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第1話 好きな人がいる俺は、成り行きで委員長と付き合う事になった⁉

 中学三年生の頃。黒川大智黒川大智(くろかわ/たいち)には元々好きな相手がいた。

 だが、その人は遠い存在であり、昔一度、握手会で数秒ほど出会ったことがある程度。

 十秒という少ない時間で、まともに会話できていなかったが、あの時に握手した感覚は今でも覚えていた。


 その子は黒髪のロングヘアが特徴的で、チームの中でも他人をまとめることに長けていて、周りからの信頼もあったのだ。

 大智は、アイドル活動をしている彼女の姿を遠くから見て応援するだけの日々。

 一度はアイドルと付き合ってみたいという願望を抱いていて、いずれ付き合えるのではという淡い希望を抱いていたが、それが現実になる事はなかった。


 彼女が中学三年の夏休み――八月の末で活動を終了すると宣言したからだ。


 その年の八月は、大智にはやるべき事があった為、卒業ライブに参加する事は出来なかった。

 アイドルとしての彼女の最後の姿を見守ることなく、大智は気が付けば好きだったアイドルグループを見るのを辞めたのだ。






 アイドルグループを見るのを辞めてから二年ほどが経過したと思う。

 大智は高校二年生になっており、普通の生活をしていた。


 普通といっても、陽キャのように恋人なんていない。

 ただ、陰キャとして普通くらいの学校生活を送る事が出来ていたのだ。


「ねえ、今日なんだけど、予定とかってある?」


 朝。

 通学路を歩いている際、大智は隣を歩いている子から問われていた。

 彼女はクラスメイトの女の子――高島葉月(たかしま/はづき)。二年生になってから一緒に関わる機会が増え、通学路も同じだった事も相まって通学する時も一緒であった。

 彼女はセミロングヘアで、友達のように会話できる間柄であり、一緒にいて安心する存在だった。


「今日は特にないかも」

「そうなんだ。じゃあさ、一緒に遊ばない? 私、寄って行きたいところがあって、大智が良ければ一緒に行きたいなぁって」


 彼女は大智へ期待する眼差しを向けていた。


「俺はそれでもいいけど」

「本当、じゃああ、約束ね!」


 葉月は笑顔を大智に向けていたのだ。


 葉月とは、よく聞く音楽のジャンルが同じだったり、共通の話題で会話できる事から、気が付けば親しい間柄になっていた。

 意外と彼女もアニソンの曲をよく聞くらしく、一緒に関わっていても楽しめていた。


 アイドル活動をしていた時よりは、大智は陰キャではなくなったものの、まだ明るく振舞えていない部分が多々ある。


「というか、大智って、好きな女の子のタイプってある?」

「ど、どうしたの急に?」

「だって……まあ、何となく。何となくよ、ただ聞きたくなっただけ」

「そ、そうか」


 大智は動揺してしまっていた。

 急に彼女から恋愛的な話を振られたのは、今日が初めてだからだ。


 もしかして、好きだったりとか?

 ま、まさかな。


 大智は希望を膨らませながらも、彼女との未来の事を想像してしまっていた。


「ちょっと聞いてる?」

「え、な、なに?」

「だから、好きなタイプって事」

「それは……」


 大智は、左隣にいる彼女の姿を見やる。


「えっと、ロングヘアな感じが好きかな。なんていうか、肩にかかる程度の髪で、女の子らしい感じの子。それと」

「それと?」


 葉月は、大智の言葉に不安そうな表情を浮かべていた。


「フレンドリーな感じの子かな」


 大智は葉月の事について直接的に言いたかったが、いざというところで勇気を出して言う事が出来なかった。


 そういうところを直さなければと思いながらも、話し終わってから一人で後悔していたのだ。


「……わかったわ。そういう子が好きなのね」


 葉月は一人で嬉しそうに納得していた。


 それから二人は通学路を歩いて、学校へと向かって歩くのだった。






「ねえ、今日までの課題を出してもらうから。やってない人は居残りになるから」


 教室に入ると壇上前に佇む、ショートヘアスタイルが特徴的なクラス委員長――佐久間愛奈(さくま/あいな)の姿があった。

 彼女は真面目で、周りを仕切るのが上手い。

 けれど、厳しい発言が多いため、クラスメイトからは少し面倒くさがられているところもあった。


「今日までだったっけ」

「お前は終わってなかったのかよ。俺、終わってたけどな」

「マジかよ。でも、俺もあと少しだし、さっさと終わらせて提出すればいっか」


 クラスメイトらは焦りながらも、提出物であるA4サイズの用紙を机の上に出し、それと向き合っていた。


「大智はやって来た? 文化祭の企画書的な感じの」


 近くにいる葉月から問われ、その用紙を見せられる。


「……あ、全然やってなかった」


 すっかりと忘れていたのだ。


「あなた、やってこなかったのね」


 気づけば、目の前にはクラス委員長の愛奈が佇んでいる。

 大智はしぶしぶと頷いて、やっていない事を自白するのだった。






「はあぁ……なんでこんな事になるかな」


 今日は葉月と一緒に放課後遊べると思ったのに、提出物をやっていなかった事もあり、居残りする羽目になっていた。


 放課後の今、他のクラスメイトは部活や帰宅で教室を後にしている。

 葉月からも、また別の日に遊ぼうねと言われ、彼女は教室から立ち去っていたのだ。


 文化祭の用紙へ記入する件もあるのだが、他の授業の課題もやっていなかったのである。

 それらの板挟みに合い、大智は自身の席に座り、頭を悩ませながらも、それらの課題と真剣に向き合っていた。


「はあぁ……昨日の内にやっておけば良かったな」


 不満を漏らしながら席に座っていると、開けていた教室の窓から入ってきた風により、斜め右前の席から一枚の紙みたいなものが床に落ちる。


 その席というのは、クラス委員長の席だった。


 大智は席から立ち上がり、それを拾い上げてみる。

 確認してみると、それは数年前の自分が写された写真だった。


「な、なんで、これが?」


 そう思い、驚いていると視線を感じる。

 教室の入り口付近には、クラス委員長の愛奈が佇んでいたのだ。


「あ、あなた、何を見てるの!」


 愛奈は早歩きで近づいて来て、大智が手にしていた写真を強引に奪う。


「それは何? というか、なんで俺の写真を⁉」

「こ、これは見ない事にして」

「それは難しいかも」

「は?」

「でも、どこでそれを手に入れたの?」

「だから、これは……」


 普段は他人に対して厳しい発言をする事の多いクラス委員長が、恥じらいを持って気まずげそうに目をキョロキョロさせていた。


「というか、見ない事にできないなら……責任をとって」

「せ、責任?」

「そ、そうよ。私と付き合いなさい!」

「委員長と⁉」

「そうに決まってるでしょ。こんなのバレたら、私の委員長としてのポジションが」

「そんなにショックなの?」

「だって、こんな秘密を誰にも見られなくなかったんだからぁ」


 今の彼女は瞳を潤ませている。

 本気で誰にもバレたくない事情があったのだろう。


「それに、私……あ、あなたの事が好きだったから」

「え……?」


 愛奈から予想外の発言を受け、後ずさってしまう。


 偽りのあるような瞳すらしておらず、彼女は本気なようだ。


 大智はこの現状を一旦落ち着かせるために、成り行きで彼女と付き合う事となった。


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