追放された錬金術師ですよ
真夏のストレスゆえに、勢いで作った。
何にしても、まぁノリと勢いと流行りに乗った駄作かもしれません。
「フィン、君をこのパーティ『メジューエワ』から追放する!!」
「‥‥‥へ?」
ある日、冒険者ギルドに隣接する酒場にて、僕、フィンはいきなりそう告げられた。
告げてきた相手は、この酒場に呼び出してきた、所属していたパーティ『メジューエワ』のリーダであるジョン。
一体何を思って、そう口にしたのだろうか?
「追放って‥‥‥脱退させるとかじゃなくて?」
「ああ、そうだ!!だからさっさと出ていけ!!」
そう言われ、あっという間に僕は追い出されてしまった。
どういう理由があって、追放されたのかは分からない。
念のために、他のパーティの皆にも尋ねてみようと思い、宿屋の方へ一旦戻ったが…‥‥皆、既にいなくなっていた。
そして、宿屋の女将さんが書置きとか言うものを渡してきたので、その内容を読み、僕はなぜ追放されたのか理解した。
「‥‥‥へぇ、皆もうすでに、ジョンと関係を持っていたのか」
このパーティ、魔法使いのムラに、ヒーラーのモス、ドMこと盾役の騎士ルンに‥‥‥いや、僕とジョン以外の全員が女の子だったか。
で、全員が僕の知らない間にジョンと肉体関係を持って、ちょっとしたハーレム状態だったようだ。
けれども、その事ならば別に僕はどうでもよかったのに、彼らは僕が邪魔になり、ならばいっその事単刀直入に追放しようという意見で一致して、言い出しっぺのジョンが自ら僕を追放したらしいのである。
……いや、これぐらいならばさ、もう少ししっかりと説明できたよね?突然追放だと言うだけで、理由も告げなかったとかジョンは馬鹿なのか?いや、馬鹿だったわ。
少なくとも、まともな精神の持ち主であれば、もう少し丁寧かつ…‥いや、好き勝手にやらかしてくれている辺り、まともじゃないか。
何にせよ、僕はこの日、パーティを追放され、フリーの冒険者となった。
まぁ、念のためにギルドの方に手続きを行ったら、どうやらあの馬鹿たちはまともにやっていなかったようで、僕の離脱手続きが不完全であった。
確認してきちんと離脱手続きを行ったが‥‥‥さてさて、僕はどうしたものか?
他の皆のように優れた特色もなく、ジョンのような色ボケ屑男でもない。
だって僕は、ただの錬金術師だもの。
……ああ、錬金術師と言っても、何かを金やダイヤに変えるようなことはできない。
精々、小さなゴーレムを創り出して荷物運びの支援をしたり、もしくは薬を調合してその戦況に合った強化薬を作る程度だ。
いやまぁ、薬関係なら本家本元の薬剤師には負けるが‥‥‥まあ、精々人形サイズの小さなゴーレムを作るぐらいしか、僕には取り柄がない。
偵察をさせたり、狩りをさせて食材を確保したり、寝ている間の見張りを任せたり、戦闘中に敵の弱点を探してその部分への攻撃をさせたりする程度だ。
あのジョンはそうとは考えずに、何故か金も錬成できると勘違いしていたようで、そうではないと分かった時は怒鳴り散らしていたが…‥‥うん、もう放置でいいや。
何にしても、ソロではちょっと難しいし…‥‥ここはもう、冒険者としては引退して、何処かでひっそりと研究でもする日々を送るべきであろうか?
たま~に夢で鉄の飛行機とか、電気?とかいうビリビリで動く列車と呼ばれるような物を見るのだし、それらの再現ができないかどうか、研究して過ごす日々が良いだろう。
「っと、そう言えば…‥‥」
考えていたところ、ふと僕はあることを思い出す。
パーティで活動していた時に、ある国にて僕のゴーレムたちを見て、ちょっと興味があれば来てくれないかと言う紹介状を貰ったままだったことに。
冒険者業をしていたので暇はなかったが、追放された上に引退したこの身であれば問題はないはずだ。
とりあえずは、その国へ僕は向かうのであった。
……それから数年が経過した。
だが、どういう訳か…‥‥僕はその国の錬金術師たちのトップにされました。
いや本当に何で?
