断罪
夏が近づく頃、とある番組のロケで地元の近くを通ることになった。
撮影が終わるまでは何も問題はなかったのだが帰り道新街道を走行中のロケバスがパンクした。
パンクした道の向こうにあの商店街があった。
撮影は終了しているのでタクシーを呼んで解散することになったがレキトはいつの間にかその撮影陣の輪から消えていた。
そのことに気づいたスタッフたちはパニックになるがスタッフの1人が
「ここレキトさんの地元だから大丈夫だと思いますよ。なんだったら私探してきますね。」
と言った。
いやお前も迷子になったら困る。という先輩スタッフに
「私のお爺ちゃんの家がこの辺りなんです。土地勘あるんで平気ですよ。」と彼女は言った。
レキトは1人シャッター街を歩く。
1年前までやっていたあの店もこの店も閉まっている。
シャッターには張り紙が貼ってあり「今までお世話になりました。」の文字が見える。
誘われるように歩いて行った先は件の時計屋だった。
看板は外れているし張り紙は角の部分を残して無くなっている。
話を聞こうにも周りには何故か人っ子1人居なかった。
気づくとまた歩き出していた。
どこに向かうか自分でもわからないが自然と足が伸びる。
どれくらい歩いただろう。
あまり見慣れない旧道を抜けた先にあの日に行った汚いホテルがあった。
いやもう潰れているのだから汚くて当然かもしれない。
少し歩くと新街道に出る。
信号のところに献花台のようなものがあった。少女が轢かれて亡くなったようだ。
その写真に見覚えある。
胃が鳴る。
事故の日付はあの日だった。
血の気が引くのを感じる。
その写真の少女はレーラだ。
「その人、お知り合いなんですか」
後ろに立った女性がレキトに声をかける。
人の気配に気づかなかったレキトは驚き振り返るとそこに居たのはロケスタッフの1人だった。
大量のスタッフの一人一人を覚えてるわけではないがその子は4月に入ったばかりの新人だったので見覚えがあった。
「あっスタッフの、あー」
「名前、覚えなくていいですよ。スタッフたくさん居ますもんね。」
「すんません、できるだけ覚えようとはしてるんですけど。」
「いえいえお気になさらず。それよりその写真の子、お知り合いですか?」
薄ら悪意のこもった笑顔を浮かべるがレキトは、それを見ていない。
「いや、‥まぁちょっとだけ知ってる人。」
歯切れ悪く答える。
「それは残念でしたね。それじゃこの話も知ってます?その子が亡くなった日にもう1人この近所で亡くなった人がいるってこと。」
レキトは目を閉じる。
夕焼けが眩しいからではない。
閉じた瞼から涙がこぼれ落ちる。
「この街道沿いにちょっと行ったところに今はシャッターだらけになった商店街があるんですよ。そこの時計屋さんの店主がその日、その子とほとんど同じ時間に亡くなってるんです。」
ロケスタッフの女性が語気を強める。
「アンタが殺したんだろ。」
「ーーっ、」
「何とか言えよこの人殺し!」
女性に押されて車道に飛び出る。
間一髪のところで車が避けてくれた。
レキトは避けようとしていなかった様に見える。
ゆっくりと歩道へ戻り
「何でわかったの」
と優しい声で尋ねた。
「アンタの友達がネットにあげた画像にあのギターが写ってたんだよ!あのギターは私の‥‥私の死んだ父さんのギターなんだよ!」
レキトは思い当たらない。
何故なら、その写真は高校時代の悪友たちが引っ越しの手伝いをしてくれた時に偶然車のフロントガラスに反射する形で写ったものだった。
「それをお爺ちゃんが直して私にって言ってくれたものなんだ!あの日アンタがお爺ちゃんを殺したあの日!私はあのギターを受け取るはずだったんだ!」
新街道に女性の慟哭が響く。
もう何を言ってるかわからないほどだ。
レキトは対照的に冷静になったようで
「わかった。警察に行く。もう終わりにしよう。」
と呟いた。
「自首なんてさせねーよクソ野郎おお!!」
レキトが立ち上がると女性は全身を使って飛びかかった。
2人揃って道路に飛び出す。
今度の車はよほど速度が出ていたのか全く避けれなかった。
すざまじい衝突音で人が吹き飛ぶ。
飛ばされなかった方は車体の下に巻き込まれる。
巻き込まれた女性は即死だった。
吹き飛ばされたレキトは何とか一命を取り留める。
誰かが通報したのか救急車の音が聞こえる。