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 白い円形テーブルを挟んだ先で、その少女は満足気にピザを食べていた。油が指につくのもお構いなしで直接手に取り、人目を憚ることなく大きな口で頬張っていく。もしゃもしゃと咀嚼音を奏で、最後に喉をゴクンと鳴らした後、彼女は満面の笑顔を浮かべた。


「ほう、これがマルゲリータか! ……うむ、実に旨い。それに値段も七ユーロとお手頃じゃ! これは間違いない! 妾はこれを、B級グルメに認定する!」


 大きな声を出したから道行く人々の視線が集まった。最初は驚きの視線。次に好奇の視線。通行人たちが目を丸めるのも当然だ。彼女の風貌は、この国ではあまり見かけない。

 腰まで伸びる艶やかな長髪は砥粉色で、毛先だけが明るい金色。髪の合間から覗く瞳は紅葉色で、丸っこく、愛嬌がある。纏う衣服は赤と白の巫女服のようなもので、日本らしい和の雰囲気を醸し出していた。背は低い。とても低い。小学生くらいだ。

 体格も精神も幼い。だがその口調は少女らしからぬ年老いたもの。……彼女の正体は一目瞭然だった。側頭部から生える長い獣耳に、尻から伸びるフサフサで大きな尻尾。狐を彷彿とさせるその姿は、十中八九、人間ではない。

 そんな、人外の相棒の振る舞いに、ミノルは溜息を吐いた。


「……なあ、ヤコ。常々思うんだけど、それって失礼じゃないか?」


「何がじゃ。B級グルメは偉大じゃぞ。このマルゲリータも誇らしく感じているに違いないのじゃ」


「B級は偉大じゃないからこそB級なんだろ。あと、ここのピザは確かに旨い。この国じゃB級かもしれないが、少なくとも俺たち日本人にとってはA級だ。あ、店員さん。水貰える? 五〇〇mlのペットボトルで」


 水入りのペットボトルを貰い、半分くらい飲んだ後、ミノルは立ち上がる。会計で店員が引き算に頭を悩ませている間、ヤコは残るピザをぺろりと平らげていた。


「行くぞ」


「あ、待つのじゃ! まだ妾のB級講座は終わっとらんぞ!」


「B級はお前だけで十分だ」


 慌てて飛び出るヤコ。待たずに先へ行くが、別に好き好んで冷たい態度を取っているわけではない。この幼女、B級グルメを食している時は、隙あらば追加注文するのだ。


「日本も、イタリアも、何も変わらないな」


 自分と少女のやり取りが。この心情が。この疲労感が。何もかもが、日本にいた頃と変わらない。しかし、ふと周囲へ視線を巡らせた後、ミノルは考えを改める。


「……そうでもないか」


 ひとつ。確かに変化したものもある。

 背にのし掛かる重圧がない。その、なんと幸せなことか。意識した途端、心も体も軽くなる。無意識に微笑したミノルは、その表情をヤコに見せることなく進んだ。

 魔術師ミノルと精霊ヤコ。

 日本を発った二人は今、古代の風吹く国、イタリアを旅していた。




 古くから、世界には魔術と呼ばれる学問があった。

 魔術は紀元前の頃から栄え、時に人々へ幸福をもたらし、時に不幸をもたらした。最初に生まれた地は不明。人間が生得的に備えていた能力と説く者もいれば、天上の神々が与えた力だと説く者もいるし、宇宙人が人類に、勝手に植え付けた異物だと説く者もいる。

 炎を凍らせ、土を金に変える奇跡。神秘の結晶である魔術は、やがて海を越え、あらゆる大陸に知れ渡り、巨大な文明として立ち位置を確立した。少なくとも科学が生まれる前の時代において、魔術とは、唯一にして絶対の文明だった。

 しかし――時は現代。科学が席巻する人々の生活において、魔術の価値は、かつての何十分の一にも落ちた。魔術は燃費が悪いし、出力も無駄に大きい。火を起こすだけで倦怠感を覚えるし、起こしたところで現れるのは、辺り一帯を吹き飛ばす爆発だったりする。

