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【お知らせ】

 第12回HJ文庫大賞《金賞》受賞作「聖なる騎士の暗黒道」が、2019/3/1発売です!

 世界最強の聖騎士に選ばれたにもかかわらず、「光よりも闇の方がかっこいい」という理由で、聖騎士とは真逆の暗黒騎士を目指し始めるという、馬鹿で中二病な少年の物語です。

 アニメイト様、とらのあな様、メロンブックス様では特典SSを配布しています(内容は各店舗で異なります)。なくなり次第配布終了ですのでお早めに!


 公式サイト→http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/lineup/detail/831.html


 試し読みも公開されています。

 HJ文庫様の他の作品も気になる方は、公式の試し読みを。

 本作のイラストが沢山見たい方は、BOOK☆WALKER様の試し読みをどうぞ。




 狐狩りは簡単に成功した。まずミノルは、小休止がてら飲み物を買ってくるという体裁でセラと別れた。狐は離れていくミノルではなく、その場に留まり続けるセラを眺めていたので、これ幸いとミノルは気配を殺し、ヤコの背後へ回り込む。

 夢中になれば視野が狭まるのは、ヤコの癖だった。伊達に三年間、片時も離れることなく傍にいたわけではない。ミノルは手慣れた動作でヤコの両耳を掴んだ。


「ど、どどど、どうして妾の居場所がわかったのじゃ!」


「頭隠して尻隠さず。お前の場合、耳と尻尾だがな」


「む、むーっ! 触るでない! 妾は今、怒っているのじゃぞ!」


「そうなのか?」


「そうなのじゃ!」


 怒り心頭といった様子で、ヤコが飛び跳ねて距離を取る。どうやらもう逃げる気は無いらしい。傍に来たセラと共に、ヤコの話を聞くことにした。


「わ、妾が傷心中だというのに、お主はセラと、い、い、い、いちゃつきおって! けしからん奴なのじゃ!」


「いや、別にいちゃついてたわけじゃ……なあ?」


「はい。寧ろ惚気られちゃいました」


「そんなつもりもないけどな」


 いじけるヤコに対し、ミノルは溜息を吐いた。心配させたんだ、このくらいの態度は許されるだろう。だが、自分にも非があることを、忘れてはならない。


「ヤコ。俺は……お前を失うくらいなら、ずっと、今のままでいい」


 勇気を出して言った。ヤコは、目を丸めていた。


「本当なのじゃ?」


「ああ。本当だ」


「本当の本当なのじゃ?」


「本当の本当…………………………………………本当なのじゃ」


「ふしゃーッ!」


「おっと」


「な、なんでそこで、お、お主は! お主はァ! 妾、ちょっと感激してたのに!」


 なんとなく恥ずかしくなってきたから――とは、口が裂けても言えない。


「ミノルさん……」


 今回ばかりはセラも味方になってくれなかった。批難めいた視線を注がれ、居心地の悪くなったミノルは、思い出したかのようにセラの手元に視線を移す。


「ところで、さっきから気になっていたんだが……それ、何だ?」


「え? ……あ、すっかり忘れてました」


 そう言って、セラは先程からずっと抱えていた紙束を、ミノルに渡した。


「頼んでいた事件のデータです」


 本来の、エリクと合流した目的の品だ。

 ミノルはクリップで留められた書類をパラパラと捲る。フィレンツェからメストレ駅までの間、考えを整理する時間は十分あった。幾らか気に掛かっていた情報を読み取る。


「……これだ。これを見たかった」


「これは……一件目の事件現場の、設計図ですか?」


 セラの問いにミノルは頷く。ミノルは次に、ヤコの方を向いた。


「ヤコ。俺たちが、ここで戦った霊獣のこと、覚えているか?」


「うむ、ちゃーんと覚えておるのじゃ」


「あの時、俺たちは最後の最後で敵の姿を見失った。でも冷静に考えれば、あんな大きな図体が、その辺の瓦礫に隠れるとは思えないんだ。それに、後ろに回り込まれた時も、全く気配を感じなかった。多分、あれは……」


 ページを捲るミノル。やがて、その手を止めて、口角を吊り上げた。


「ビンゴ。地下室だ」


 どこかに抜け道があったに違いない。そしてそれは、あの状況下では、恐らく地中にある。そう踏んでいたミノルの推理は、正しかった。


「……セラ。ここからチャンピーノまで、どのくらい時間がかかる?」


「そうですね……電車なら三時間ほど。飛行機なら、一時間強でしょうか」


「で、今は夕方五時か。回ろうと思えば回れるな」


「今から行くのじゃ?」


「そうした方がいいだろう。どうやら相手も、俺たちの動きに感づいているみたいだからな。下手に先延ばしして、また襲撃されたら厄介だ」


「確かに、そうですね」


「イカ墨パスタは、先延ばしなのじゃ……」


 トレード・オフというやつだ。残念ながらパスタは次の機会とする。


「エリクさんは、どうする」


 ミノルが尋ねた途端、ヤコが顔を伏せた。その小さな腕で、ミノルの服の裾を掴む。


「……まあ、今は止めておくか」


 チャンピーノには三人で行くことにした。

 向こうの都合も考慮した末の結論だが、流石にあれだけのことがあって、すぐに顔を合わせるのも難しい。暫くは距離を置いた方がいいだろう。

 セラの案内に従い、ミノルたちはサンタルチア駅へ向かった。


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