残念な決意
茫然自失のレキトはただただ歩いていた。
祖父の家から30分ほど歩くと駅前に出る。
そのまま駅の反対口を抜けてまっすぐ歩くと大きな川が流れている。
河川敷にはいくつかのグループがいて楽しそうになにかしてる。
ぼーっと川を見つめるレキトのところにそのうちのいくつかのグループが話しかけてきた。
[誰々さんの後輩のなんとかです]とかそんな挨拶をされても今はそれどころじゃないので適当に相槌を打つと、みな満足したように離れて行く。
レキトは所謂不良だがヤンキー文化というものが嫌いなのでこういったノリも好きじゃないのだ。
ここに居るとうるさいな、と思い腰を上げその場を離れようとするレキトに少女達が声をかける。
「カラ高のレキトさんですかー?」
ギャルの軽いノリにイラッとしたので無視すると1人は怒って向こうで待つ仲間のところに行ったが1人は残った。
暗闇でレキトは見えていなかったがそこには古谷がいた。
帰ってきた少女からレキトの名前を聞いた古谷は手を振るが暗いからだろう気づいてもらえない。
まぁ明日学校で話せばいいか、と古谷は諦めた。
「レキトさんってーめっちゃ歌上手いんでしょ?レーラ聴いてみたーい!」
レーラと名乗ったその少女は普段、年齢を誤魔化してキャバクラで働いているらしい。
押しの強いその子の持つ雰囲気にいつの間にか飲み込まれたレキトはカラオケにいた。
「やばー!めっちゃ上手ーい!レーラ歌上手い人好きー、つーか顔もめっちゃタイプだしー!」
そんなことばかり言うレーラにレキトは簡単に絆されて気づいたら汚い安ホテルにいた。
母親との一件でぽっかり空いた心の隙間にレーラは上手く入り込んだのだろう。
コトが済んだあとレーラはどうやら寝てしまったようだ。
レキトは帰り支度を始めると散乱したレーラのカバンから財布が落ちていることに気づく。
無意識のうちに出ていた自らの手を眺めると
「何してんだオレ‥‥」
と呟くと涙が頬を伝っていた。
涙が出るほど泣いたのはいつぶりだろう。
そんなことを考えながら夜道を歩いていると急に吐き気が襲ってきた。
電柱の看板に手をかけ下を向くと一気に胃の中の内容物が込み上げて排出された。
喉が焼ける様だ。
そのまま吐瀉物の隣に座り込むとポケットのなかのお札がクシャっと音を立てる。
少女から盗んだお札だ。
声を殺していくらか泣くも誰も通らない。
最近できた新しい街道をみんな使うからだ。
新街道の方は何やら騒がしくしているがコチラは対照的なほど静かで少年が人目を避けて泣くには都合が良かった。
少しすると涙は止まり逆に冷静になった様子のレキトはさっき吐いてしまった看板を見る。
薄汚れていて殆どの字が消えている。
微かに読める文字は[修繕、修、計]
あの感じからすると修繕、修理、そして時計と書いてあったのだろう。
(修理、時計なんか聞き覚えがある。)
レキトは夕方、同じ学校の軽音部たちがしていた会話を思い出す。
(たしか時計屋に高価なギターがどうとか言ってたはずだ。)
ポケットのなかのお札を数える。
(これじゃひと月も持たない。食費だけですっ飛んじまう。)
母への怒りが暴走し傷付けられた分、誰かを傷つけてもいいという無茶苦茶な論法に辿り着く。
本人は至って冷静なつもりなのだからタチが悪い。
そしてレキトは決意した。
何をしても誰を傷つけても高校だけは卒業するという残念な決意を。