「何で僕が、錬金術師長とかに任命されるんだよ…‥‥しかも国王陛下直々の命令かよ」
「いやだって、フィン様の研究成果はこの国の物凄い利益を生み出しましたし」
「我々以上に繊細なやり方で有り、当然と言えば当然かと」
「しかり、愛想も良く、錬金術を用いて悩みを解決し、時折街中で人々を楽しませるような手品へ変えた錬金術などからも、人気が高い」
「そう考えると、我々一同からすれば、長になるのにふさわしきお方かと」
「で、本音は書類仕事かが面倒くさいとかじゃないよね?」
「「「「‥‥‥」」」」
「やっぱりそれが本音じゃん!!」
見事に視線をそらした同僚たちへ向けて、僕はそうツッコミを入れるのであった。
いやまぁ、最初のうちは色々な研究をしていたよ。
けれどもそのうちに、他の同僚たちが興味を持って、実践し、魔導戦艦とか、介護ゴーレムとかになって、表彰され、褒美をもらって研究費を稼ぎ、また何かを研究しての繰り返しをしていたが‥‥‥どうしてこうなったのだろうか。
まぁ、何しても書類仕事が面倒だとは言え、一応好きに研究ができるからまだ良いか。
でも、隠居したら絶対にどこかの秘境逃れて、仕事を求めないようにしてやろう。そうだ、いっその事今までの技術の粋を集めてみたゴーレムを作って身の回りの世話をしてもらうのもいいかもしれない。
とりあえずは老後の人生設計もしつつ、次の研究は何にしようかなと考えていた、そんなある日であった。
どうも何かを捕らえたらしい騎士団長が、どういう訳か僕の下へきて、ある事を告げた。
「‥‥‥え?面会ですか?」
「ええ、どうもフィン様の事を名指しで呼び、どうにか会いたいと駄々をこねる様な馬鹿がいまして……散々暴れられたので、取り押さえて牢につなぎましたが、いかがしましょうか?」
「えっと、それは何て名前の人で?」
「確か、ジョンと名乗ったみすぼらしい男でしたな」
……ジョン?それって数年前に僕を追放した屑男?
でも、今更何をしに来たのだろうか…‥‥と言うか、その報告を聞く限り、彼しかいないような……他にもパーティメンバーはいたはずだよね?
何があったのかは気になるが、どう考えてもろくでもない予感しかしない。
念のために、いざという時に作っておいた護身用の道具を持って、会ってみようかね。放置して暴れられてもうるさいだけだしなぁ‥‥‥
城の地下牢へ騎士団長に案内してもらい、僕はそのジョンが捕らえられている牢屋の前に立った。
「…‥‥ジョン?」
「‥‥‥」
そこにいたのは、数年前に最後に見た姿のジョンではなかった。
手足の一部がえぐれて治されており、皮膚はひどいやけどの後や毒による後遺症と思わしき染みだらけ。
髪の毛は抜け落ち、東方に聞く落ち武者なる物のような頭になっている。
しかも鼻は豚っ鼻のように固まっており、顔には大きな傷跡が残って、醜悪な状態になっていた。
「ああ、まだ目が覚めていません。暴れた際に、手刀で軽く意識を奪ったのですが‥‥‥」
「いや、それはいいけれども……これが本当にジョンと名乗ったのか?」
「はい」
信じられないが、よくよく見れば面影は残っている。
ただ、この様子だと僕が追放された後に色々あったのは間違いなさそうだ‥‥‥‥と、考えていると、ジョンの目がバチッツとあいた。
「いったぁ‥‥‥くそう、なんでこのわたしがこんな目に遭わねばならぬと…‥って、フィン!!」
頭を押さえながらも、僕の姿を見てジョンが驚愕の声を上げた。
「おいコラ役立たずだった錬金術師!!貴様が去った後にわたしたちはひどい目に遭ったんだ!!どうにか保証しやがれ!!」
起きて早々の罵詈雑言とはこれいかに。
騎士団長がさっと切り捨てようとしたが、僕は一旦その手を辞めさせた。
「保障しろと言われても、追放されたから責任はないし……というか、そもそもその姿はどうしたんだ?」
「いろいろあったんだよ馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何とか馬鹿をなだめつつ、僕はあの追放後に何が起きたのか、知る事になった。
いわく、今まで僕がやっていたことを彼らは怠り、色々と悲惨な目に遭ったらしい。
食材がなく、不味い干し肉で過ごす。
偵察できず、奇襲に遭う。
真夜中の見張りもせず、夜襲をかけられる。
強化薬がないのに今まで通りにやろうとして、見事に大敗する。
女遊びをしようとして、ついうっかり裏社会のやばい人たちにやられかける。
その他にも色々とやらかしまくっていたことが判明した。
うん、抜ければわかっていたことかもしれないが、誰一人としてその状況を改善する気はなかったのだろうか…‥‥
