#2
全てスムーズに入力して、私は一番最後の欄で手が止まった。
「……私の願い……」
私の願いは、一人になること。ただそれだけだった。
ただ、そんなこと……本当に可能なのだろうか。
この世界は、誰かがいるから成り立っている。私が消えても、一人分の空きが出るだけだ。
私が消えて、悲しむ人はいるのだろうか……。
「――君、風邪ひくよ」
大雨の日、傘を持っていなくてずぶ濡れだった私に、傘をくれた人がいた。
綺麗な水色の瞳の男の子だった。
「この傘あげる」
「でも、君が使っていたものでしょ?」
「あー、まあ、そうだけど。僕の家近いから。あ、ほら、青信号だよ。じゃあね!」
「あ……」
見知らぬ人に傘をあげるなんて、すごいお人好しな子だと思った。自分は雨でびしょびしょになるのに。
でも、私を気にかけてくれたことが、何となくもやもやと頭に残って……。傘を返さないと思った。あの子は「あげる」って言ったけれど、私が持っていたら、何となくダメだと思って……。
そう思って、あの子の着ていた制服の学校を調べたんだ。名前も分からなかったから、そこの学校に行って、事務員の人に頼んだ。「水色の瞳の子に返してください」って。事務員の人は承諾してくれて、後日私の学校に連絡が届いた。
「ちゃんと届いた。ありがとう」って電話越しにまた声が聞こえた。
また会えるかもしれないから、その時にお礼をちゃんと言おうと……。
――そう思っていたんだ。
私が誰もいない世界に「行きたくない」と初めて感じた理由の人でもあったな。
「うん、やっぱり一人になりたい。それで、私を守れるのなら……」
そう思って、また入力した。
「送信」ボタンを押すと、画面には「受理されました」と出た。
「あはは……。やっぱり、嘘だよね……」
――誰かが都市伝説を知って、面白半分に作った仕掛けだ。
これを糾弾したり、悪趣味だとは言えない。だって、一縷の望みを私は賭けてしまったもの。
「またあの日常に戻るのか……」
私、いつから「星銀ルナ」というキャラクターになったんだっけ。
覚えてないや。
最後まで読んでくださりありがとうございます。