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僕の番  作者: 新在 落花
1/10

1.僕の番(1)

「また番の誘拐があったらしいよ」


 学園の食堂はお昼時になると生徒達でごった返す。

 前の時間が休講になったので早めに席が確保できたニナは、パンを囓りながら隣のラウノに話しかけた。


 ニナが通う王立学園は基本的には貴族の子が通う学校だ。ただしニナのように裕福な商人の子や、騎士の子にも門戸は開かれている。


 ニナがラウノと出会ったのは学園の入学式だった。学園まで来たはいいものの、貴族の子の多さに気後れし立ち止まっているところを声をかけられた。


 ラウノの柔和な物腰と丁寧な口調にほっとしたニナは、思わず泣き出してしまった。ラウノは驚いた顔をしつつも、ニナを慰めながら教室まで連れて行ってくれた。

 それ以来、ニナとラウノは仲の良い級友だ。


「獣人?」

「番を見つけて居ても立ってもいられずに誘拐しちゃったって、ひどいよね」


 この国には二つの種族がいる。

 ひとつは人族。

 もう一つは獣族。人族よりも身体能力も特殊能力も上回る種族のことだ。獣人とも呼ばれ、狼や犬、猫などさらに細かく分かれる。身体的な特徴として獣の耳や尻尾を持つものがいる。


 問題となっているのは獣人による番の誘拐だ。獣人は番と呼ばれる生涯の伴侶が本能で判るらしく、番を見つけると恐ろしいほどの執着で手に入れようとするのだ。


 人には番のような本能は存在しないため、獣人の番が人であった場合に問題が起きる。

 獣人にとっては最愛の伴侶でも、人にとっては同意なく行われる求愛行動だ。恐れ慄いて逃げる者や、付きまとわれて精神を疲弊する者もいる。今回のように誘拐してしまう獣人も多くいる。


 獣人にとってみればどうして番だと分からないのか、どうして受け入れてもらえないのかと理解できず、両者は常に平行線だ。


「人が番っていうのは厄介だよね。人側からすると恐怖でしかないもん」


 二つ目のパンに手を出しながら、ニナはうんうんと頷く。獣人同士であれば、番と出逢えれば仲睦まじい伴侶になるだけだ。しかしニナは人だ。相手が番かどうかだなんて分からない。


「ニナがもし獣人の番だと迫られたらどうする?」

「逃げる! 絶対に嫌だな。私は素敵な恋愛結婚をするって決めてるから」


 年頃の娘らしくニナは結婚に夢を持っていた。ニナは平民であるため、地元には恋愛結婚した知人友人も多い。


「大店の一人娘なんだから、恋愛結婚は無理だろう」

「政略結婚予定の貴族のラウノに言われたくない」


 平民であるニナにも分け隔てなく接してくれるため、たまに忘れそうになるがラウノは高位貴族の子息なのだそうだ。偉ぶったところもないし、高圧的でもない。よくできた人だとニナは思う。


「番っていうのも獣人にとっては恐ろしい制度だよね。その人と決められたら変更はできないんでしょう? 相手が既婚者だったり、年齢が凄く離れていたらどうするの?」

「所詮は獣だからね、力で奪うしかないんだよ」


 ぶっそうなことを微笑みながら言うのはやめて欲しいとニナは思った。ラウノらしくないなと思ったがすぐに忘れてしまった。


「学園の獣人はみんないい人達ばかりでよかった」


 学園には級友にも他の学年にも獣人がいる。耳や尻尾の形が違うため、犬かな?狐かな?と想像するのは面白い。ニナの隣の席にも猫族の獣人がいる。たまにゴロゴロ喉を鳴らしているのは可愛いと思う。


「ラウノは貴族なのに、婚約者とかいないの?」

「いないよ。結婚する予定の子はいるんだけど、婚約はしていないかな」


 カップの珈琲を飲みながらラウノが答えた。少し答えを逡巡したように見えたのは気のせいか。


「私もこの前の休暇にお見合いの絵姿を散々見せられちゃって。いよいよ、逃げられなくなったかもしれない」

「お見合い相手から選ぶの?」

「学園を卒業したら、結婚するんだろうね。自由な時間もあと一年だよ」


 ニナが学園に入学してもうすぐ三年だ。四年で卒業となるため、もう自由な時間も残りわずかだった。父親は学園でどこかの貴族のお坊ちゃんでもひっかけて来たらいいと期待しているようだが、その期待は捨ててもらいたいとニナは思う。


「そういえば、近所のお姉さんが獣人と結婚してた。番だったんだって」

「結婚は順調だったの?」

「仲良くしてたよ。赤ちゃんの耳がピコピコして可愛かった」


 相手は犬族の獣人で、求婚されてそのまま二人は恋に落ち、結婚をしたそうだ。幸せな人と獣人の番もいるのだと少し番を見直した。


 ニナはいかにその子供が可愛かったかを、ラウノに身振り手振りを交えて解説する。まだ幼すぎて体が安定しないらしく獣化することもある。ニナも獣の時に抱っこさせてもらったが、肉球が愛らしくて何度も押しては嫌がられた。


「でもラウノが婚約したら一緒にいられなくなるね。だから卒業まで婚約しないで!ラウノは私の唯一の友達だから」


 婚約者のいる異性と一緒に行動することは、流石に非常識なように思える。実は今もそう思われているのだろうかとニナは少し落ち込んだ。だから友達ができないのか。


 ニナには学園に友達がいない。貴族ではなく商人の子だからか。なぜか級友がニナには冷たいのだ。唯一相手にしてくれるラウノがいなくなれば、ひとりきりになってしまう。


 自分のこと最優先で、清々しく図々しい頼みごとをするニナにラウノが吹き出した。


「まだしないから大丈夫だよ」

「良かった」

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