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書物修復師2
扉の中は足の踏み場も無いほど書物に埋もれていた。
「モリーナさん、役所の方が来ましたよ。」
書物の影から返事がある。
「又ですか?
書物の扱いが悪すぎですよ。
あれ?初めて見る人ですね。」
薄汚れたスモッグを着た小柄な人物がこちらを見上げていた。
まさか、子供じゃないよな?
「本日赴任してきたランドルです。」
「ああ、モリーナです。
その子をこちらに下さい。」
その子?
後ろを見れば受付の彼女はもういない。
両手を出され、ああ、この書物の事かと思い手渡す。
大切そうに机の上に置き、箱の蓋を開けるのを見ていれば、空気が変わったのが感じられた。
『お疲れ様です。
何かして欲しい事はありますか?』
いきなり、独り言を言い始めた。
『お名前をお訊きしても?
お年は?
行きたい所とか、会いたい方はいらっしゃいますか?
そうですね、少しゆっくりして下さい。』
書物に向かって話し掛ける様は、先程の上官が【修復師サマ】と揶揄するのも仕方がないのかと思えるような絵づらだった。