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魔王、変身する


***


 生身の肉体を全く異なる空間に転移させる。



 そんな技術が当たり前になった世の中でも、正直俺は半信半疑だった。実際は転移していると見せかけて眠らされただけで、脳に電気信号か何かを送って幻を生み出しているだけとか。



 だがしかし、こうも立て続けに体験すると、それが本物であると俺の身体が本能的にそう訴えていた。





 

 ――魔王ライゼルカの気まぐれにより、謎の修業空間に強制転移させられた俺は、五年かかって特別演習を終了した。



 けどなぜか、それを思い出そうとしても頭の中の記憶にモザイクがかかったみたいにハッキリと思い返すことができない。



 五年という月日が流れたことは覚えている。少年漫画の修業パートみたいな、かなりハードで無茶な鍛え方をしたことも覚えている。



 記憶に残っていなくても、それら全てが身体に刻み込まれているのが何よりの証だ。



「――それは恐らく、お主のいた空間とこっちの世界では時間の流れ方が違うからであろう」



 戻ってきた俺の話を聞いたライゼルカの見解はこうだった。



 俺が向こうで五年過ごしている間、こっちでは十分ほどしか経っていなかった。



 いわく、紅茶を飲んでトイレに行って帰ってきたら、俺が現れた。おかわりのタイミングがなくなったとか喚いていたが、拳を振り上げなかった自分を褒めたい。



 恐らく体力面だけでなく、忍耐力精神面も鍛え上げられたのだろう。



 要は時の流れが異なる次元間の移動を行った際に、そのズレを修正するために俺の記憶にモヤがかけられたのだという。



 空間を操る張本人のメルトが言うには、細かい原理とかはツッコんだら駄目らしい。俺も何となくだけど、感覚的に理解はできたしもういいか。




「――よし、今度こそ出発じゃな! では参るぞユーリよ!」




 俺にとっては五年ぶりとなる、魔王の出陣宣言。まあ体感的にはそれこそ十分前のことなんだけど。



「さすがに五年かけて妾の『ハードモード』をクリアしたのじゃ、そこそこ戦えるようにはなっておるじゃろ」



 魔王基準のそこそこがどの程度のものなのか知らないけど、力を失っているとはいえ腐っても魔王だ。大丈夫だと信じている。



「――それではこれから、お二人をユーリ殿のお仲間の所へ送ります。くれぐれも私の傍を離れないようにしてください」



 メルトを中心として、青白い魔法陣のようなものが展開される。



 このメルトという従者は事あるごとに空間転移を使用しているんだけど、もしかしたらむちゃくちゃ凄いやつなのかもしれない。というより修業を経た今だからこそ、分かる気がする。



 相対するだけで相手の実力が計れるなんて、いかにも強者っぽくてカッコいいな……。



 肝心のロリっこ魔王からはそのような覇気は微塵も感じられないが。



 身長一つとっても、頭一つ分以上は離れているであろう魔王を近くで見下ろす俺。結局俺が魔王と一緒に魔王を倒す旅に出ることになった理由は分からずじまいに終わったが、もしかするとあの職業が関係しているのかなと思ってみたり。



 そんな俺の視線を感じ取ったのか、俺の中でトレードマークとなっている二本の可愛らしい角が僅かに震えた。



 ……えっ、あれって固定されているんじゃなくて動くものなの?



「そうじゃユーリ、言い忘れておったが妾は一応この世界じゃ死んだことになっておっての。生きておることが知れ渡ったらいろいろとマズいことが起きるんじゃ」



「じゃあどうやってついてくるつもりなんだ?」



「ふっふっふ……そこでじゃ!」



 得意げに鼻をすすった魔王は、突然自分の胸の前で腕をクロスさせ、カッと両目を見開いて叫んだ。



「――ライゼルカ……へーんしんっ! とうっ!」



 目の前にいるこっちが恥ずかしくなるぐらいの掛け声とともに、俺の前から魔王は姿を消した。……どこに行ったんだ?



『こっちじゃユーリ』



「えっ」



 背中にズシッとした重たい感覚がのしかかる。そしてそこから、あの聞き覚えのある声がした。



『どうじゃ驚いたか! 妾に残っていた魔力を全て絞り出してやったわ! わはははは!』



ブルブルと肩から背中にかけて震える。俺が自分の意思で動かしいるのではなく、魔王が喋るたびに振動がするのだ。






――魔王ライゼルカは剣になった。






突っ込みたいところが多いが、それが現実として残ったのだから受け入れるべきだろう。



『魔力も使い切ってすっからかんになったことだし、これで妾の存在も感知されず、なおかつお主もパワーアップ! 良いとこづくしじゃの!』



「さすがは魔王様! 素晴らしいアイデアです!」



『じゃろ? あっ、心配しなくとも妾の声はお主にしか届かないから仲間に変な目で見られることはないぞ!』



「だったら声を出すたびに鞘と刀身の隙間でブルブルさせるのやめてくれ」



このお喋り魔王の相手を四六時中って考えたら、それだけで俺まで身震いする。



「――魔王様、そろそろお時間が……」



そうだった。



もう結構前からメルトが転移の準備をしていてくれていたのだった。背中にいるチビッ子はそんなこと考えていないだろうけど。



『始めてくれメルト!』



「――行きますぞ!」



メルトの一声で、さらに青白い光が視界に広がる。



今度はあの不思議な浮遊感はなかった。



俺の身体が慣れたのだろうか?



そんなことを考えたのもつかの間、次に目を開けた時は今までとは全く異なる世界が広がっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーー


【名前】

水波悠吏みなみゆうり

【性別】

【レベル】

824

【職業】

魔王の下僕

【スキル】

・黒一文字・第六感・雷光・魔力解放etc……

【スキルポイント】

80

【パーティーメンバー】

北川拓己きたがわたくみ

三条瑠美さんじょうるみ

秋月真優あきつきまゆ


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