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書物修復師4
「ランドル殿、洗礼はいかがでした?」
職場に戻ると同僚の男が聞いて来た。
「洗礼?」
「ええ。
ここに赴任してくると皆、あの者に困らせられるんですよ。
書物修復師なんていう、この国でも三人しかいない職種らしいんですがね。
偏屈で、小うるさくて、書物に語りかける変人です。
こんな無機物が話せる訳が無いのに、対話しているらしいですよ。
本なんて物は破れれば糊で貼れば良い、朽ちれば捨てれば良いと思うんですがね。」
この者の言う事も一理あるが、古文書等の価値ある書物も同じように捨てれば良いとはならない。
修復出来るのならば、それは素晴らしい事なのだ。
それにしても、この国に三人しかいない職種?
そんな貴重な人物が王都でもないそこそこの大きさのこの街に何故いるのだろう?
しかも、あんな子供のような成りの人物が?
まさか、偽者?
書物に接する態度は素晴らしいようだが、合点のいかない心地がした。
これは、ちょっと様子を見た方が良い。
まあ、新参者の俺があの者の担当になったようなので、度々顔を合わせるのは決まりのようだが。