03
拙い文章ですが、読んでくださってありがとうございます。
___愛し子よ、見なさい。世を世界を見なさい。
まどろみの中で声がする。バササッと羽ばたいて、自分が小鳥に戻っていることを確認してほっとした。牢の周りは人で溢れていてバタバタとあわただしい。
彼はと見ると、とっくに目覚めていて辺りの様子を冷めた目で観察している。
カチャリと牢の鍵が開けられ、ついで彼は眼を向いて平伏した
「陛下……なぜこのような場所に」
王様は読めない表情をして、人払いを命じる。
「このような場所に来てはなりません」
「このような場所でなければ話せないこともある」
何と言ったら良いかわかりあぐねているみたいだった。
「顔を、上げてくれ」
「お前に聞きたいことがある。第二王子は、アレクサンドラは王としてどう見る?正直に答えよ。」
王の金色の目がジークと同じだなと僕は場違いにも考えていた。
「……アレク様は無邪気で人の好意を集めることが得意でいらっしゃいます。ただ、素直すぎるのです」
彼の目は強く王を射抜いていた。
「傀儡になる……か」
王は遠い目をして言った。
「あれは私に似ているか?」
ハッとしてジークが目を伏せた。
王は苦渋に満ちた顔をしていた。
「もしや知っていたのですか?」
かつての惨劇を。過去の過ちを。
ならばなぜ……と拳を思わず握る。
「私には守れるものに限度があった。お前の母は強かった。病にかかった時、迷わず私を切り捨ててくださいといったのだ。そのかわりに子供を守って欲しいと」
思ってもいなかった言葉に愕然とする。
「第二王子付きにしたのもそのためだ。万が一にでも自らの息子が口にするやもしれないところでは、アレも毒は盛れないだろうからな」
「愛していたのだ。苦しくなかったはずはなかろうに……それでも傀儡の王を演じねば国は傾く。私は、どうしたらよかったんだろうな……」
いつしか王の目からは一筋涙が伝っていた。
「王太子の書き置きがみつかった。しかるべき手段を踏んだ遺書とでも言おうか」
ここで言葉を切り、王は睨むようにジークを射抜いた。
「お前には覚悟があるか? この国を変える覚悟が」
「どのような意味でございましょう」
「奴は後任にお前を指名している。お前が私の子であることを公表し、自分の後につけるようにと」
「なっ……」
「このままでは第二王子が王太子となるだろう。だが知っての通り、アレでは国を支えきれん。本当に傀儡となってこの国は終わるだろう。お前は王太子を慕っていたな。だが奴はずっと悩んでいたのだ。自分には欠けたものがあると。それをお前に託すと」
「ジークベルト。お前には後ろ盾も何もない。第一王子派だったものは大体がお前につくだろうが寝返る者もいるだろう。国王としてはお前に擁立してほしい。だが親としてはそんな道は歩んでほしくはないのだ」
ふんふん。全く僕は褒めて欲しいくらいじっとしていたと思う。地面からジークの方に舞い上がる。
きっと話せるはずだ。“小鳥の姿でも話せるはずだ”
「僕がジークの後ろ盾になってあげるよ。人間は御使いを大事にするんだろう?」
王様はポカンとした表情のまま固まってしまった。
ジークはやれやれと言った感じで
「お前帰らなくていいのか?」
と聞いてくる。
「いいんだよ。ここを見るのが僕の役目だからね」
「御使い様……本当に伝承の?」
なんだか感激しているらしい王様に僕は言った。
「僕はジークの友達だよ」
それ以上でも以下でもない。後は知らない。そんな意味をこめて。
王様は一人でうんうんと頷き
「では受けてくれるのだな?」
と言った。
ジークはしかたないなという感じで
「仰せのままに」
と大げさに言って見せたけど、その顔はつきものが落ちたかのようにさっぱりしていた。
数日後、王は国中に王太子の失踪の責任を取って3年後に退位すること、御使いが現れたことにより、ジークベルトを王の子と認知し、2年間、第二王子アレクサンドラと競わせ、より能力が勝る方を後任に指名することを周知した。
