書物修復師9
「古代遺跡の古文書か。
この街にいる理由が納得出来たよ。」
国としては発掘された古文書の修復が必須なのだろう。
貴重な文献だろうからな。
脳ミソまで筋肉が詰まってるような奴等に任せて王都に運ばせた日には、ただのボロ屑になりかねないからな。
一刻でも早く修復師に渡せば、安全に文献の情報は護られる訳だ。
「うん、旨いな。」
話を聞きながら食べるが、旨い。
料理上手なんだな。
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいな。
書物は一緒に食事してくれないからね。
一人で食べるのが寂しいから、たまには店で食べるんだよ。
人間の声が区別出来るって安心するためには必要な事かな。」
「書物ってどんな風に喋るんだ?」
「うーん、情報がブワッてあふれ出て、そのままじゃ分からないから知りたい事を聞いて教えてもらうんだ。
心地好い声で語ってくれる。」
「書物の年齢や会いたい人なんかを聞くのか?」
「うん?
ああ、昼間の仕事の時の事だね。
まあ、そんな感じ。
色々訊ねていくとどう修復すれば良いのか分かってくるんだ。
書物は物識りだから対話すると時間を忘れてしまいそうになる。
まあ、頑固で何も語ってくれない方もいるけどね。」
そう言って笑う。
美味しい食事と楽しそうに語る一風変わった友人。
こんな穏やかな時間を過ごすのも良いもんだと思った。