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第0.3話 夢の一番星

 僕達が乗る戦闘機FGR−073フォグレイ177番機が航空母艦サリスフィーズへと帰還する。聖なる光も下りて、もうすっかり茜色の夕焼け空だ。

 ジャック=スルードさんの案内する大空はとても感動した。海底へと潜水してシャチと戯れるのには驚かされた。子供達もいっぱい喜んでくれて、是非ともまた近いうちに来てみたく思う。


「ヒロぉーっ、久し振りー! 会いたかったわぁ!」


 サクラが戦闘機から降りると、弟に直行して抱き着く。


「うわっ、おねーた、ちょっとまえにあったばかりじゃん!」

「んふふぅ♥ ヒロ成分注入中」

「はーなーせー」


 こうして見るとサクラとミルフィスティナは行動もよく似ている。我が嫁もサクラやヒロへこのように抱き着く癖がある。


「姉弟仲良くて、良いですね」

「サクラは嫁にはやらんぞ」


 このまま姉弟で夫婦関係まで縺れ込むのも悪くないかも知れない。馬の骨にくれてやるより、二人が愛し合った方がずっと良い。


「流石に歳が離れ過ぎですよ。同い年だったら放っておかなかったかも知れないですが」


 ジャック=スルードさんは見る目がある。嫁にはくれてやれんが、特別に手を繋ぐ位は許してやっても良い。


「フッフッフ、そうだろ。我が娘はシャンダルキアいち可愛いのだからな。ヒロも罪作りな可愛さをしているぞ」

「ごもっともでございます」


 シャンダルキア全土を傾ける可愛さを誇る我が娘サクラは、将来アイドルになるのも良いかも知れない。アニメの真似でサクラキュートのコスプレをしているついでに、本物のアイドルに挑戦してみるのも悪くない。オーディションを受ければ絶対に成功する。間違い無い。


「ねぇねぇおとーさ」


 サクラの拘束を解いたヒロが僕の前に来る。


「うん? なんだヒロ」

「ヒロね、せんとーきのパイロットになりたい!」


 それは僕が叶えられなかった夢。

 膝に矢を受けて引退した僕にとって、嫉妬の対象にもなりうる輝かしい人生ルート。それを、僕の子が挑戦したいという。


「いいな……パイロットか…」

「ヒロ君だったかい? 君は戦闘機のパイロットになりたいんだね」


 空母サリスフィーズで副提督を務めるジャック=スルード・ドルフさんが、ヒロの前で屈む。


「うん! ヒロもせんとーきにのっておんそくのゆうしゃみたいにつよく、はやくなりたい!」

「素晴らしい理想だ! それに、輝かしい目をしている。成れるさ…絶対に。君なら、絶対にパイロットに成れる!」


 息子を抱えて熱く語りかける。夢を、応援してくれている。


「けれども、パイロットになるのも一筋縄じゃいかない数多な試練があるんだ。ほら、勇者スカイレイも楽勝ばかりじゃない、強敵に出会って苦戦もする。そんな時にスカイレイは、どんな事をして強敵を倒すかな?」


 どうやら副提督でも特撮ヒーローが好きらしい。スカイレイは確かに大人が見ても面白い作品だ。


「ひっさつわざをつかう!」

「はははっ、マグマ将軍には得意のソニックブームも効かなかったじゃないか。思い出してごらん」


 マグマ将軍、最強クラスの敵幹部だ。悪には悪なりの正義があると、人気投票上位に食い込む素敵な悪役である。

 必殺技ソニックブームを破り、スカイレイを倒した実績を持つ。


「そうだった…そうだ! あたらしいひっさつわざをあみだす!」

「そう! スカイレイは、その切っ掛けが力の源になった! 新しい必殺技を編み出すには、どんな事があったかい?」


 撤退を余儀なくされたスカイレイは、マグマ将軍の攻略に励む。


「うーん、どうだったかな…よくわからなかった」

「答えは、努力に、知恵に、勇気。そして信頼する仲間だ。人は愛する者が居る事で、勇気が高まる。勇気が漲れば、努力が出来る。努力をすれば、知恵と力が身に付く。どれも欠けちゃいけない必須な要素だ」