 何より、魔術は――才能によって左右される。教育が難しいのは勿論、下手したら努力が意味を成さないこともあるのだ。これでは怖くて成果を期待できない。

 そんなものに頼るくらいなら、誰だって科学を選ぶ。

 誰もが気軽に扱える力。それを武器に、科学はあっさりと魔術の立ち位置を奪った。

 そして魔術という旧文明は、ただ災害を処理するための道具へと追いやられる。

 災害への対処は必須だから、魔術が人々にとって必要不可欠であることは昔から変わらない。ただそれが、個人ではなく集団レベルの話になっただけだ。今や、魔術は誰しもが学ぶ必要はない。誰か一人、それこそ数百人に一人いれば十分だ。

 魔術で災害を処理する者、魔術師もまた、かつては花型だったが今はただの危険な職業である。魔術に興味を持ち、それを学ぶ者は後を絶たないが、本業とする者は滅多にいない。昼間のワイドショーで自衛隊と戦死率を比べられることが、日本では日常だった。

 子供にとっては憧れであり、親にとっては不安の種。友人には自慢されるが、恋人にしたくない職業ランキングでは三年連続一位。ミノルは、そんな魔術師の一人である。


「この辺りは随分と、精霊が開放的だな」


 午後一時。昼食を終えたミノルとヤコが店を出て、再び道路を歩き始めて数分後。ミノルが周囲を見渡して呟いた。道行く人々は時折、不思議なものを見に付けている。西洋剣や弓などの武器類だったり、鼠や小鳥といった動物だったり。或いは、そもそもヤコのように、自分自身の身体に獣の耳や羽、尻尾を生やした人間だったり。


「あっちは規制が煩かったからのう。妾も、こっちの方が過ごしやすいのじゃ」


「どの口が言ってるんだ。少し前まで『和食が食べられないのじゃー』って、ずっと騒いでたくせに」


「むっ、妾はそんな情けない声など出しておらんのじゃ!」


「はいはい、のじゃのじゃ」


「のじゃー!」


 適当にあしらっていると、ヤコがミノルの腕に噛み付いた。割と痛いが、もう慣れたもので無視をする。痛みはともかく、ピザの油が皮膚につくのは気持ち悪い。

 対話もできる。触ることもできる。感情豊かなその様は、実に人間らしいと言える。けれど、彼女は人ではなく精霊と呼ばれる存在だった。

 精霊とは、魔術師が使役する、魔術の源となる存在。彼らは人の姿を真似ることもあれば、動物や植物、そして霊的な姿を持つことすらある。例えば今、目の前を横切った牛は明らかに動物ではなく精霊だった。

 精霊とそれ以外を区別する方法は簡単だ。要は、普通じゃないモノが精霊である。今ミノルたちの前を横切った牛は、隣に歩く女性に対し、人間の言葉を話していた。精霊は見た目では区別がつかなくとも、必ずどこかに違和感がある。

 ところで今の牛、随分とダンディな声音だったが、一体何の精霊だろうか。ヨーロッパの精霊にあまり詳しくないミノルは、浮かび出た好奇心の行き場に悩む。

 だがそれも、他に関心のあるモノを見つけた途端、すぐに霧散した


「お、すげぇ。憑霊器(ひょうれいき)が普通に売ってる」


 露店に陳列された商品を見て、ミノルが目を丸めた。

 まだ誰とも契約していない精霊の寝床、憑霊器。読んで字の如く、精霊が憑く道具のことである。ミノルの目の前には、古いヤカンらしきものが置かれていた。


「でも流石に、B級以上のものは無いか」


 他にも並ぶ商品を一通り眺めた後、ポツリと零した。


「ふふん、当然じゃな。妾と同格の精霊が、そう簡単に見つかる筈がない」


「いや、国が管理しているだけだろ。別にお前が特別珍しいわけじゃない」


 精霊には幾つかの

「格」が存在し、B級は中でも上のクラスだ。それぞれの統計はピラミッド型になっており、全体を見れば確かにB級の数は少ない。だがその憑霊器を町中で見ないのは、B級の珍しさではなく国の敷く法によるものである。

