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特別演習『ハードモード』

***



 ――魔王ライゼルカ・ランドピート。



 頭に細長いドリルのような、二本の黒い角を生やした少女は自らをそう名乗った。



 ゲームとかによく出てきたりする、俺のイメージする魔王とは姿かたちが正反対のため、こうして目の前に出てこられてもあまり現実味がない。



 実際は膝が震えて立ちすくんだり、恐怖で声も出せないような状態になるものだろう、魔王の威圧感的なやつで。



「だーかーらー! 今の妾は力が削がれておるって何度言えば分かるんじゃ! そうでなければわざわざお主をここに呼んだりせんぞ」



 この分からずやが、と言わんばかりに地団駄を踏む魔王。百歩譲って俺の理解力が乏しいとして、さっきからほとんど話が進んでいないのは確実にこの魔王の説明が下手くそだからだ。



「――ぜひユーリ殿には魔王様とともに、現魔王の小童をボコボコに捻りつぶしてほしく………」



 魔王の唯一の配下であるこのメルトという魔物とは、ある程度話ができた。



 俺が元いた世界のこと、この世界に転移する予定であったことなど全て知っていたようだ。それはなぜだか分からないけど、転移などスキルなど言ってる時点でいちいち驚いていたらキリがないからな。



けど何で俺が選ばれて呼ばれたのかは、はぐらかされて答えてくれなかった。



人数が合わないとか、都合が悪いとかどうとか言ってたけど、魔王側にもいろいろあるらしい。







「――というわけで、これからユーリは妾とともに現魔王討伐の旅に出るのじゃ」







 あれよあれよと話が進むうちに、こんな感じにまとまっていた。



 勢いよろしく、高々と拳を天に突き上げるその姿は多少の可愛げがあるものの、推定六畳程度の独房みたいな汚部屋だと囚人たちの脱獄会議にしか思えない。



そして俺には、この魔王の要求を飲まないという選択肢はなかった。



本来なら風邪をひいてしまったことにより、学校の皆が異世界でハッスルしている間にベッドの上で過ごすという苦行が訪れる未来であったのだ。



体調万全の状態で、何事も無かったかのように、しかも予定通り拓己たちパーティーメンバーの元へ飛ばしてくれると言うのだ。



その条件が、魔王を同行させること。



それ一点のみだった。


 

「ユーリ殿の協力を得られたのは喜ばしい事なのですが、魔王様一つ問題が……」



「ん? なんじゃ?」



なぜか俺から目を逸らしたメルトは、懐から小さなデバイスを取り出した。



あれは【AWP】だ。持ってきてくれていたのか。有能だな。



この世界ではあれがないのは、現実世界で財布とスマホをなしに生活するのと変わらないレベルだと思う。



「今のユーリ殿の実力では、そこら辺の雑魚を倒すのも一苦労するかと……」



そう言ってメルトは、俺と魔王に見えるように【AWP】の画面をこちらに向けた。



「うーむどれどれ…………って弱っ! なんじゃこりゃっ!」



レベル1にスキルも何もない。おまけに職業は【魔王の弟子】とかいう訳の分からないものになっている。



「そりゃ弱くて当たり前だろ。こっちの世界じゃ生まれたばかりの赤ちゃんみたいなものだぞ」



「これでどうやってあの若僧を倒すつもりだったんじゃお主は!?」



「それはそっちが言い出したことで、本当ならこっちで冒険して少しづつレベルを上げて、その先で魔王に挑むってスケジュールになっているんだよ」



王道のRPGと全く同じだ。この異世界での目標が魔王の討伐であることは、最初から変わっていない。



何かいざこざがあったらしくて、今この世界には魔王が二人存在していることになっている。



けれども、俺、拓己、真優、三条のパーティーに一人お共がついてくるって考えれば特に問題はないのではと思った。



「……仕方ないの。少し予定変更じゃ、メルトあれを出してくれ」



「ハッ!」



「あれって……?」





  ――と、言い終わる前に視界が突如暗転する。



  次の瞬間、自室のベッドからここにワープした時と似た浮遊感が俺を襲う。



  完全にシャットアウトされた視界の中で、魔王ライゼルカの高い声が直接脳内に響き渡った。



「メルトは空間系のスキルを持っていての、それを応用してこっちの時間と隔離した特殊な空間にの中に入ってもらうぞ」



「魔王様、ユーリ殿の容体は安定しております。恐らく数年は問題ないかと」



「うむ。聞こえるかユーリ! これからお主には、妾が考案した特別演習〖ハードモード〗をこなしてもらう! そしてそれをクリアした暁には、今とは比べ物にならないほどの実力をつけていることになるぞ! わはははは!」



 ……え、なに。



 俺今から何をさせられるんだ?



 魔王とメルトの声は確かに届いているのだが、逆に俺の方は身体は金縛りにあったみたいに動かないし、もちろんそんな状態で声を出すことなんてできるわけない。



「いやはやどれ程の成長を見せてくれるか楽しみですな、ガハハハハ!」



「そうじゃの! あのクソガキをワンパンできるぐらいに強くなってくれたらいいんじゃがの! わはははは!」





 ……………………


 ………………


 ………


 ……

 




 ――まるで漫才でも見ているかのような二人の笑い声が聞こえたのが最後だった。




 ――次に光と身体の自由を取り戻し、魔王ライゼルカ考案とやらの特別演習『ハードモード』を終え、魔王城(家畜小屋)に帰還するのに丸五年かかった。





 

 




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