天国省転生課転送係8番窓口
「おはようございます」
「おはようございます」
「交代に来ました」
扉を開けると、女神だけしかいない何もない空間が現れた。
「変わったお客さん来ましたか?」
「ほとんど寿命で死んだ人しか来ないから、そのまま転生か消滅を選んで終わり。あ、一人だけ私を見て『異世界転生だ』とはしゃいで話を聞かなかったお爺さんを『管理世界22586』に飛ばしてあげたけどそれぐらいかな?」
「下界の人間たちは余計な想像力つけすぎて仕事がやりずらくなりましたよね」
「まあね、その分他の『管理世界』に変化をもたらしてくれるから管理課が大喜びみたいだけど、こっちの方も気遣ってほしいよね」
愚痴を言い合っていたが、次の死者が着た音が鳴ったので話を切り上げ部屋の準備をする。
「今回は、58歳会社員男性、趣味はゴルフと釣り。テレビ関連はあまり視聴しないか、あまり凝らずに簡素な部屋での対応の方が良いかな?」
そう言って女神が手を振ると、何もなかった部屋がまるで役所のような作りへと変化していく。
女神の服装も1枚布から作ったと思われるドレスから、スーツ姿に眼鏡をかけた姿に変わり椅子に座る。
『ピ~ンポ~ン。番号札1番のお客様8番窓口までお越しください』
いつの間にか椅子に糊の効いたスーツを身にまとい、背筋を伸ばして座っていた男性がアナウンスの自動音声の機械音にびっくりしたように周りを見渡し始めた。
今自分の置かれている状況が飲み込めないのか立ち上がり周りを見渡すが周りは誰もいなかった。
『ピ~ンポ~ン。番号札1番のお客様8番窓口までお越しください』
再度アナウンスが鳴ると、ここで初めて手に持っている紙の感覚に気が付いたのか、紙を広げるとそこには1番と書かれており、よくわからないまま8番窓口に行くとそこにはスーツを着た眼鏡の美人が座っていた。
「ようこそ、死後の国天国課省転生課転送係になります。ここではあなたの死後の行き先についての相談、転送を行いますので、お座りください」
「ああ」
男性はまだ状況を飲み込めていないようだが、女神は淡々と手続していく。
「次のないように相違があればおっしゃってください。
1,忘年58歳
2,氏名伊藤良治
3,同族殺し無し
4,
・・・・・
」
と女神が300にも及ぶ項目をすべて羅列していく。
「以上が確認事項となります。まあ、天国省に来ている時点でよほどのことがない限りこの項目に相違があることは無いのですが、何か質問はありますか?」
「いいえ、大丈夫です。それより、私は死んでしまったのですね」
自分が死んでしまった事実にそこまで驚いておらず、すっきりした表情をしている。
「そうですね、今から転生するか消滅を選ぶことになりますので、死亡時の記憶は思い出さないほうがいいかと思いますよ」
「痛そうな思いは1度だけで十分ですね。ろくな記憶もないので消滅を選びたいところですが、完璧に消えることはさすがに怖いので転生でお願いします」
「わかりました。この書類にサインしてください。サインしますと自動的に転生しますので」
「ありがとうございます」
「いいえ、仕事ですので」
男性がサインすると目の前から消えていった。
男性が消えると同時に部屋の内装も消えてしまい、また何もない部屋へと戻ってしまう。
こうして、それぞれに合った場所を用意して受付し、送り出すのが天国省転生課転送係である。