 応援してくれている仲間が居て、守りたい人々が居る。それに気付いたスカイレイは、進化して強くなった。


「はえぇ…えーと」

「すまない、子供にはまだ難しかったね。簡単に言えば、好きな人が居れば、強くなれる。勇者スカイレイの正義も、このシャンダルキアの人々が大好きだから守りたい。その気持ちが強さの源になっているんだよ」


 子供に良い影響をくれる素敵な人だ。この後でお酒でもご馳走したい。


「わかったぁ! ヒロ、すきなひといっぱいいるよ! おとーさに、おかーさに、おねーたに、イルカさんに、しゃちさんに、スカイレイに、サクラキュートに」

「素晴らしい! ヒロ君はお友達がいっぱいなんだね! そうだ、良いものを見せてあげよう。ご夫妻、お時間を頂いても宜しいですか?」


 断る理由など無い。


「是非とも! 我が子の教育の為にお願い致します」

「大変良い刺激になります。こちらからお願いしたい位ですわ」


 艦橋に移動し、そこには綺羅びやかな軍服を着た女性が中央の豪華な椅子に座っていた。ジャック=スルードさんが来ると咄嗟に立ち上がってつま先まで気を付けて背筋を伸ばし、兜を外すようなポーズ、つまり敬礼を行った。

 ジャック=スルードさんもこれにならい、同様に敬礼を返す。


「彼女はサリスフィーズの艦長、マリー=パウラ・トゥルーチェ大佐だ」

「いらっしゃいお客様。我が国自慢の航空母艦サリスフィーズは如何ですか」


 笑顔が素敵な女性だ。

 僕達とそう変わらない位に若々しいというのに、大佐で空母の艦長とは恐れ入る。


「とってもすごいとおもう!」

「お姉さん綺麗! 何者なの」


 確かに綺麗だが、やっぱりうちの嫁の方が綺麗だ。


「あらあら、可愛らしいお客様ですね。私はマリー=パウラ、このサリスフィーズの艦長、艦の中で一番偉い人よ。まぁ、艦長だから副提督の下ね。あのドルフ少将が私の上司になるわ」