 B級以上の精霊が宿る憑霊器は、国に厳正に管理され、表に出ない。今の時代、精霊と魔術師は自然災害の処理だけでなく、人間同士の戦いだって立派に務められる。拳銃をD級、機関銃をC級とするなら、大砲のB級、ミサイルのA級は、戦争の抑止力となり得た。

 そんなものを易々と世の中に出すわけにはいかない。

 と、だらだらと説明してもヤコは聞いてくれないので、ミノルは内心で語る。

 案の定、ヤコは人の話を聞かず、平らな胸を張って自尊心を満たしていた。


「うーむ、良い。実に心地よい光景じゃ。ここでは妾が最強じゃ! ぬふふ」


「お前なぁ、格下を見下して、格上にはビビる癖、いい加減に直せよ」


「な、ななな、何を馬鹿なことを言うのじゃ! 妾がそんな情けない真似をするわけないのじゃ!」


「あちらのお姉さん、A級を連れてるぞ」


「ひえっ! 怖いのじゃあ! ……って、C級ではないか!」


「ははは、マジで直せ。術師の俺まで品性を疑われる」


 途中まで苦笑していたミノルだが、次第に真顔で指摘する。しかしヤコは、やはり話を聞いておらず、寧ろ自分が被害者だと言わんばかりにふて腐れていた。


「……で、ミノルよ。この後はどうするのじゃ?」


 やや不機嫌そうな表情で、ヤコが訊く。


「協力者のところに行く」


「協力者? 何のじゃ?」


「お前なぁ……俺たちが日本を出た理由だぞ」


 呆れるように、ミノルは言った。……同時にそれは、若干、自嘲気味でもあった。


「事の発端は昨年六月。イタリアで、死人の精霊回路が奪われる事件があった」


 態とらしく深刻そうな面持ちで、ミノルは説明する。

 精霊回路とは、魔術師がその身に宿す、魔術を使うための要素だ。体内に刻まれたその回路は、宿主である魔術師が死んでも使い道がある。代表的な例としては動力化だ。車を動かすガソリン代わりにもなるし、洗濯機を動かす電力代わりにもなる。最も、その出力の大きさなどが原因で、大抵は戦闘用の武具となるわけだが。


「事件は相次いだ。回路の盗難事件は、今に至るまで計三回起きている。現地の警察も捜査したが、中々、犯人は捕まらない。そこで日本の魔術連盟は、捜査の協力者として俺たちを派遣した。……全く、人の物を奪うとはけしからん奴だ。これは許しておけない。例え何十日、何百日と経とうと、犯人の正体を突き止めるまで、俺は日本に帰らないぞぉ」


 後半は完全に棒読みだった。そんなミノルの様子に、ヤコは頬を引き攣る。


「う、うむ。そう言えば、そういう建前があったのぅ」


「建前? なんのことだ? これは俺に課せられた重要な案件だ」


「……本当にそう思っているのじゃ?」


「……んなわけないだろ」


 頭を疑うようなヤコの視線に、ミノルも正直に本音を吐いた。二人して溜息を零す。


「協力者もご愁傷様なのじゃ。ミノルが日本から逃げる建前のためだけに、態々時間を割いてくれるとは」


「いや、連盟の話によると、今回は協力者の方から声を掛けてきたらしい。なんでも、俺の名前を出した途端、『是非とも手伝わせて欲しい』と食いついてきたとか。……流石に建前のためだけに協力者を雇うのは、憚られるからな。その点、今回はまぁ、なんだ。お互い目的を果たしているんだし、ウィンウィンってやつだろ」


