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書物修復師1
耳を澄ませ書物の声を聴く。
それが書物修復師の能力。
「この書物を修復師サマにお届けしろ。」
この街の初勤務の上官命令だった。
修復師様?
若干侮蔑が込められていそうな発音だったが、初めて聞く名称だ。
「隣の建物の中にある図書館に居る、書物修復師の事ですよ。」
上官はさっさと退室してしまったので、同僚になる気弱そうな男が教えてくれた。
「書物修復師?
初めて聞くな。」
以前いた町は小規模だったので、一人で何役もこなしていた。
当然図書館も専門職は置いていなかったのだろう。
さすが都会だなと感心する。
「これを届ければいいのですね。」
透明の箱に書物が入っている。
かなり古そうだ。
箱から出せば崩れてしまいそうなので慎重に持ち、教えられた建物へと入る。
「あの、書物修復師はどちらでしょうか?」
受付で尋ねると、持ってた箱を見て納得したように案内してくれた。