表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

#8

「……ここ、どこ?」


 薄い霧がかかっていて、何もないところに来た。ところどころ、大小さまざまな鉄骨? のようなものが床に刺さっているモノクロの場所だ。


「――どうすれば分からないけれど、まずは、ここを探索するのが一番いい……かな」


 そう思って、歩き出す。十分くらい経ったのだろうか……。どこを見渡しても同じ景色だから、全て体感でしか考えられない。


 遠くから、人影が見えた。僕は驚いて、足を止める。

 すると、霧がさっと消えて、目の前に女の子が現れた。


挿絵(By みてみん)


「あなた……誰?」


「え、あ、えっと……」


「どうしてここにいるの? どうしてここに入れたの?」


「え、えっと……」


 女の子は顔色一つ変えず、ただかわいらしい声で淡々と訊ねてくる。

 僕は……どうやってきたのだろうか。まさか夢を見ているのだろうか。


「ね、ねえ、急で悪いんだけど、僕の頬つねってみてくれない?」


「……? うん……」


 女の子は首をかしげながら、過ごしだけ引っ張った。


「――ッ! いたた……」


「ごめんなさい」


「ああ、別に謝らなくていいよ。僕が確認するためだから」


「確認?」


 夢じゃないとすれば、スマホを触ってここに来た……のかな。

 あの眩しい光を見た後、ここの世界に来たんだ。


 そう思って、女の子にスマホのことを言った。


「……スマホ。それ、ルナのスマホ……だと思う」


 たどたどしく言った。


「わたしの名前は『Luna』。ルナと同じ。でも、わたしはルナ自身じゃなくて、ルナの心と同じ」


「心?」


「ルナの心、ずっと空っぽ。何もない。だから、ここも何もない。あるのは拭えない『絶望』だけ。この世界はルナの心と同じ。ルナが心の底から泣けば大雨が降る。ルナが心の底から笑えば晴れになる。でも、ここが晴れたことはない」


 つまり、ルナは笑ったことがないってことか。


「ルナはいつも一人。それを望んでる。でも、ずっと一人で寂しがってる。本当はルナを見つけてくれる人を待ってる。あなたみたいにこの世界に飛び込んでこれるほど、優しい人を。だから、あなたがここに現れて嬉しく思ってる。でも、あなたをルナは追い返す」


「追い返す?」


「そう。ルナは誰かを傷つけることを怖がってる。わたしはルナと違って話を聞くだけしかできないから、ここにいれるの」


「Lunaも優しいと思うよ。Lunaは何もできないの?」


 そう言うと、Lunaは静かに首を振った。


「わたしはここの世界の管理者。だけど、持ち主はルナ。だから、何もできない」


「そうなんだ……」


 Lunaは悲しそうに俯いた。


「ここの世界の名前は【World's End】。わたしはルナの絶望を癒すために生まれた。だから、ルナが心から笑える時が来たら、わたしは消える。それまで、わたしはルナと一緒に過ごす。それが、わたしの役目」


「消えるって、怖くないの?」


「怖くない。だって、ルナの心の中にわたしはいるから。あなたも……怖くないの? こんな何もないところに来て……」


「うん。彼女は誰よりも優しい子だと思う。だから、彼女の心を映し出した君しかいないこの世界で、いつも泣いているんだろう? 誰にも心配かけないように。僕は何もできないけど、寂しがってる人の近くにいるくらいはできるから」


 その時、雨がポツリポツリと降ってきて、やがて大雨になった。

 そして、水量はどんどん多くなって、僕を呑み込んだ。


「怖がらなくていい。ここの雨はルナの涙。ルナが泣き止めば、この雨も止まる。ルナは優しいから、あなたを殺そうとしてるわけじゃない。これは、仮想の涙」


 また静かに言った。――これはルナの涙。僕を殺そうとしてるわけじゃない? じゃあ、この世界の持ち主であるルナがその気になれば、僕を殺せるということだろうか。


「――ねえ、何でここにいるの?」


 霧を横切って現れたのは、ルナ本人だった。


「出てって」

最後まで読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