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落日

企画の課題曲は決してカメラの前での練習だけでは弾けるようになるはずのない難易度だった。

コレは企画者側が「イケイケの高校生シンガーが挑戦するも失敗」という構図描いていたものだ。

つまりヤンキー崩れの顔だけシンガーに無茶振りしたら企画がポシャりましたーって目論見だ。


だがその目論見は外れる。


想定外の人気が出たのはレキトの外面的な人気によるものだけではなかった。

経験者なら不可能なのが丸分かりの選曲にも関わらずメキメキと上達するセンスと垣間見える努力が人気を後押しした。

放送されるたびに上手くなるのを見て[裏でめっちゃ練習してそう][忙しいだろうに偉いな][曲変えてやれよ可哀想に]とか言ったコメントがネットに溢れた。


実際はただ、ソレ以外のことを全て削ぎ落としていた事を誰も知らない。


レキトは卒業までに必要な分の出席と仕事以外の全ての時間をギターに捧げていた。

新しくなった家に帰ると寝落ちする限界までギターをかき鳴らした。

なにも考えずにいられるのはその時だけ。

少しでも時間の余裕が生まれると首を掻き切り、裂くほどの怒りと罪悪感に心が侵食される。

元々ずっと派手な髪色をしてきたのでバレていないが実際はまだ10代にも関わらず白髪の方が目立つような精神状態だった。


類い稀なるセンスと本人は忘れているが幼い頃の経験値、そして全てを削ぎ落とすほどの努力の結果、企画は大成功に終わった。


そのあまりの大盛況ぶりに驚いた事務所の上層部がわざわざレキトを呼び出し事情を説明して謝罪したがレキトはそんなことどうでも良かった。


企画が終わる頃には高校の卒業式が間近に迫っていた。


学校側も巻き込んで多くの大人たちの完璧な調整によってギリギリで卒業式を迎える。

自分の分の卒業証書を受け取ると式の途中で悪友たちと別れを惜しむ間もなく仕事へ向かう。

マネージャーの運転する車から仲間達を見ると古谷以外が全員がわざわざ式を抜け出してきたようだった。


テレビ、ラジオ、レコーディング。

普通なら忙しいのだがレキトには耐えがたい程の空白の時間が生まれる。

どれだけ仕事をこなしても空き時間があると罪悪感に心が支配される。


ネット番組の企画が終わってギターを返してしまったので楽器屋に向かうもどれもしっくりこない。

企画のために借りたギターを使っている時もその違和感はずっとあった。

部屋に戻ると厳重に隠していたあの日奪ったギターを取り出す。


吐き気がする。

蕁麻疹もでる。

でもコレじゃなきゃダメなんだ。

コレを弾かなきゃ。


思考がココロを凌駕する。


何時間も演奏してるうちにできた曲を録音して何となくネットで公開するとまたも爆発的な人気が出た。


業界人や広告代理店、メディア、ましてや本人すらも意図していない形でドンドン人気が白熱していくその異様さにレキトは常に怯えるようになる。


高校を卒業していくつかのテレビ番組からレギュラー出演の話を打診されたので何も選ばず全て受けた。

ゲストだろうとレギュラーだろうと全力で挑むその姿は歌手というよりはテレビタレントだった。

その中のある番組で占い師にこんな事を言われた。


「貴方は幸運の星のもとに生まれた。」


その占い師は大炎上した。


レキトの凄惨な人生はその殆どが表に出ている。

不良少年だったことや両親に捨てられた事、遺産も奪われたことなど細かい話も誰からのリークのせいで世間に知られている。

そのレキトに幸運の星と言い切った占い師の炎上は仕方なかったのかもしれない。


しかし、レキトはその発言について何の怒りも示さなかったので好感度がまた上がった。


彼は単純に占い師がその発言よりも後に言った言葉に頭の中の全てが奪われていただけとは皆つゆとも知らない。



「育った街には帰らない方がいい。あの街に全ての悪いものを置いてきたから今の貴方があるのだ。」


レキトは番組を録画して何度も何度もその言葉を再生する。

もう一語一句覚えたのに無心で繰り返す。


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