「ファンの悪用はよくないのじゃ」


「勝手にファンになられているこっちの身にもなってみろ」


「ほんの数年前までは天狗になっておったくせに」


「ぐっ……」


 伊達に相棒ではない。恥ずかしい過去を指摘され、ミノルはうめき声を上げた。締まらない空気のまま、通りがかったタクシーを止める。チャンピーノ空港に着陸する飛行機の音が頭上から降り注いでいた。ドアを閉じると、少し静かになる。

 運転手に行き先を告げると怪訝な顔をされた。精霊を連れているとはいえ、ミノルは黒髪黒目の典型的なアジア人の容姿。観光客が好き好んで行く場所ではないと考えたのだろう。仕方ないのでポケットから一枚の徽章を取り出して見せる。紅白で、桜と札を象るそれは、自分が日本魔術連盟に所属していることの証明――つまり、日本の魔術師であることの証明だ。別に何も説明になってはいないが、魔術絡みの物事と言えば、常人には理解し難いところがある。ミノルの旅路に魔術が関わっていると知った運転手は、途端に思考を放棄して、すぐに車を動かした。


「……随分と人気の少ないところに行くのじゃな」


 窓から外を眺めていたヤコが言った。


「合流場所は一つ目の事件現場でもある。その方が調査も捗るだろ」


「うーむ、治安も悪そうなのじゃ」


「ナポリよりましだ」


 治安が悪そうと言うより、とにかく閑散とした雰囲気が目立った。一面生い茂る草とアスファルトの道路。大抵の光景はその二つで構成されていた。


「ここだな。止めてくれ」


 事前に調べた通りの構造物を見つけ、ミノルは運転手に停車するよう伝えた。金を払ってすぐに降車する。また、滑走路から飛び立つ飛行機のエンジン音が聞こえた。

 ミノルたちの目の前には大きな廃墟があった。一階建てだが、とても広い。


「大きいのじゃ」


「土地が有り余ってるんだろう。……日本じゃ、あまり見かけない構造だな。事件が起きる直前まではホテルだったらしいが、そう言われてもピンとこない」


 まるで巨大なお化け屋敷だ。ミノルは平気だが、隣を一瞥すると、案の定、ヤコが青ざめた顔をしていた。この幼女、精霊などという不思議な生き物のくせに、幽霊の類が駄目なのだ。立ち竦むヤコの細腕を引っ張って、ミノルは廃墟へと向かった。


「集合場所はここであっている筈だが……いないな。仕方ない、先に軽く調査しとくか」


「ま、待つのじゃ。本当に、ここに入るのじゃ?」


「入るのじゃ」


 不安気なヤコに対し、ミノルは彼女の物真似で返す。普段なら顔を真っ赤にして怒るのに、今は一切反応がない。……こんな状態で大丈夫だろうか。

 フロントらしき大きな部屋を抜け、そこから細い道を延々と進む。床も天上も窓も壁も砕け散ったその廃墟は、最初こそ開放的で物騒なイメージがあったが、内部に近づくにつれて薄暗くなり、幽霊屋敷に近い雰囲気が現れていた。


「ミ、ミノル。怖いのじゃ……なにか、気を紛らわすことはないかのう?」


「じゃあ話をしよう」


「そ、それが良い。妾、面白い話が聞きたいのじゃ!」


「昔々、あるところに………………虐待されて死んだ女の子が」


「ああああああああああああ! ああああああああああああなのじゃああああ!!」


「うるっせぇなあ……」


 長い両耳を腕で押さえつけ、ヤコが奇声を発しながら頭を振り回した。


「いいい今のは、どう考えてもミノルが悪いのじゃ!」


「なんでだよ」


「妾は面白い話をして欲しいと言ったのじゃ!」


「これから面白くなるんだよ。ったく、話の腰を折りやがって」


「ぜーったい、嘘なのじゃ!」


 勿論嘘なのだが、ミノルは不満そうな表情を貫いた。なんだかんだいって、多少は気を紛らわすこともできただろう。ひび割れた壁の隙間を覗き、現在地が廃墟の中心辺りであることを確認してから、ミノルは改めて口を開く。


