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ともだち  作者: 猫野 朔
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襲撃

 



 黒いカラスは、とても上機嫌でした。道しるべが想像以上に正確に機能してくれて、日が暮れる前に追いつけたのです。


 叶えたい願いの数は山ほどあります。もしかしたら、白い羽根が足りなくなるかもしれません。だからこそ、一枚たりとも無駄にはしたくはなく、誰とも分かち合いたくなかったのです。

 どの方法で暴れさせずに捕らえようか。どうやって羽根を傷つけることなく抜いていこうか。頭の中はそんなことでいっぱいです。


 白い羽根のカラスも黒いカラスに意識を向けています。

 だから、二羽は気づかなかったのです。


 空が黒く黒く染まっていたことに。


 ネズミがありったけの声を振り絞り、叫びました。


「逃げて!!」


 二羽が影に気づき、天を仰いた瞬間、真っ黒い流れが怒涛のように白い羽根のカラスへと向かっていきます。


「やめてくれ!」


 黒いカラスの叫びくらいでは流れは止まりません。

 黒い塊と無数の鋭い嘴が矢のように降り注ぎ、白い羽根のカラスにぶつかり、力任せに羽根をむしり取っていきます。それはカラスの群れでした。上から下へ、羽根を奪っては空へ。巻き込まれた小さな羽毛がいくつも舞い上がり、まるで雪のようです。


 黒いカラスは目の前の光景に悲鳴をあげます。


 痛みの雨と勢いに揉まれ、転びながら、それでも白い羽根のカラスはネズミのいる茂みから離れていきました。


 群れはやがて空へ上がっていきました。


 白い羽根のカラスは力なく地面に倒れていました。大半の羽根を失ってしまいましたが、幸いにも命までは持っていかれずに済みました。


 いつの間にか、黒いカラスはいなくなっていました。茂みの中のネズミの姿も見えません。


 空から不満の声が漏れ聞こえてきます。ぼろぼろになった白い羽根にいくら願いを囁いても、何も起こるはずもないのです。

 カラス達は、話が違うと小さなカラスのまわりを旋回しながら詰め寄ります。

 小さなカラスは戸惑いました。

 

 山ぶどうを味わっていたところを他のカラスに見つかり、何故まだ実るはずのない山ぶどうがあるのか問い詰められて知っていることを話しました。

 黒いカラスが小さなカラスに教えたのは、


『白い羽根をくわえて山ぶどうが実るように言えば叶う』

 

 たったこれだけなのです。

 山ぶどうが実った理由を聞いて、群れは色めき立ちました。秋を待たずに好きな時に実りを得られるなら、こんな素晴らしいことはないのです。


 期待が大きかっただけに、みんなの失望は大きく、殺気立ってさえいます。


 小さなカラスは必死に考えます。詳しいことを聞こうにも、どこにも黒いカラスの姿はなく、手分けして探しましょうなんて悠長なことを言えば、どうなるかわかりません。

 

 小さなカラスは叫ぶように言いました。


「あいつが……あいつが願い事が叶わないようにした!」


 殺気の矛先が、未だ倒れている白い羽根のカラスへ向けられます。


 群れは不気味なほどに静まり返りました。重い沈黙の中で、怒りと苛立ちがじわじわと膨れていくのがわかります。


 白い羽根のカラスは血肉が凍るような感覚を覚えました。膨れ上がる感情は、もうしぼませることはできません。じきに堰を切るのは確実です。

 痛めつけられた体では逃げきることはかなわないでしょう。

 命の終わりを悟るように固く目を閉じました。


 溢れる水の一筋ように、一羽が滑空していきます。引きづられるように、次々と殺気むき出しの塊が落ちていきました。

 

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