職業ガチャ
「まずは職業だけど……」
「緊張するね……」
「いったん全員の候補を共有してから決めた方がいいんじゃないかな?」
「そうね、北川の言う通り――」
「いやいやちょっと待て! 何で普通に話し始めてるんだお前ら!」
「何ようっさいわね。あたしが喋ってるときに割り込まないでくれる?」
と、あからさまに不機嫌な顔を俺に向けているのは、秋月真優。肩にかかった金色の髪を振り払うこの女は、一応家が近所の幼なじみでもあった。
昔はそれなりに仲良くしていた記憶があるんだけど、今となってはそれは偽りではないかと疑ってしまうほど攻撃的な性格になってしまっている。
実は俺の知らないうちにドッペルゲンガーと入れ替わったりでもしていたり。
「さっき言ったオータなんちゃらって一体何なんだ?」
「ザ・オータムーンズ」
もう一回聞いても全く分からん。流行りのアイドルグループか何かか?
「秋月さんの名字を英語に変えたものでしょ? オータムとムーンを合わせて、オータムーンズ」
「そうよ、さすが北川はすぐに気づいてくるわね。どこかのバカと違って」
「普通そんなすぐに分からんだろ……」
もう最近では慣れたものだが、真優のやつは隙あらば俺を罵倒しようとする。
しかも悔しいことに、真優の成績は拓己と並んで学年でも常に十番以内に入るほどの優等生だ。中身は全然違うけど。
小学校の頃は俺の方が賢かったはずなのに、これも都合のいい記憶改変が俺の中で行われているのか……。
いや、てかそれよりも……!
「もしかしてそれをパーティー名にするつもりなのか?」
「何か文句でもあるの?」
「文句もなにも普通にダサ――」
「あ゛?」
「何でもないです」
今ものすごくドス黒い声が聞こえたけど、まさか真優か……? 拓己に視線をやると、これ以上事を荒立てるなと訴えかけたような目配せをしている。
確かに、俺の本能もヤバいという警鐘を鳴らしているからもうスルーしておこう……。
それにしてもダサい。
「職業ってこのガチャ画面から決めるんだよね? ガチャが二種類あるけど……」
そう言って「う〜ん」と眉根を寄せてAWPの画面を睨んでいるのは三条瑠美。
正直この三条とはほとんど話したことがない。クラス内での印象だと、性格は真優とは真逆でかなり大人しめで、それでいて誰とでも隔てることなく接しているイメージだ。
パッチリとした二重まぶたに、純粋な綺麗な黒髪。背も低く俺からしてみればマスコットのような存在である。多分クラスのみんなもそう思っているだろう。
俺も自分のAWPを確認すると、三条の言う通り職業選択のガチャが二種類存在していた。
異世界において職業は、最も重要だと俺は考えている。むしろそれで全てが決まると言っても過言ではない。少なくとも俺が今まで見て読んできたアニメや漫画ではそうだった。
「……なるほど、手堅くいくか、一発勝負をするかってことだね」
拓己のその言葉に、それぞれのAWPに視線を落とす俺たちは頷いて同意を示す。
二種類のガチャ。
どちらも職業を決める、職業ガチャなのに変わりはないんだけど、その中身が全く異なっていた。
まず一つ目。
こちらは言わゆる通常の――ノーマルガチャと言うべきか。
一度のガチャで、候補となる職業が三種類表示される。
・ 開示される情報は、職業名とレア度。
・レア度は五段階に分かれており、☆の数が多いほど珍しく、強力なスキルを覚えることができると、事前の研修で説明を受けている。
・ちなみにそれぞれのレア度の排出確率はこんな感じ。
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☆……60%
☆☆……45%
☆☆☆……30%
☆☆☆☆……10%
☆☆☆☆☆……3%
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見た感じは妥当な気もするけど、実際の期待値みたいな物は分からない。確率とか数学とかそういうの苦手だから俺……。
そういう計算は拓己か真優にでも任せたらいい。
そして二つ目。
ノーマルガチャがあるのなら、もちろんもう一つはレアガチャということになるのだが――
なんだこれ。
「んー……こっちはどっちかって言うと、レアガチャっていうよりなんか……」
三条が眉根を寄せるのも無理はなかった。俺も今このガチャの説明を読んで、思わず声を上げそうになったぐらいだ。
「――博打ガチャ。って表現した方が正しいわね」
真優が静かにそう呟いた。
「博打――確かにうってつけの名称かもしれないねこれ」
ふふっと笑みをこぼす拓己。何でちょっと嬉しそうなんだ。もしかして何かの血でも騒いでいるのか? こんなところで勘弁してくれよ。
そんな博打ガチャ。一体どんなガチャなのか、俺はもう一度画面に目をやり、詳細を確認して整理してみる。
・排出される職業は一つ。
・開示される情報は職業名のみ。
・レア度の確率についても非開示。
「――って、ただの糞ガチャじゃねえかこれ!」
「わっ!」
「ちょっと、いきなり叫ばないでよ!」
「す、すまん……」
勢いでAWPを床に叩きつけそうになったのを堪え、一息つく。
「まあでも、悠吏が思わず叫ぶのも無理がないほど、リスクが高いのも事実だからね。僕個人的には、無難にノーマルガチャを選択するのがいいと思うんだけどどうかな?」
「あたしは北川の意見に賛成だわ。何より三つの候補から選べるというのが、かなり大きいと思う」
「うんうん!」
真優の隣で大きく頷いてみせる三条。となると、もう決まりだ。これがやり直しのきくソシャゲだったらロマンを追い求めるのも悪くないかもしれないけど、一発勝負の場面でわざわざ攻める必要はない。
――その後も少し話し合った結果、一人ずつノーマルガチャを引いていき、全員が引き終わったあとに四人のバランスを考えて職業を選ぶことにした。