「はえぇ…よくわかんない」

「ふふん、まだまだお子様ね」

「なにおーっ」


 恥ずかしながら僕もよく分からない。


「えっと、階級ってどうなっているんだ」

「あなた、まず尉官が小隊を纏めるの。次に佐官が大きな隊の長になるわ。そして、将官が大きな隊の複数を監督する立場になるのよ」


 士官がまず任命されるのが尉官、少尉中尉大尉。次が佐官、少佐中佐大佐。その上が将官、少将中将大将。更に上が、元帥。元帥が実質的な軍のトップとなる。

 国によっては元帥にも階級が分かれている場合も有るらしい。

 少の下に准、もしくは代が付く場合も有るという。


「提督っていうのは提綱監督、つまり複数の艦の動かし方を指揮する立場っていう事ね」

「へぇー…そうだったのか。博識だな」


 座学には毎度嫁のお世話になっている。こういうのには本当物知りなお嫁さんだ。頼りにしている。

 幾度も、知っているのかミルファって助けられたものだ。


「ドルフ少将、ここへ何故お客様を?」

「なに、ちょっと寄っただけですよ。用があるのは上です」

「なるほど見張り台ですね。了解しました」


 艦橋上部にある見張り台。帆は無いので帆柱も無いから、見張り台は艦橋上部になる。

 ガラス張りの透明なドームである。聖なる光を身に受け過ぎる危険性はしっかり遮断されているようだ。


「ここが、空を展望出来る見張り台です」


 絶景だった。

 見渡す限りの空。

 生身のまま高度1万mの空に投げ出されたかのような場所。下方も、艦が見えないように魔法で処理されている。

 僕達は空に居る。

 大空を歩いている。


「あれ、くうぼがなくなっちゃった!?」

「どこ行っちゃったの!?」

「はっはっはっ、ステルス魔法ですよ。見えないだけで、ちゃんとここに有りますから」


 豪勢に湯水の如く資金を注ぎ込まれている。

 ここまで徹底して魔術を施すだなんて、やはり新鋭軍艦だけに金銭を惜しまず使われているらしい。庶民の僕らには想像も付かないお金の使い方だ。


「如何でしょう、ここの眺め、気に入って頂けますか」

「すごい! すごい! すごぉーい!」

「空って、こんなにも綺麗だったのね…」


 透き渡る満天の星々に、茜色に沈む聖なる光が入り乱れる黄昏の空。もう沈み切るのも近い。

 高度1万mがこんなにも地上から見るのとは全然違う空模様を描くだなんて、今日は驚かされてばかりだ。


「ほら、あの聖なる光…見えるかい」


 ジャック=スルードさんはしゃがみ込み、ヒロと視線を重ねて指を差す。


「真っ赤な聖なる光!」

「ゆうやけ!」

「その側に、強く光るお星様があるだろう?」


 聖なる光から指し示す先を横にずらす。

 ひときわ眩しく輝く星だ。


「あった! あれだよねっ!」

「私知ってる! 一番星でしょ!」

「その通り! 一番星、通称、聖なる落とし物だ」


 一番星と呼ばれる星、聖なる落とし物。


「我々は……あの星を、目指している」


 聖なる落とし物も、聖なる光に負けずに煌々と眩い光を讃えている。


「100年前、人々は宇宙開発を進め、月まで辿り着いた。そこには空気も無く、ただただ隕石の塊があったのみ。だが、初めて月面に足を踏み入れたのは人類にとって、非常に大きな一歩となった」


 科学の最先端を行くディスティアが月面に足を踏み入れた事が記憶に新しい。月の石を持ち帰り、展示会を開けば各国から無数の人々が呼び集められた。

 いつも科学の最先端を行くディスティアに、憧れを抱く若者達も大変多く居る。


「月日が経ち、20年前には観測用無人ロケットがあの聖なる落とし物に辿り着いた。そこには、我々と同じく文明を築く人類が居た事が判明した」


 シャンダルキアと並ぶ、人類の住まう惑星。

 シャンダルキアの者は一番星や聖なる落とし物と呼ぶが、学者にとっては現地の者の呼び方の方がずっと気になっている様子だ。


「今後、我々は更なる科学の発展を積み重ね、やがて彼の星へと足を踏み入れるまであと一歩の所まで来ている」


 宇宙開発も、ダンジョン攻略もトップクラス。

 ディスティアこそが彼の地へ最初に足を踏み入れると信じられている。


「これも、人々が諦めずに努力し、進歩を重ねて来たからに他ならない」


 実際には人も既に辿り着ける。だが、往復は未だに無理だ。


「ヒロくん、あの聖なる落とし物には、君の新しいお友達が待っている」


 聖なる落とし物には魔力が満ち溢れていて、シャンダルキアのダンジョン内のようにモンスターが出現し、人々も魔法を行使する。しかし投下した観測機が魔力に阻まれているのか、惑星内では通信が不可能となってしまい鮮明な詳細を得られずに居る。


「そう、聖なる落とし物へ行くのは、君達なのだ…!!」


 時代は進み、聖なる落とし物へ人類が辿り着ける日も近い。


「ヒロたちが、あのおほしさまへ?」

「行けるさ…! 無限の可能性が、有るのだから」


 夢が、現実味を帯びて来た。


「私も行ってみたい! ヒロ、一緒に行こう…あの、聖なる落とし物へ!」

「うん! おねーたもいっしょにいこう! あたらしいおともだちにも、あいたい!」


 人差し指を真っ直ぐ、一番星、聖なる落とし物へと向ける。

 そこに、夢がある。

 とても大きな夢。

 大勢の人々と積み重ねられて来た、夢。

 黄昏の空、指先が指し示す場所がきらきらと、一番星が輝いている。


一番星が輝いた今 一番星が輝いたから

幸せな日々はいつまでも続く訳じゃない

いつかは大きくなって現実を知っていく

夢を忘れて 大人になったら

掴み取るのは 灰色の日々なのか

一番星が輝いた今

夢を見ていた日々を 思い出してごらんよ

一番星が輝いた今

忘れてしまったなんて 言い訳に過ぎないさ

一番星が輝いたから

胸に抱いているよ 熱く滾る想いを

一番星の輝く先へと 僕らの明日へと

一番星の輝く先へと 僕らの未来へと

夢を目指そう

 

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