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ともだち  作者: 猫野 朔
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爪と牙

 


 無数の羽根が空を切る鋭い音と共に、何かが地を駆ける重い音がしました。


 例えようのない湿った鈍い音と水が飛び散った音がした直後、獣の、地を這うような咆哮が激しく空気を震わせました。


 白い羽根のカラスは飛び上がっていました。咆哮に本能が突き動かされ、体までも動かしたのです。

 声の正体は、ドングリを望んだクマでした。クマは白い羽根のカラスをかばうように立ちふさがっていました。周囲に散らばる鮮やかな赤と黒い羽根。鋭い爪にカラスだった破片が引っかかり、まだぽたぽたと赤い雫が滴っています。


 突然の驚異に、黒い流れは枝わかれして上空へ進路を変えていきます。

 クマは空を睨みつけたまま、白い羽根のカラスに言いました。


「あの黒いカラスはどこだ」


「も、もう、いないと思います」


「感のいい奴め。まぁ、いい。このまま火の粉を振り払おう」


 群れの規模は少し小さくなりましたが、逃げる気配はありません。白い羽根のカラスに向かっていた激しい感情は、仲間を八つ裂きにされたことへの怒りにすり替わり、クマの一点に注がれています。


「伏せてないと頭を飛ばされるぞ」


 警告され、白い羽根のカラスは頭を低くし、伏せました。



◇◇◇◇◇



 いくら嘴と爪があって空を飛べようとも、クマを相手にして、カラス達に勝ち目などありませんでした。


 数で勝っても、あの重く鋭い爪に薙ぎ払られればひとたまりもなく、氷柱のように太く、爪以上に鋭い牙と強靭な顎は、いともたやすく黒い体を噛み砕きました。


 もう殺戮でした。


 結局、カラスの群れの数はとても少なくなって散り散りに逃げていきました。


 死んだカラス達が残した熱で、空気が陽炎のように揺らめいていました。地面に折り重なる羽根と肉片の上を歩き、クマは白い羽根のカラスに向かい合います。

 痛みのせいか、それともひどい殺戮を目の当たりにしたせいか、真っ白い羽根のカラスは気を失って倒れていました。


 もう、白くて美しかった体は見る影もありません。羽根は無残にむしられ、傷ついた皮膚まで見えます。わずかばかり残った羽根も、すっかり枝が折れ、誰のものかわからない血やら土やらで汚れています。


 クマは、胸に穴が空いてしまいそうなほど、心が痛みました。


「悪かった。お前がこんなひどい目にあったのは、おれにも責任があるんだ」


 返事はあるはずもありません。

 

 クマは、壊れ物に触れるようにそっと白い羽根のカラスを胸に抱え、その場を後にしました。


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