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ともだち  作者: 猫野 朔
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再会

 


 小さなカラスが毟ってきた羽根で使えたのは、枝が折れず、血で汚れなかった綺麗な二枚だけでした。


 群れの中で一番俊敏な小さなカラスはあまり賢くありません。餌をチラつかせると二つ返事で黒いカラスの誘いに乗り、荒いながらも仕事をやり遂げてました。


 餌は願い事を叶えること。

 

 小さなカラスの願いは、甘く熟れた山ぶどうを食べることでした。白い羽根は見事に近くの山ぶどうの木をたわわに実らせ、小さなカラスをとても喜ばせました。


 黒いカラスは、嘴のまわりを紫色に汚しながら山ぶどうに夢中になっている小さなカラスを、バカにするように鼻で笑いました。

 これで礼は済みました。

 願い事は誰でも叶えることできる。これは非常に好都合でした。

 他のカラスらが嗅ぎつける前に、白い羽根のカラスを捕まえておきたいところです。


 最後の白い羽根をくわえて飛び立ちます。


 そして、願います。


「白い羽根のカラスのところへ導け」


 羽根が、嘴からするりと抜けていきました。けれど、地面へ落ちては行きません。黒いカラスの目の前でゆらゆら揺れながら漂い、やがておもむろにある方向へ、ゆっくり飛んでいきました。


 願いは叶えられました。


 行き着く先は、白い羽根の宿主です。




◇◇◇◇◇



 翼に心臓が張り付いていると白い羽根のカラスは思いました。鼓動に合わせてどくんどくんと傷が痛みの脈を打ち、自分の存在をカラスに主張するのです。だからと言って、傷が癒えるまでじっとするわけにはいきません。


 幸い、風切羽は無事なので飛ぶのは問題ありませんでしたが、空を飛べば見つかりやすくなるため、歩くことを選びました。 

 しかし、カラスの体は徒歩に適していません。そのため、少し歩いては、茂みや木などに身を潜め、体を休ませます。


 倒木の影で息を整えていると、不意に声がしました。


「なんと言う奇跡でしょう!」


 声の主は何やら感激の色でしゃべっているのですが、肝心の姿が見当たりません。


 ガサッと茂みが揺れたような気がして、カラスがじっと目を凝らすと、ようやく姿を見つけることができました。


 小さなネズミでした。

 初めての友達の、ネズミです。


 ネズミはつぶらな瞳をきらきら輝かせ、カラスの元へ駆け寄ってきました。


「やっと、やっと、お会いできました。約束を守れず、ごめんなさい。一度、巣に戻ったら、あなたのいた森がどこかわからなくなって、ずっと探し回っていたんです」


 まさか逢えると思っていなかったので、カラスはびっくりして言葉も出ません。けれど、ネズミはそんなことを気にもせず、小さな鼻を細かくひくひく動かしながら再会を喜んでいます。


 ためらわずにネズミを助けて良かった。カラスは心からそう思いました。迂闊だろうとなんだろうと、この子の命があるから、今、こうして喜ぶ顔を見ることができるのです。後悔など欠片もありません。


「ありがとう」


 カラスは言いました。

 助けを求めてくれたこと、約束をしてくれたこと、探し回ってくれたこと、見つけてくれたこと、そして、生きていることに感謝をしました。


 

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