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ともだち  作者: 猫野 朔
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追いつく



 カラスが歩き出すと、ネズミもついてきました。身を潜めて休むと、ネズミもカラスの足元にしゃがんで休みました。


 一緒にいると危ないかもしれないことはネズミに伝えています。それでも、そばを離れたがらないのです。


「あなたの羽根はわたしの好きな色ですから、もう少しそばにいたいのです。」


 ネズミが言いました。

 

 小さな小さな手をきゅっと結んでから、


「あなたの羽根、青空に浮かぶ雲、真夜中の月、こぶしの花、タンポポの綿毛、冬に降る雪――」



 一つ挙げれば一本指を立ていくと、いつの間にかネズミの両手は大きく開かれていました。


「どれも、わたしの好きなものです。とても綺麗です」


「こんな羽根が?」


「ええ、そうですよ」


 自信たっぷりにネズミが答えます。

 蔑まれることはあっても、綺麗と言われるのは初めてで、カラスは信じられないようすで首をかしげています。

 

 そんな他愛もないことを話しながら、歩みを進めていきます。逃げると言う目的のために動いてはいるものの、行く宛などあるはずもありません。胸中にはずっと不安が居座っていますが、ネズミと話しているとその影を潜めるような気がしました。


 ふと、ネズミが空を見上げました。

 つられてカラスも顔を上げます。


 目が覚めるような青空の中で、白い羽根が一枚、ひらひらと風に揺れていました。

 

 となりに羽根の主がいるのに、何故、羽根だけが空にあるのか。理由を訊ねようとカラスに目を向けた時、ネズミの視界は真っ白な翼に包まれていました。


「えっ?」

 

 次の瞬間、小さな体は宙を舞い、そばの茂みの中に落ちました。慌てて葉と細かな枝から顔を出しましたが、すぐに隠れました。何故なら、白い羽根のカラスの前に黒いカラスが降り立ったからです。


『カラスに追われているので、わたしと一緒にいては危険ですよ』


 ネズミは白い羽根のカラスの警告を思い出しました。

 追いつかれてしまったのです。

 ネズミの小さな心臓の鼓動がどんどん駆け足になっていきます。

 それは、白い羽根のカラスも同じです。

 しかし、今は怯むわけにはいきません。震えをこらえて、黒いカラスを見据えます。少しでも意識をこちらに向けてもらうために。



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