悟ったセナは、ジョッキのラム酒を一気に飲み干し
「っっっうぇぇぇい!!さけもっともってこぉーい!!」
酒に溺れた
次の日、二日酔いで苦しむことをまだ知らない
「帰りたい……今すぐ令和に帰りたい……」
セナはこのクソみたいな世界から現代に帰ると誓った
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
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