なくなったチュートリアル
***
一体今日一日で何回似たような転移を繰り返したことか。
周りのクラスメイト達が消えたと思っていたけど、客観的に見れば実際は自分たちも消えていたのだ。
「みんなちゃんといる?」
どうやら名ばかりのリーダーではなかったらしい。一番最初に仲間の存在を確認した真優は、近くにいた拓己と三条を見やり最後に俺の方を向いて、なぜか首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「何だあんたまだその刀つけてるわけ?」
真優が投じたその疑問に、拓己と三条も反応する。
「本当だ」
「運営側のミスとか?」
「えっ、何の話……?」
もしかしてだけど、俺だけが事態を把握していないのか?
さっきまであんなに物珍しそうに触っていたのに、今度は冷めた瞳を向けられているのはなぜだ。
三日天下ならぬ三分天下か? 魔王さんよ、これからは一発屋芸人ならぬ、一発屋魔王って名乗ったらどうだ。
『泣くぞ』
もう既に鼻声になっていた。鼻水が垂れてきたりしないだろうか。
「それにその恰好、うちの制服に似てない?」
真優に言われて俺は自分が身に着けている衣服を確認した。紫がかった紺色をベースにした少し分厚い羽織。翻した裏地は一面深紅に染まっている。人の姿をしたライゼルカを思い出させた。
「あれ、いつの間にこんな……それにお前らも何だその服は」
真優、拓己、三条。さっきまで学校の制服姿のはずだったのが、三人とも見まがうようなフォルムチェンジを果たしていた。
まずは真優。裾の長い白と赤のコントラストが映える袴衣装。まるで神社にいる巫女のようだ。
金髪に袴ってのも意外と似合うものなんだな……。
次に拓己。これはまるで……というよりそっくりそのまま忍者だった。全身真っ黒で、テレビとかで何度も見たやつ。
けど顔や口元は隠されていなかった。あれ息しづらそうだからな。
続いて三条。パット見た感じ真優と同じかと思ったけど、よく見たら全然違う。割と際どいミニスカートに、それを後ろから覆いつくすようなフードのついたマントのような羽織。
目を引くのはやはり、そのシンプルかつ煌びやかな色合いだった。白と銀色だけで深い味わいを出し、気が付けば見とれてしまうぐらいだ。
『…………お主、巨乳の女子だけやけに鑑賞時間が長かったな』
《うるさい一発屋》
意識してそうしたわけではない。魔王には分からないとは思うけど、人間の男はそういう習性があるんだ。
皆の変わりようにもびっくりだけど、これではまるで――というより、完全に各々の職業に合った服装に変わっている。
俺がなるほどそういうことか……と一人頷いていると、真優が呆れたふうに首を振る。
「あんたねえ、転送前のAWPちゃんと見た? あそこに全部書いてあったでしょ」
「まじ……?」
こくんと黙って首肯する拓己。
「万が一スマホとかを現実世界から持ち込んでいたとしても、それらは全部さっきいたあの大広間に保管されるらしいよ。あそこは完全な異世界というわけではなく、現実世界と異世界を繋ぐ中間点みたいなものだったんだよ」
「だからこそ不思議なんだよね。何で家から持ってきたはずの水波くんの刀が、今もこうしてここにあるのか」
それが事実なら確かにおかしい。けどこの刀は現実世界の物でないため、さっき三条が言ってた運営側のミスじゃないんだ。
《お前のことは隠しておかないと駄目なんだよな?》
『うむ。妾は正体不明のダークヒーロー。なかなかカッコいいじゃろ?』
《……本当に駄目なんだよな?》
『ふざけてすまぬユーリ。これはマジのやつじゃ』
というわけで、何とか皆が納得できる言い訳を考える必要があるんだが……。
それよりも、あの長ったらしい文章を飛ばして読んでいたのが俺だけだったことに少しショックを受けていた。
誇張とか抜きにして、何かのサイトとかに登録するときの利用規約並みの分量があったぞあれ。しかもあの短時間に読み切るなんてほぼ不可能じゃないか?
そう言おうと思ったけど、現に他の三人は俺の知らない情報を一つ知っていたし、言い返したところで真優に怒られるのが目に浮かぶからやめにした。
何かいい案はないか……俺が少し考え出したその時だった。
〔リリリリリリリリリリリリリリ〕
AWPからの呼び出しだ。なかなかのタイミングで鳴ってくれた。
とりあえず、文章が長くても今回はきちんと全部読もう。
そう決意して画面に映ったメッセージを確認する。
〔以上を持ちまして【異世界研修】チュートリアルを終了します〕
〔皆様にはこれより第一エリアからスタートして――〕
「――ちょ、ちょっと待ちなさいよ! こっちはまだ始まってすらいないのよ!」
真優の怒号が飛んだ。
「どうなっているんだろう……」
「えっ、もしかしてわたしたち忘れられちゃったの?」
戸惑いを隠せない拓己と三条。
こっちはまだモンスターとの戦闘どころか、衣装の鑑賞会しかしていないんだぞ。
『落ち着くのじゃユーリ。確かにイレギュラーな事態じゃが、お主には五年分のアドバンテージがある。あんまり本気を出し過ぎると仲間に怪しまれるじゃろうが、ほどほどに手を抜けば問題なかろう』
《確かにそうかもしれないが……》
「ねえ聞いてるの⁉ あたしたちのパーティーはまだチュートリアルをやってないって言ってるでしょうが!」
真優は相変わらず小さな機械に対するクレームを続けていた。
けどそれで状況が好転することはなかった。
謎の白い光が現れ四人を包み込んでいく。
第一エリアへの転送が始まるのだ。
『第一エリアと言ったか……』
《第一エリアってなんだ? 街の名前か?》
『……知らぬ』
《このポンコツ魔王が》
だから意味深に呟くのやめろって言ってるだろ。何でか知らないけど、自然と身構えてしまうんだよ。
仮にも魔王だというのに、なぜ自分の世界のことを知らないんだ。
四回目か五回目か……もう何回目か分からないけど今回の転移時は、ひたすらライゼルカと罵り合っていた。




