散歩中に出会った占い師に婚約破棄復讐話を聞かされた末に
そこの散歩中のお兄さん。
この占い師の婆の話を聞いていかないかい?
女難の相が出ているよ。
おや、来てくれたね。
お兄さん、身なりからして貴族の令息かい?
それに随分といい男じゃないか。
さぞや女泣かせなんだろうねえ。
まんざらでもなさそうな顔をしているね。
でも女を弄ぶと後が恐いよ。
手相を見るために、ちょいと手に触れさせておくれ。
ふーむ。
あんた、長生きできないかもね。
ヒヒヒ。
あんたが女に恨まれて殺されたりしないように、婚約破棄されて復讐に走った令嬢の話でもしてあげようかね。
あるところに、婚約した貴族の令嬢と令息がいてね。
だけど令息の方が悪い男でねえ。
あれこれ理由をつけては、令嬢にたびたび資金をせびったのさ。
ときには甘い囁きで、ときには泣き落としでね。
しかもその令嬢家が傾くほどに絞り取るだけ絞り取ったら婚約破棄。
悪い男だろう?
でもその令嬢は泣き寝入りはしなかった。
令息への復讐を誓ったのさ。
令嬢は復讐を成し遂げるべく、ある魔女の元を訪れた。
そして呪いの掛け方を教えてくれと頼んだのさ。
だけど魔女は強欲でね。
只では呪術を教えてあげなかった。
すっかり財産を失った令嬢に、あるもの差し出せと言ったんだ。
若い女にとって、とてつもなく大切なものをね。
令嬢は大切なものを無くした。
その代わりに会得したのさ。
相手を13日間に渡って苦しめて苦しめて苦しめて殺す、最悪の呪術をね。
ヒッヒッヒッ。
どうしたね?
顔色が青いよ?
ああ。
心配せんでも、私は話に出てきた魔女じゃないよ。
それにその呪術は、強力な代わりに使うための条件が多くてね。
恨みを抱く本人にしか使えない上に、呪いを掛ける日にあることをしなければならないのさ。
まず相手に触れる必要がある。
しかも恐怖を植え付けなければならない。
だから恨みを買った相手に出会わない限り、呪い殺されたりはしないよ。
出会わない限りね。
さてと。今日の商売はこれくらいにしようか。
帰って今日中にやらないといけないことがあるからねえ。
ククク。
孫の相手か、ですって?
違いますわよ。
私は結婚しなかったんだもの。
もっとも、婚約者がいたことはありますのよ?
うふふふふ
おほほほほ
その令嬢が呪術を身に着けるために差し出したもの。
若い女にとって、とてつもなく大切なもの
それが何かお分かりになりまして?
若さですわ。
キヒヒヒヒヒ
イイーッヒッヒッヒ
私が誰か、もうお分かりですわよね?
そして私の元婚約者は――。
お前だ!