書物修復師7
「どうぞ、入って。」
一戸建ての独身者用の官舎に促される。
俺の住まいも同型の建物で、もう少し行った先にあったと思われる。
まだ引っ越したばかりなので地理が心許ない。
中に入り、勧められたソファに腰かける。
ソファにテーブルに本棚。
案外普通の部屋だなと見回す。
上着を脱いだ家主が隣の部屋から戻ってきた。
「え?女?!」
体の曲線が判る服装になったら、少年ではなく女性と判明した。
「あ、失礼しました。
少年だと思い込んでたもので。
ああ!女性の家に入ってるのは不味いですね。
帰ります。
親切、ありがとうございます。
では、又仕事の時にでも。」
不味い、初対面みたいなものなのに、女性の部屋に上がり込んでしまうなんて。
彼女にとって不名誉な噂がたったら困ってしまうだろう。
早く帰ろう。
「ふふふ、そんなに急がなくても大丈夫だよ。
少年に間違われる事もよくある事だし、新顔さんが良い心根の持ち主なのは分かってるからね。
貴方の文字が悪い事の出来ない人だって教えてくれた。
信頼してるから。」
「え、文字を見ただけでそんな事分かるのか?!」
善悪も判断出来るなんて、書物修復師はなんて恐ろしい!
「さすがに大した情報は分からないけどね。
まあ、貴方がそれほど差別意識を持ってない事はわかるかな。
さ、食事を出すから座って。
ああ、私の事は呼びすてにして欲しいな。
モリーナってね。」
「ああ、分かった。
じゃ、モリーナも俺の事はランドルと呼びすてにしてくれ。」
こうして俺と書物修復師のモリーナは知り合いになった。