王太子からの引き継ぎは思ったよりもスムーズに行われた。重役についているものたちの書簡の受け渡しをもともとジークベルトに頼んでいたそうで、王太子の誰にも言えない相談という名目で機密ギリギリのところまでを話していたらしい。
「一杯食わされた気分だ。慎重に見えて意外と大胆なお人だ。全然見抜けなかった」
とぼやいていた。
これが面白くなかったのは第二王子だ。自らの侍従であった男が第一王子の代わりにおさまったのだから面白くない。第二王子派は積極的に動いた。茶器には頻繁に毒がもられるようになり、暗殺者も訪れるようになった。
ヒョロロロロ
僕の声が鳴り響いたら空気がピリッと張り詰める。
僕は神の御使いと言われるだけあって悪意に敏感だった。ジークから片時も離れず今では護衛の一端を担っている。
ジークは強い。僕は知っている。でもいくら強くても眠らずにはいられないし、食事を取らずにもいられない。だから僕が警笛のような役割を果たす。
どうやら今日の暗殺者は僕の声を聞いて気づかれたと知って逃げ出したらしい。
部屋に帰って来てため息をついたジークに、人型になって飛びつく。僕が部屋の中ではどこでも人型になってしまうので、彼は布を持ち歩くようになった。
彼がいうには僕の身体は人間の男でも女でもないらしい。15歳くらいの少年というには線が細く丸みを帯びたけれど少女ではない身体。だと問い詰めたら言っていた。
「疲れた。」
という彼に
「お疲れ様。」
と労いを返す。
「そういえばお前、自衛はできるのか?」
きょとんと返すと呆れたような顔をされた。
「魔法とかつかえないのか?」
御使いなんだろ?とたたみかけられる。
「あのジークの剣が光る奴?」
きれいだよねーというと
「似たようなもんだがあれは属性付与だ。自然の力を身体に巡らせるんだ。人の考えた理屈では魔素というものが大気にあってそれを巡らせて集めて行使する。」
光よ___と彼がいうと指先に眩しいちいさな光が灯る。
「わかるか?」
僕は小首を傾げた。魔法の瞬間
「波のようなものが動いた気がする」
というと、彼は僕を後ろから抱き込んで腕と腹を密着させた。
「今から腹に魔素を集める。」
彼が言うとちょうどお腹の後ろ、彼がいるあたりに暖かな波が起こって引き寄せられるものがあることがわかった。
「腕と腹を循環させる」
そういうと、暖かなものが腕と腹を巡っていく。ああこれは
「呼吸に似ている。わかったよ。」
ちょっとだけ後ろを向いて微笑むと同じように魔素を集めて循環させて見せた。
「これだけでできるようになったのか?」
彼はちょっとびっくりしたように言った。
「それに呼吸に似ているってどういうことだ?」
僕は彼に向き直り、無言で彼の頭を自分の胸に押し付けた。
びくっと彼が動くのをやめる。しばらくどちらも動かない。
「“呼吸”するよ?」
僕は静かに宣言すると、心臓がドクンと“生まれた”のがわかった。
彼が息を飲んだ。
「僕はね、何でもあって、何でもないんだって。」
神様が言ってたんだ。なんだか泣き笑いのような顔になってる気がする。
彼はなんて言ったらいいかわからないみたいだった。ただそっと手を伸ばすから、僕はその手に頬をつけた。
彼は静かに言った
「俺はお前がずっと名乗ってくれないのだと思っていた。」
だが違ったんだな。
「お前には名があってはいけないんだ」
それでも
「お前に名前をつけたい。」
僕はふんにゃりと笑った。一番嬉しかったからだ。
だが、と彼は続ける。
「名をつければ名がお前の本質を否定してしまう。お前は何にでもなれなくなる。」
それでもいいのか?と聞かれて迷いは一瞬だった。だってこの人の側にいたいと思ったから。そっと頷く。
「……リーゼ。お前は御使いで真っ白な鳥で、人間でもあるリーゼだ。」
「リーゼ。私はリーゼ」
つぶやくとストンと落ちた。何かがカチリと噛み合ったような。
もう寝ようと言われて鳥に戻る。
そして
変化は次の日からやって来た。