とりあえず、様々なやらかしや失敗、大敗、大損などをしまくり、この数年でジョンはあっという間に落ちぶれ、『メジューエワ』パーティは解散してしまったらしい。
というか、襲撃が多すぎる中で、流石にまだ聡かった他のメンバーも別の男に乗り換え、自然に彼の周りから人がいなくなったそうだ。
「魔法使いのムラは、勝手に離脱したかと思えばあいつ、貴族家の者だったんだぞ!?まさかの政略結婚で子供が3人産まれているそうだ!!」
「え?なんか意外だな‥‥‥あ、そうか、単なる貴族の遊びのような物だったのかな」
「ヒーラーのモスは道中で出てきた山賊たちに奪われ、そして翌日にはなぜか長と仲良くなって、ごみを見るような目でポイ捨てされたし!!」
「あのヒーラー、確か面食いだったからなぁ‥‥‥」
「ドMこと盾役の騎士ルンなんて、オークにこん棒で頭を殴られ、頭の打ちどころが悪かったのかドSと化して蹂躙し、今では風俗店で鞭を持って男たちをしばき倒しているとか言うし!!」
「なんかそいつだけ変になってないか?いや、元からかもしれないが」
とにもかくにも、落ちぶれに落ちぶれまくり、遂に先日ギルドから冒険者登録も剥奪され、完全なる一文無しの無職と化したようだ。
そんな時に、偶然にもこの国で僕が錬金術師として働いているのを聞いて……
「ならば!!かなり儲けていそうだし、昔馴染みで養ってもらおうと考えたのだ!!さぁ、今すぐここから出して、色々と持って来やがれぇ!!」
「「‥‥‥」」
あまりにも自分勝手すぎるというか、頭の馬鹿さが測り切れんくなったのか、完全に無茶苦茶な事をジョンはそう叫んだのであった。
「救いようがないというか、何をどうしたらそんな思考にたどり着けるんだろうか‥‥‥」
「腐り切っているというか、元からこうなのではないのだろうか‥‥‥」
思わず僕と騎士団長は互に顔を見合わせて、ジョンの馬鹿さにあきれるのであった。
とは言え、ここで放置していると煩いだろうし、かと言って世話をしてやる義理もない。
そもそも追放したのはコイツの汚い野望のためだし、生かしておいたところで、役に立つ事もあるまい。
「‥‥‥いや、待てよ?」
そこでふと、僕はある事を思い出した。
錬金術の研究をしている中で、偶然見つけたとあるモノの練製法。
だがしかし、それを作るにはちょっと倫理的な問題などがあるのだ。
…‥‥けれども、ここまで腐れ切った屑であるならば、問題ないだろう。
「よし、ジョン。世話をしてやる気はないが、ある事に協力してくれたらつつましやかな生活ができる程度の金をやる。それでいいか?」
「そんなつつましやかな生活なんぞ…‥‥いや、賭け事で増やしてやる!!だったらその協力に乗ってやるぞ!!」
「それじゃ、念のために契約書を持ってくるから、それにサインしてね」
契約書と言っても、本当は…‥‥いや、口に出すまい。
とにもかくにも、屑は屑なりに役立ちそうなので、僕はジョンをあえて牢から出すのであった。
それから数年後、僕は国王陛下にあるモノを献上した。
それは、賢者の石と呼ばれる宝石の一種で、作り方はあったが、本当かどうか試せなかったのだ。
とは言え、材料はひとまずはあるルートで手に入って、問題ないと説明した。
ただ、二度と作れないものであり、ならば国に献上するのが良いと思ったと言うと、国王陛下はその国への仕える心に機嫌を良くしたのか、褒美をくれるとおっしゃってくれた。
そこで、まだ早いかもしれないが、老年後に隠居した際に住む場所を用意してもらうことにした。
今はまだ、色々な研究をこの国で行いたい。
けれども、隠居後はある事もやってみたいと思って、その隠居後の場所はこの国から遠く離れた地にしてもらった。
何にしても、追放されてからこうまで成り上がるとは、僕自身驚いている。
たいしたことがない錬金術師だったが、実は自由に研究できればいろいろ作れてしまったことが原因だろう。
何にしても、今はただ、その隠居後に行いたいことの設計図を立てつつ、国のために好きな研究に打ち込むべきだと、僕は思うだけであった…‥‥
……でも、何でだろうか。
賢者の石を作ってみたいと思った時から、ちょっとだけ僕は心が黒くなったような気がする。
ああ、そうか。賢者の石の材料は――――――だもの。でも、研究のためになら犠牲はしょうがないものね。
そう思いつつ、僕は今日も研究に励む。
そして老後にある野望も考えつつ、充実した人生を送るのであった‥‥‥‥
・・・・・・本当は後3名ぐらい増やそうかと考えたが、名前が無かった。
何にしても、とある錬金術師の簡単な一生であったようだ。
あぁ、しかしその材料はどこから……