「じゃ、面白くも怖くもない、退屈な話でもするか」


 少し真面目な面持ちで、ミノルは言う。


「一件目の被害者は、ロレンツィオ=モンティ。三十路の独身男性だ」


 念のため頭に入れておいた情報をそらんじて、続きは懐から取り出した書類を読む。


「ロレンツィオはイタリアでは多少名の売れた精霊回路コレクターだ。彼は丁度、昨年の六月、旅行中にこのホテルに泊っていたらしい。……その時、ロレンツィオはお気に入りの精霊回路を、観賞用として持って来ていたそうだ」


「鑑賞用ってなんじゃ、観賞用って」


「俗に言う回路愛好(サクルフィリア)……ほどではないが、筋金入りらしいな。何処へ出向くにしても、お気に入りの回路を五、六個詰めたトランクと一緒だったらしい。……余談だが、毎回トランクを持ち歩くせいで、腕だけ異様に筋肉質だそうだ」


「本当に余談なのじゃ……」


「ともかく、ロレンツィオは精霊回路と関わらない限り、その重い腰を持ち上げることすら無い人物だった。当然、旅行の目的も新たな精霊回路を手に入れることだ。ロレンツィオはネットオークションで落札した回路を、直接受け取りに行く予定だったそうだ」


「じゃが、その途中で、逆に回路を奪われてしまった……ということじゃな」


「ああ。ロレンツィオが就寝する直前、突如、窓の外から何者かが部屋に入ってきた。その人物は、トランクごと回路を奪い取り、どこかへ消えたそうだ。……勿論、ロレンツィオは抵抗した。ロレンツィオはコレクターである以前に魔術師でもあるからな。その実力はまあ、一般よりやや低めだそうだが…………これは、相手が悪かったな」


 砕け散った床板の破片を拾い上げ、ミノルが言う。恐らくそこは、ロレンツィオと犯人が真正面から交戦した場所だった。左右でまるで景色が違う。一方は無傷で埃を被っているだけだが、もう一方は大きな破壊の跡があった。壁に空いた大きな穴は、犯人が魔術師であること。そして、犯人がかなりのやり手であることが窺える。


「オーバーキルというやつじゃな」


「全く隠されていない魔術の痕跡に、必要以上の破壊。……犯人は間違いなく、この一件が初犯だろう。どう見ても、慣れた奴の犯行じゃあない」


 はっきり言って力押しだ。褒めるつもりも貶すつもりもないが、スマートではない。だが、これだけ痕跡が残っているにも関わらず、犯人は未だ捕まっていなかった。隠れることが飛び切りうまいのか、それとも他に何か、自分たちに見落としている点があるのか。


「ロレンツィオも、よくここまで逃げ延びたな」


「む? ここはロレンツィオの部屋ではないのか?」


「ロレンツィオの部屋は、もっと奥。ここから三〇メートルくらい先だ」


 予想以上に逃げ回る標的に対し、犯人が腹を立て、結果、強力な魔術を行使したのかもしれない。とは言えそれもまた、感情を制御できないという未熟な証だ。

 或いは犯人は――なんて考えたところで、急に気分が萎えた。

 下らない。建前だというのに、何をマジになっているのか。


「しかし、この威力の魔術を使えるということは、犯人は相当高ランクの魔術師じゃな」


 ヤコが神妙な面持ちで推理を披露した。


「……さぁ、どうだろうな」


 普通に考えれば、ヤコの指摘は正しい。だが、ミノルは曖昧に返した。

 ――肩書きと実力は、必ずしも結びつくとは限らない。

 それは、自分たちが良い例だ。


「ミノル」


「ん?」


「気配がするのじゃ」


 その時、ヤコが足を止めて告げた。また下らない話かと思いきや、二言目の言葉を聞いてミノルは真剣な面構えをした。


どっちだ・・・・


 相棒にだけ伝わる問い。ヤコは、側にある瓦礫の隙間へ顔を向け、唇を震わせる。


「――霊獣じゃっ!」


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