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パーティーメンバー

***


「いよいよ明日だな、拓己たくみ



「そうだね、さすがの僕も少し緊張してきた」



六月十五日。 【異世界研修】を明日に控えたこの日最後の授業は、クラスでのロングホームルームだった。



その前の休み時間、俺は同じクラスの北川拓己きたがわたくみと教室の後ろで話している。



拓己とは高校に入って同じテニス部で仲良くなった。身長一八〇ほどある俺と比べたら身体はやや小柄だけど、頭の回転が早く試合中も常に冷静で相手の攻め方のパターンなどを分析するのが得意だ。



もちろんそれは学業の方でも言えて、テスト前はいつもお世話になっていたりする。俺も別に成績が悪いわけではないんだけど。だいたい真ん中ぐらい。



「こうして教室を全体から見渡してると、やっぱりみんなそわそわしてるよね」



「まあそりゃ、なんせ今からパーティーメンバーと職業が決まるんだからな」



ここ最近はずっと異世界研修の話題で持ち切りだった。俺と拓己も例外ではなく、六月になってからは毎日心の中でカウントダウンを減らしていってた。



やっぱり異世界の醍醐味と言えば、誰と冒険するか、そして自分がどんな職業になってスキルを手に入れるかだと思う。



事前の説明では百を超える職業、千に迫るスキルがあると聞いていた。それが今日決まるのだ。



悠吏ゆうりは何か希望とかあるの?」



「そうだな……やっぱり戦闘系がいいよな、剣でも魔法でも。拓己は?」



「僕はこれといってやりたいのはないかな……。まずどんな職業があるのかさえ不明だし、まずは候補を見てからだね」



候補――と拓己は言ったけど、何もピンポイントで自分の好きな職業を選べるというわけではない。



「確かにこればっかりは、まず誰とパーティーになるかって所から始まるからな」



「そうなんだよね…………あっ、チャイム鳴ったね。戻ろっか」



運命の瞬間を告げるチャイムが鳴り響き、俺たちはそれぞれの席に着く。



そして鳴り終わるのとほぼ同時に、担任の前川先生が教室へと入ってきた。



もう五十を超えていて生え際の辺りが怪しくなりつつある前川先生は、両手に大きなダンボールのような白い箱を抱えて、酔っぱらいの千鳥足のような足取りで教壇に何とかたどり着く。



教室内の誰かが、唾を飲み込んだ音が聞こえた。



まるでテスト中かと思えるようなそれほどの静寂の中、額の汗をハンカチで拭いた前川先生が口を開いた。



「それじゃあ今から順番に【AWP】を配るから、あとは自分らで適当にやっといてくれ。あと明日は遅くとも九時までにはここに来るようにな。少しでも遅れたら転移できないから」



まるで他人事のようにそう言った前川先生。



実際そうなんだろう。修学旅行と違い異世界研修は教員引率というわけではない。俺たちが一ヶ月間異世界に行っている間、先生たちも同じくバカンスを楽しむとかいう噂があるが、本当にそうなのかは知らない。



箱の中を全てクラスメイトに配り終えて、中が空であることを確認した前川先生は、そのまま教室を出ていった。



俺の仕事はここまでだ――といった満足気な感じで去っていった先生の足音が小さくなるや否や、それに反して教室内がどっと湧く。



「普通のスマホと変わらなくない?」

「あっ、起動した!」

「おい、ここでパーティーメンバー確認できるぞ!」



さっきまでの静寂が嘘のように動物園状態となった教室だったけど、それも徐々に収まっていく。



各々の意識が手元の【AWP】に移ったからだ。



【Another World Phone】――略して【AWP】と呼ばれる小型デバイスこそが、この世界から異世界へ持っていくことのできる唯一の持ち物である。



さっきも誰か言っていたけど、見た目形は普通のスマホとなんら変わりない。



事前の説明でも、この【AWP】さえあれば何とかなるという雑すぎる説明しか受けなかったが、日常生活を送る上でスマホ一台あれば事足りる、今と同じ感じだと思えばいいのだろうか。



とりあえず画面が真っ暗なまま見つめていても仕方ない。



右側面の電源ボタンを押して起動させる。



名前と出席番号を求められ、次に指紋を登録する。



それで設定は完了したらしい。




ホーム画面はいたってシンプルなものだ。




ーーーーーーーーーーーーーーー


【名前】

水波悠吏みなみゆうり

【性別】

【レベル】

1

【職業】

未設定

【スキル】

未設定

【スキルポイント】

0

【パーティーメンバー】

北川拓己きたがわたくみ

三条瑠美さんじょうるみ

秋月真優あきつきまゆ


ーーーーーーーーーーーーーー




「…………マジか」



誰かに語りかけるというわけではなく、独り言を漏らした俺は二重の意味で驚いた。



クラス内で完全にランダムで決められるというパーティーメンバー。



ある意味一ヶ月間、一蓮托生で生活を共にする存在になるため、どうか仲のいい人でお願いしますという祈りが通じたのか、親友である拓己と一緒になることができた。



俺は思わず後ろを振り返り、教室の最後列、窓際に座る拓己に向かって手を上げる。



拓己も俺の視線に気づき、そしてパーティーメンバーを確認したのか笑顔で返してくれた。



よし、とりあえず俺の中の第一関門はクリアした。他の男友達がダメってわけではないけど、やっぱり一番気の許せる拓己がいるのはかなり大きい。



あとは職業――







「――って、何で真後ろにいるあたしを無視して北川にだけ手を振ってるのよあんたは!」




「んえっ!?」




俺が再びAWPに目を落とした瞬間、後ろからシャツの襟を思いっきり引っ張られ、恥ずかしすぎる素っ頓狂な声を教室中に響き渡らせてしまった。



……喉が圧迫されてマジで意識が飛びそうになった。



「ほら北川、それと瑠美もこっちに来なさい! 今から作戦会議をするわよ!」



異世界ではなく危うくあの世に魂が飛ばされるところだった俺が呼吸を整えている間に、呼ばれた二人がこちらへとやって来る。



「……大丈夫悠吏?」



「真穂ちゃん、水波くん、北川くん、明日からよろしくね」



「揃ったわね。それじゃあこれから第一回、【ザ・オータムーンズ】の作戦会議を始めるわよ」



…………なんだって?



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